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バタ足の罪びと  作者: 輪っかパパ。
1/8

大人の階段

 キキキーーーッッッ ドーーンッッ!!


 ここは真夜中の住宅街。

一台の軽自動車が電柱にボンネットをめり込ませていた(あちゃぁ)。

「やっべぇ!やってしもた!」

「とりあえず乗り捨てて逃げようぜ!!」


私の名は輪島政義わじま まさよし。まだあどけなさの残る十五歳の中学三年生だ。

親友のたかしと、隆の家の車を勝手に持ち出したあげく飲酒運転で単独事故を起こしてしまい、二人してとてもあせっている真っ最中だ。

「って言うか、マジですまん」

一気に酔いも醒めて、たじろぐ私に同じ様子で隆が答える。

「はぁ・・ま、なんとか誤魔化してみるわ」

当然はぐらかせる訳もなく(そりゃそうだ)、翌日にはこっぴどく叱られる事になったが仕方がない。

しかし、幸い隆の家が地主で大金持ちだった御陰で廃車になった軽自動車の代わりにBMWを購入(軽の代わりがBMて!)した事を後日聞き、少しホッとしたのを覚えている。


 学校は、器用に取りつくろった馴れ合いが蔓延まんえんした環境にいい加減ウンザリしてきた去年ぐらいから遅刻・早退を繰り返すようになった。

周囲から自分だけが浮いてしまわないように細心の注意を払い、同色に染まった現状に最も安心感を覚える連中。

ガキの癖に他人の顔色ばかり気にして何が楽しいのだろうかと、いつも疑問に感じていた。

一見真面目そうな奴でも大人の目を盗んでコソコソと自分より弱い奴を陰険な手段でいたぶり(一番嫌なパターンだね)、周りは自分に火の粉が降り掛からない様に見て見ぬ振りをきめこむ(それもある意味共犯だぜ?)。

そんな光景を見ていると、いじめっ子も傍観者達も全部まとめて虐めてやりたくなったもんだ。

そうすると面白いもので、今まで散々虐めていた奴の親が犠牲者気取りで大手を振って学校に抗議に来るのだから目も当てられない。

お前のとこの馬鹿ガキのしつけからしっかりやり直しなさいと提唱を鳴らしたい。

経緯を説明すると以外に教師も味方になって庇ってくれる(おぉぉ)ものの、やはり立場的な問題で限界がある。

私自身はそんな奴にどう思われようがどうでも良かったが、とりあえず先生には感謝しとくよ。


別の学年を担当している新米の教師が舐められまいと絡んで(他の生徒の前でカッコ良いとこ見せたかったんだね)きて揉めた時も

「輪島は理由も無く暴力を振るうような奴じゃない!アンタ輪島に一体何をしたんだっ!?」

新米を怒鳴りつけるアンタのあの台詞はマジ泣けたぜ。



 学年が三年生になり、年齢を偽って清掃会社に就職してからはほとんど学校には行かなくなった。

急に仕事でもしようと思い立ったのは、学校で教えてくれる勉強を放棄した以上、代わりに手に職をつけるなりの将来を見据えた学校の授業よりも価値を見出せるものを身に着ける必要があったからである。

そうでもしなければ私は只の廃人はいじんになってしまうという危機感があったのだ。


たまに休みとかで平日の昼前後に学校を訪れると、かなりの確率で校舎の中にも辿り着けずに校門で誰かしら教師に呼び止められ、そのまま車に乗せられて何処かの店にご飯を食べに連れて行かれる(ごっつぁんです!)事が多かった。

「よう来たな!んで、どうや最近仕事のほうは?」

どの先生も笑顔で気を使ってくれたのは感じていたので、下手を打たせない様に店では目の前で煙草を吸ったり、アルコールを注文しちゃうような野暮な事は一応自粛したもんだ。

穏やかな時間を満喫して店を出ると、決ってそのまま車で家に送り届けられる。

私を校舎に入れたくない理由はハッキリしていて、制服必着の学校に私服で登場するからに他ならない。


たまに校舎の中に潜入出来たとしても、親友の隆や極少数の限られた面子と雑談しながら廊下で堂々と煙草を吸っているものだから、直ぐに何処からか先生が凄い勢いで走ってきて(ちぇ)アッという間に追い出されるか会議室に連行されるというのが常だった。

しかし、ここのルールにそぐわないのは自分の方だという自覚があったので、見つかった以上素直に撤退する。

こんな場面で一々噛み付いて、こちらの無茶をゴリ押しするような事はしないのが私なりのささやかなマナーだったからだ。



 残暑の呪縛からも解き放たれて、ようやく過ごしやすくなってきた十月某日。

今日は私の彼女が通う、ウチの隣のMM中学の体育祭だ。

この日ばかりは応援に駆けつけるべく仕事もお休みを頂いてきた。

何故か隆も一緒に応援に参加だ。

当然、皆が同じような体操服で、これでは愛しのNちゃんを探し出すのに一苦労しそうだと腹を括る。

今更ながらにゼッケンの色だとか大体の席の位置だとかもっと詳しく聞いておけば良かったと後悔するも、他校の体育祭という独特の雰囲気を隆と楽しんでいた。

暫らくして、ようやくNちゃんを発見したので近寄ってほんの数秒話したところで、そのMM中学校で最も鬱陶うっとうしくて凶暴だと悪評高い『エツロー』という教師に見つかってしまう。

「あれ!?オイ、お前ここで何しとんやっ!?」

こいつとは以前に少し小競り合いになった事があり、うっすらと顔を覚えていやがったようで、既に戦闘態勢でこちらに向かってきているではないか(グハッ)。

なんとも突然の呆気ない幕切れではあったが、私は愛しのNちゃんと数人の知り合いに別れを告げ(グスン)、景気付けに隆に大声で合図を送った。

「風のように逃げろぉぉぉっ!!」


あの時の全力疾走で駆け抜けるスピードは、フィールド内で競技中のどの選手よりも速かったかもしれない(いひひ)。



 正月を迎えて暫らくした頃、隆から思いがけない告知をされる。

「ワジー(私のニックネームだ)、俺も働いてみよかな思てんねん。」

「ほんまかぇ!」

突然の話に少し驚いた。

隆は私と違って頭も賢く、ちゃんと通ってさえいればそこそこの高校にも必ず入れるような奴だったのでとても複雑な心境になった。

それでも、その決意の固さに押し切られるように私も素直に応援することにした。

彼の偉い所はそんな時でも私にぶら下がろうとせず、しっかり自力で就職先を見つけてくるとこだ(うんうん)。

そんな隆だったからこそ、その後もずっと『五分ごぶ』で付き合える仲になったのだ。


さて、いよいよ隆の最初の給料日がやってきた(おめでとー!)。

既に予約していた購入したての原付バイクにまたがり、先ほど盗んだばかりの原付バイクに腰掛ける私とそのまま居酒屋に繰り出す。

中学生のガキ二人が酒を飲みながら生意気に仕事の愚痴みたいなもんを吐いてるのだから、なんとも滑稽こっけいな姿である。


丁度良い具合のほろ酔い加減で店を出ると、原付二台で少しぶらっと流すことになった。

その日は吐いた息が真っ白になるほどかなり冷え込んでいた。

そんな時に事件は起きた。

新車の嬉しさと酒の影響もあったのか少し浮かれていて自分が今運転中だという事をすっかり忘れて(ピーンチ!)、すっぽりかぶったフルフェイスのヘルメットを白い吐息で充満じゅうまんさせて遊んでいた隆に、もはや視界など存在しない(ヒィィィッ!)。

 パシャーーッッン!!

私の少し後方からシャッターを思い切り閉めたような凄い音が響きわたったので、何事かと振り向いてみると隆の姿が何処にも無い。

慌てて戻って探していると、駐車中の軽トラックの後ろにバラバラになった今日入手したばかりの隆の新車が無残に転がっているではないか(アウチッ)。

「おーい、隆ぃ~っっ!」

大声を張り上げるが隆の姿が何処にも見当たらない。

諦めず何度も叫んでいると、虫のような弱々しい小さな声が軽トラックの荷台の方から聞こえてきた。


うわぁ・・まさか死にかけてんちゃうヵ・・・(ゾー)


嫌な想像が頭をよぎる中、恐る恐る近づいて荷台を覗き込んでみた。

「うぅ・・ワジー・・足痛ぇ・・・」

まともに真後ろからトップスピードで突っ込んで、見事にド派手な空中大回転で荷台に背中から着地した隆は、奇跡的にも左足の膝を骨折するだけで済んでいた(超らっき)。

「これ、盗んだ単車ちゃうんかっ!?」

近所の住人の通報で救急隊員と共に駆けつけた警官が隆を責め立てるが、まさかの本人所有物に相手も悔しそうだったっけ(がはは)。



 仕事でなかなか見舞いにも行けないまま地元の総合病院から仮退院してきた隆と久しぶりに会った時のこと。

なんとなくの『ノリ』で、近所のMKG中学校にチョッカイでも掛けに行こうかという話になったので、さっそく私とギブスに松葉杖姿まつばづえすがたの隆と二人で(ええっ?)出動することになった。

道中で隣のMM中学の知り合いとたまたま出会ったので、そいつも一緒に連れて三人で目的のMKG中学校に到着した。

ボーッと突っ立っていても仕様が無いのでとりあえず校庭の真ん中を横切ってヤンキーをあぶり出す作戦に出てみると、これが見事に成功する。

「なんか用かっ!?」

暫らく校門の前で待機しているとしかめっ面した五人組が現れ、リーダーらしき男が生意気な口調で威嚇いかくしてきた。

我々はただ暇つぶしにチョッカイを掛けに来た旨を素直に伝えて、相手が誘導する公園まで黙って着いて行ってあげることにした。

すると、その公園の何処かに隠していたのか突然あの『お土産でお馴染み』の長い木刀が四本ぐらい現れた。

「汚いんじゃコラッ!」

咄嗟とっさに相手をののしってみたものの、実は私も上着に隠して半分ぐらいのサイズの短い木刀をこっそり持参していた。

しかし、そいつを出すタイミングをすっかり失っていた事は当然内緒だ(タハー)。

少し膠着状態こうちゃくじょうたいになった所へ偶然通りかかった正義感の強そうな二十代前半の青年が走り寄ってきた。

「おーい、待て待て!お前らそんなモン持ち出して何しとんやっ!」

チャンスとばかりに空かさず私は悪知恵を働かせ、その青年を扇動ようどうして相手の木刀を取り上げさせると、ここぞとばかりに攻撃開始だ(超卑怯なんですけど)。

私が短い木刀で一人の喉を突き刺すと、横では隆が松葉杖を武器にして戦っているではないか(ウケるー)。

仲裁青年もパニックになり、そのまま超グダグダになったが一応最後は相手が負けを認めて謝罪して終了となった。

この人数的なハンディキャップを乗り越えて掴み取った勝利の一番の功労者は仲裁青年であった事は間違いない(うむ)。


翌日、再入院してから隆は退院までの数週間MKG中学の男の子達に何度も見舞いに来させて、女の子を紹介しろと強要していたらしい。

その御陰で我々の新しい女友達が新規開拓できた(ウフフ)ので、これは隆の大変なお手柄であった。



 遠くから春の足音が聞こえて来だした三月。

大人の階段を上るべく、我が愛しのNちゃんの卒業式の日が遂にやってきた。

数日前からNちゃんのお義母かあさんとも打ち合わせをして、私も父兄ふけいとしてMM中学校の卒業式に参加する計画を立てていた。

もちろん今回も何故か隆も一緒だ(タハー)。


比較的に親が厳しい隆が、まず私の家に制服で来てから予め準備しておいた買ったばかりのスーツに二人共ビシッと着替える。

その後、お義母さんと待ち合わせ場所で合流してから三人でいよいよ校門に差し掛かったところで覚えのある耳障りな声が聞こえてきた。

「オイオイッ!お前ら自分の学校の卒業式わいっ!???」

エツローの野郎だ(ちっ)。

うつむき加減でしれっと入場してやろうとしていたのに、どうしても奴からは逃れられないのか(やっぱワインレッドのスーツは派手過ぎた?)。

ふと横を見ると少し困った表情のお義母さんの姿が・・・

いつも大事な場面で邪魔をしやがるエツローが、今回も遠慮無しにズイズイとこちらに向かって前進してくる(むむっ)。

悔しくて仕様がなかったが、これ以上お義母さんに迷惑を掛ける訳にはいかない。

そう判断した私は、断腸の思いでまたあの言葉を叫ぶしかなかった。

「風のように逃げろぉぉぉっ!!」


とんだアクシデントで丸一日時間が空いてしまったので、仕方なく自分のトコの卒業式に出ることに予定変更だ。

十分程歩いて到着すると、そこでも校門でアクシデントが待ち構えていた。

「おぃ、スーツなんかで出れる訳ないやろ!制服着て来い。制服を!」

「コラッ、わざわざ来たったのに、その言い草はなんじゃいっ!」

これはもう逆ギレという名の負け惜しみでしかなかった。

こんな無謀な突撃が許されるはずが無いことは我々も充分承知していたのだ(ふむ)。

やむを得ず急いで自宅に制服を着替えに帰り、再び校門まで戻って来ると、門番の教師から信じられない言葉が飛び出した。

「あぁ~、もう始まってしもたから中に入られへんわ・・・」

「なあにぃぃぃぃぃっ!!」

今度ばかりは簡単に引き下がる訳にいかない我々は、なんとか入れるように頼み込んでみたがどうしても受け入れられなかった。

次第に門番の人数も補強され出して、そのまま式場になっている講堂には立ち寄る素振そぶりもないまま二人とも会議室へと連行された。

学校に毎日通っていた頃に、しょっちゅう隔離されていた場所だ。

他の学年の担当の教師数人がサンドウィッチや飲み物を差し入れとして持ってきて、結局は式が終わるまでそこから退出させないように我々と談笑という名目の監視をしていた(チッ)。


最後の最後の日まで会議室とはのぉ・・・



平成三年三月某日。

私達二人は閉め切ったカーテンの隙間から零れて入る日差しを見つめながら、自分達のお茶目さをちょっぴり恨んでいた。






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