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善意(恐怖)の破壊令嬢  作者: あいすらん


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7/16

7

 お騒がせ聖女リタが転校してきて、しばらくたったある日の早朝。


 雲一つない夏晴れの日に 全校生徒をあげての魔力測定会が開催された。




 運動場のあちこちに設けられた簡易測定ブースには、体操服姿の生徒たちが長蛇の列を作っていた。




「うーん……環境が変わっても、数字の変化はありませんね。奇跡を期待していましたが残念です」




 測定表を眺めながら、リタは小さな溜息をつく。




「のびるも何も、オール0じゃねーか! 治癒力、再生力、生成力全滅……お前、エリート特区で何してたの!?」




 表を覗き込んだハンスが叫ぶ。




「鍛錬に継ぐ鍛錬に継ぐ鍛錬です! 私、素振りが大好きなんですっ!」




 リタは空中で何度も手刀をきる。




「その割にちっとも結果に結びついてないよな」


「ええ……特区の7不思議と言われてました……」




 悲し気に呟くリタ。


 その結果、ふるさとを追放されかけたのだから、拾ってくれた王立魔法学校、特にローランド校長には頭があがらない。




「努力しても結果が出ない。それって才能がないってことじゃね?」


「ハンスさん! そんな考え方はよくないです! 私たちには無限の未来がひらかれているのに!」




 リタは険しい顔の後、ふわりと笑った。




「とはいえ安心してください。私、何を言われても挫けませんから」


「いや、むしろ挫けろ。挫けてくれ……それが俺の切なる願いだ」


「そう言うハンスさんはどうなんですか?」




 リタもハンスの成績表を覗き込む。




「35、65、45、50……めちゃくちゃ微妙な数字ですね」




 ハンスは頬を赤くする。




「オール0が言える立場か! っていうか、なんでさっきから俺の後ろにいるんだよ。もっと離れろ! 別なところに行け!」




 リタはぎくりと肩をすくめる。




「実はハンスさんの顔が悪すぎて、心配で……」


「はああああああ!? 俺をどうこう言える顔面かよ!?????」


「あ、顔じゃなくて顔色でした。何かストレスがあるのでは?」




 ハンスは大きく息を吸い叫んだ。




「ありまくりだ!!」




 ハンスは身震いしながら両手で自らの身体を抱きしめた。




「俺はな、お前に何度となく殺された。それがどれほどのストレスかわかるか!?」


「た、大変ですねっ……肩でもお揉みしましょうか」


「いらんわ! くっそーーーー! この元凶め。俺はな、お前を絶対に許さない!」




 ツン、と顔を背けるハンス。


 リタはしょんぼりと肩を落とす。




(ハンスさんは心を開いてくれません。私を聖女見習いどころか、死神だと思っていそうです……)




 そして、すぐに拳を握る。




(しかし、それも想定内!!)




 ハンスには大きな借りがある。


 何度も砂にしてしまい、心にトラウマを植え付けてしまった。


 人を救いたいリタにとって、痛恨の極みと行っていい出来事である。


 なんとか、己の力でハンスを救わねば。




(克服には慣れてもらうのが一番です。いかにも聖女的穏当な作戦……! もしかしたら私、天才かもしれません)




 満足げにほほ笑むリタの耳に、ひそひそ話が聞こえてきた。




「ほら、サイコパス聖女が、破壊魔法の列に並んでる」


「もしかして90越えが出るんじゃない?」




 周囲を見まわすと何故か幾人もの人と目があう。


 どれもこれも期待にキラキラと輝いていて、リタの背中に汗が流れた。




(買いかぶられている! そしてそれも想定内!)




 「次の人」




 測定係の教師がハンスに声をかけてきた。


 ハンスが測定器に手を置くと35という数字が浮かびあがった。




「うわああああ、かわいらしい数字ですねー」




 思わず本音を言ってしまったリタに、ハンスはいきり立つ。




「お前な。全ジャンル0衛門のくせに!」


「わわわ、おっしゃる通りですう」


「とっくと見てやるわ。お前の破壊力!」


「はい! 期待してください!」




 リタはうなずく。




(この測定で真実が明らかになれば、『サイコパス聖女』なんて間違った看板を下ろすことができるはず!!)




 全力で実力発揮(0)すればいい。


 リタの破壊は深すぎる慈愛がなせるもの。破壊力があるわけではないからだ。


 教師が声をかけてきた。




「リタ君。どうぞ」


「はい!」




 リタは片手をピシリとあげた。




(あれ、私、今名前を呼ばれましたね)




 ハンスの時までは「次の人」だった気がするのに。


 そして気が付くと、リタはギャラリーに囲まれていた。




「サイコパス聖女が測定するぞ」


「数値はどれくらいだ?」




 生徒と、それから先生もいる。




(ち、注目を浴びていますっ。私が崖っぷち聖女、つまり無害だという事を周知するには願ってもないチャンス!)


「行きます!」




 大声で気合を入れ、 測定器に手を置く。測定器がぐぐぐっと動いた。




「破壊魔法レベル……100!!!!!!」




 教師が声を張り上げる。




 うおおおお、とギャラリーたちが一気にどよめく。




「え?」




 リタも驚いている。


 己の破壊力は行き過ぎた慈悲のせいと言われていたので、破壊魔法が使えているとは全然思っていなかった。




「こんな数値、初めて見た」


「ヤバい」




 なんだか、想定していたのとは逆の結果が出てしまった。


 あわあわと対応に苦慮していたら、




「ふふっ。さすがだね。破壊令嬢リタ君。やはり1000人に1人の天才だ」




 みんなより頭一つ高い位置から、ローランドがそんな言葉を投げかけてくる。




「天才だって」


「すごいな」


「サインもらっとく?」




 さざ波のように広がっていく称賛の言葉たち。


 リタは真っ赤になってしまった。




(思念が伝播しましたかね。自分で自分を天才かもなどと持ち上げてしまいましたから!)




「くそおおおおお、死神のくせにいいいいい」




 何故だかハンスが唇をかんでいる。




(おおおおおっ。ハンスさんまで、その単語にたどり着いてしまいました!!! 思念の伝播恐ろしい!)




 リタはおろおろと周囲を見る。死神はともかくも、天才はダメだ。


 己の現実を赤裸々に伝えるのが責務だとリタは思った。




「皆さん! 違いますっ!」




 リタは叫んだ。




「私は破壊魔神でも天才でもありません。崖っぷち全方位ポンコツ聖女見習いです。だって、治癒魔法力をはじめとするほとんどの魔法は0測定。無能です。ただ、一つだけ言えるのは伸びしろのある無能。今後とも鍛錬に継ぐ鍛錬を繰り返し、立派な聖女になって見せます!!!!」


「リタ君はやる気満々だね。惚れ惚れするよ」




 ローランドが言う。




「私が勇者の地位を捨て、『王立魔法学校学校』の校長になったのは、落ち目と言われているこの学校を再建したかったからだ。ドラマでよくあるだろう? 熱血教師が学校と生徒たちを変えていく。涙と汗と友情にまみれた青春を再び味わいたくってね」


「その結果は?」


「一週間で飽きちゃった。だってみんな覇気がないんだもん。つまらない……」


「教師の方がやる気をなくしてしまったんですね」


「だがしかし!」




 キラキラと瞳をまたたかせ、ローランドはリタの肩を両手で挟み込む。




「君が来てくれて嬉しいよ。毎日何かしら事件が起きる。生徒たちもさぞかし刺激を受けていることだろう!」


「いや……」




 ギルがすかさず口を挟む。




「ほとんどの生徒が他人事です。珍獣を面白がっているか、迷惑がっているか……遠巻きにしているのが現実で『やる気』に注目しているのは校長くらいかと」




 ハンスは呟く。




「魔導士の未来なんて生まれ持った能力でほぼ決まってる。無駄な努力して失敗するよりそこそこやって、賢く生きた方がお得じゃん」




 賛同の声が聞こえてきた。




「エネルギーの節約だよねえ」


「ほら。このような感じです」




ギルは続ける。




「今は被害がハンス君に集中していますから、ある意味脅威とも認識してない生徒がほとんど。リタ君はモニター越しにみているハリケーンみたいなものですよ」


「ただの迫力ある天災……か。まさしく平和ボケだねえ。よろしくない。若者は熱くたぎってなくちゃ。余裕なんて、年老いてから持てばいい」




 ローランドは両手を口に当てて拡声モードで言った。




「生徒諸君! ちゅーもーく! 今から破壊魔法クラスの成績優秀者と破壊魔法レベル100のリタ君による、破壊魔法対決を開始するよ!」




 各地に散った生徒たちが、一斉にローランドに向かう。




「また、思いつきで適当な事を……」




 ギルが溜息をついたが、ローランドはウキウキした様子である。




「測定もそろそろ終わるころだしねえ。我ながらナイスアイデア」


「破壊魔法対決?! 無理です! 無理無理無理!」




 リタは頬を赤らめつつ言った。




「お言葉ですが私は一応聖女見習いでして、癒しの能力をのばしたいのですっ! それ以外の鍛錬にかまけるわけにはいきません!」


「破壊魔法を極めれば、癒しの能力が身につくと言ったら?」


「勿論やらせていただきます!」




 しゅた、と敬礼するリタ。


 ギルは痛ましそうな目で彼女を見ながらローランドに耳打ちする。




「そんな話聞いたことがありません」


「仮説だよ、仮説。君も知りたくないかい? リタ君のパワーを」


「私はローランド校長の気まぐれで、リタ君のうちなる何かを目覚めさせてしまう方が心配です」


「君って生徒の伸び代を断ち切るタイプだね」


「彼女に必要なのはアクセルではなくブレーキですよ」


「いいや。彼女はもっとアクセルを踏むべきだ。自分がどこまで行けるのか……試さなきゃ」




 ローランドがパチンと指を鳴らすと運動場の真ん中に、大きなサンドバッグが二体現れた。




「せいれーつ!」




 よく通る掛け声と共に、そこにいたものたちが一斉に、サンドバッグを取り囲むように移動する。




「リタ君に続く第二位は80レベルのザネリ君だね」


「はい」




 線の細い少年が一歩前に進みでる。




「今から君にリタ君と対決をしてもらうよ」


「ぼ、ぼ、僕がですか?」




 ザネリは気弱そうに尋ねてきた。




「別にとって食われるわけじゃなし。何を怯えてるの」


「そりゃ、サイコパス聖女と聞いてますから」


「倒せば素晴らしい栄誉だよ」


「正直、そんなの欲しくないです。食べられるわけではありませんし」


「ったく。どうしてこんなに覇気のない生徒ばかりなんだ。もう、リタ君に全てを託そう」




 ローランドは言った。




「あのサンドバッグには、私が特別な魔法をかけてある。どちらが速くダメージを与えられるか競争だよ!」


「質問があります!」




 リタはぴたっと手を上げる。




「なんだい? リタ君」


「破壊魔法の鍛錬を頑張れば、本当に治癒魔法が使えるようになるのですか?」


「多分ね」


「頑張ります!!!」




 リタの目の色が変わってきた。


 さっきレベル100を出した時には困惑しかなかったが、目標に近づく手段と思えば喜べる。


 鍛錬はとにかく好きなのだ。今まで何をやっても伸びなかった自分に破壊魔法という、一周回って新しい鍛錬が提示された。


 心が湧き立つ。




「サイコパス聖女って、人を砂にするんだろ?」


「サンドバッグなんて、即破壊だろうね」




 周囲のざわめきがリタの耳に届く。


 相変わらず買いかぶられている。




(だがしかし! 今度は全力を出します! 立派な聖女になるために!)




 ローランドが「かまえ! よーい、はじめ!」と合図をし、ザネリと並んだリタは、己の右手に全身の念をこめた。




 ぶしゅ!!!! と小気味のいい音がする。




 破壊魔法が一撃にサンドバッグを破壊した音だった。




「すごいね。やるじゃないか」




 ローランドが両目を見開く。




「い、いやあ」




 その視線の先で、ザネリが照れたように頭をかいていた。




 リタはパチパチと両手を叩く。




「すごいです!!!! さすがは破壊魔法クラス一番のお方!!」


「あ、僕一番じゃないです。すごい奴、お休みしてるから……」


「えっ。これよりもすごい人が?? 破壊魔法クラスって末恐ろしいですね!」




 ギルが現物メガネをくい、とあげる。




「そういうリタ君は……」


「破壊魔法の出し方すらわかりません……!」




 何十回となく右手をサンドバッグへ向けて念をこめていた。


 しかし、うんともすんとも言わない。


 手からは何も出てこないし、当然サンドバッグはびくともしない。




「え、これ、どういうこと?」


「見掛け倒し?」


「サイコパス聖女の能力ってハンス限定?」




 風向きが変わってきたのがリタにはわかる。


 期待が失望へと変わったのだ。




(皆様をガッカリさせたのは忍びない……罪悪感で胸の奥がチクチクします。しかし、これも想定内!)




「やっぱり私に破壊魔法の能力などありませんでした! 測定間違いでしたね。申し訳ありません」




 間違いは正しく訂正を。失敗はさっさとリカバリーを。


 それがリタのポリシーだ。




(私が天才などではなく、正しく崖っぷちポンコツだと、遅れて知らしめることができました。結果オーライです!)




「そうだそうだ。このゴミ女が天才なんてありえないだろ。カゴ背負ってゴミ拾いしてりゃいいんだよ」




 ハンスが満足そうに腕を組む。


 ギルは言った。




「数値に間違いはありません。ただ使えない魔法は確かに0と同じですかねえ」




 ローランドは残念そうだ。




「リタ君はやる気は凄まじくあるんだけど、達成への執念や負けん気は0みたいだね」


「いいじゃないですか。リタ君が勝ち気だったら余計に面倒なことになりますよ」


「いや、こんな結末はつまらない!」




 ローランドはパチンと指を鳴らす。


 と、サンドバッグが新しい的に変わった。


 なんと、カカシである。顔の綿が足りないのか、くしゃっとした惨めな表情を浮かべており、着ている服もボロくて、悲壮感漂う佇まい。




「リタ君。次のターゲットはこれだよ」


「こんなの、さっきよりよっぽど簡単でしょう。ただのカカシですし、って、うおっ?!」




 ギルはピン、と立ち上がったリタの髪の毛を見て愕然としている。




「せ、先生っ! 嫌ですっ! カカシさんを破壊するなんてっ!」


「ダメだ。やるんだ」


「無理ですっ! 無理無理無理!!!」




 さっきと違ってリタは頑なに拒否している。




「リタ君。動揺する必要はありません。これはカカシです。ただの人形ですよ」




 ギルは不思議そうに口添えをした。




「でもあの悲しそうな顔がっ! たえられません! むしろ綿を……詰めさせてください……!」


「ああ、リタ君の指先から炎のようなものが出ているね……!」




 ローランドは満足そうである。




「どういうことでしょう?」




 パニック寸前のリタを前に、ギルが首を傾げている。


 ローランドは解説した。




「彼女の破壊力は慈愛から発動するんだよ。サンドバッグではピクリともしないその慈愛が、くたびれたカカシを、さらに自分が破壊すると考えた瞬間、発動したんだ。今彼女はカカシにヒールを出したい気持ちと必死に戦っている。カカシがサンドバッグだと理解しているから、その先に破壊があると気づいてるんだね」


「はあ……さっぱりわからないですね」


「つまり、スイッチが入ったって事」




 ローランドはリタに声をかけた。 




「リタ君、さあ、思い切り破壊魔法を発動するんだ!」


「嫌ですっ! カカシさんが可哀想!」




 ハンスがムッとしている。




「何をためらう。俺には躊躇ないくせに」




 ローランドがそれを聞いて頷いた。




「その通り。躊躇なくヒールをかけなさい。カカシ君を元気にするために!」


「校長先生の嘘つきー! 嫌ですったら!」




 なんとか破壊させようとするローランドと全身で拒否するリタ。


 ザネリがおずおずと言った。




「あの、僕、もう下がってもいいですか……」


「どうぞ」




 ギルが頷く。


 ざわめきが広がる。




「俺たちは何を見せられてるんだ……」


「わからない……」


「校舎に戻りたいよね」


「こっそりふけちゃう?」




 ローランドが真顔になる。




「ただでさえ低い生徒諸君のテンションが最低レベルに……! これはいけない!」




 そしてリタの手を握った。




「無理強いは嫌ですが! 仕方ない!」




 固く握られたローランドの手から凄まじいエネルギーが流れ込み、リタの体を熱くする。




「な、な、な、何するんですか!?」


「強制的に君のヒールをカカシに……!」


「ダメですったらー!!!」 




 リタはカカシを避けてぐい、と己の手を引き上げた。


 と、指の先から眩い光が飛びだした。




「おおおおお」




 見ていたハンスや、それ以外のものも、動作を止めてその光を目で追った


 眩い光がははるか遠くの山に向かっていく。




「ん?」




 ハンスの眉が跳ね上がった瞬間、世界が白く染まった。


 轟音が大地を揺るがし、衝撃波がグラウンドにまで伝わった。


 バタバタとグラウンドにいたものたちを押し倒す。


 目が見えるようになったとき、彼らの目の前には信じられない光景が広がっていた。


 ほんの数秒前までそびえ立っていた山は、跡形もなく消え去っていた。




「うそだろ...」




 ハンスの震える声が沈黙を破る。


 全員の視線が、呆然と立ちすくむリタへと集中した。


 黒髪をなびかせ、驚きに目を丸くしながら彼女は言った。




「大変です! 山が……なぜこんな事に!!!」




 いや、お前のせいだろ、と、そこにいた全員が心の中で突っ込んだ。

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