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善意(恐怖)の破壊令嬢  作者: あいすらん


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4/5

 王立魔法学校二日目の朝。


「いっちにちいっちぜん、ふんふんふ~ん♪」


 楽しげな歌声と、ゴキブリが這うような、カサコソとした足音が朝の通学路に響き渡る。


「......一体あれは何なんだ」


 大きな竹かごを背中に背負い、同じく竹で作られたトングを振り回しているリタの姿に、通学途中の生徒たちはぎょっとしたような視線を向けていた。

 そんなこととはつゆ知らず、


「あ、あんなところにゴミが。えいっ」


 リタは素早い動きで植え込みの影にある紙くずを拾いカゴの中に入れた。

 それはまるで、熟練した職人のような、はたまた忍者のような動きだった。

 特区では毎日行っていた一日一善。


『どれだけ鍛錬を繰り返しても全く成長が見られないのは、私の心が黒いからでは?』


 ある日そんな仮説を立て翌日からゴミ拾いを始めた。

 善行を積めば聖女になれる。

 あらゆる鍛錬をやり尽くし、素振りをしまくった挙句の願掛けである。

 籠いっぱいにゴミがたまったらその日のノルマ終了。

 心を磨けばゼロも1になるかもしれない。

 エビデンスは弱いがまあ、何もやらないよりはマシだろう。


(まだ成果は出ていませんが、街路が綺麗になる上に私の無害をわかりやすくアピールもできます。一石二鳥とはこのことです)


 ゴミをかごに投げ入れながら、リタは心の中でほくそ笑む。

 無害かつ無能で、みじんこよりも危険性の薄い生物。

 それがリタの自己認識だ。

 と、リタの耳がピクリと動いた。


(私のセンサーが察知しました。不穏な雰囲気が漂っています)


 リタは片目を閉じて耳をそばだてる。


「噂のサイコパス聖女だ」

「見るな! 目が合うと石にされるぞ!」

「何やってんだろ。もしかして、武器でも作る気か?」

(か、買い被られているっ!)


 リタは目を白黒させた。

 特区出身ということで天才呼ばわりは覚悟していた。しかし新たなバージョンが現れるとは……。

 弱気になりそうな心を奮い立たせ、リタは心の中でこうつぶやく。


(いいえ。これも想定内!)

「あの!!!」


 くるりとリタは後ろを振り返った。

 噂をしていたらしき、三人組の男子生徒が、思いっきりびっくりした顔で立ち止まる。


「私は、武器職人でもメデューサでもありません! もっと言えば聖女も違います! ポンコツで無害なただの崖っぷち聖女見習いです!」


 できるだけ相手を怖がらせないよう、穏やかな笑みを心がける。

 それなのに3人はガタガタと震え始めた。


「ご、ごめんなさいっ。もう言いませんっ」

「許してくださいっ」

「うわあああああ」


 悲鳴をあげ、リタの横を風のように駆駆け抜けていく3人組。


「あ、あの……待って……ここで肝心なのは、私は無害、ってところなのですが、そこはご理解いただけたでしょうか?」


 リタはそう言うと彼らを追いかける。


「ぎゃーーーーーー」

「ついてくるーーー」

「怖いよーーーー」

「ですから、イエスかノーかでお答えいただければ!」

「やだあああああ、殺されるーーーーーーー」


 衆人環視の中、リタは三人を追いかける。


「サイコパス聖女が、また人を襲ってるぞ」

「ヤバすぎ!」


 人の波が、リタを避けるようにわかれていく。


「ああ、特区からの新人、破壊令嬢のリタ君は元気だねえ。他の生徒たちとは発散しているエネルギーがまるで違う」


 窓から運動場を見下ろす、ハンサムな人影。

 校長のローランドだ。

 ここは王立魔法学校校長室。

 鹿とヒグマの剥製が飾られた重厚な雰囲気のする部屋だ。

 剥製の真ん中に大きな額が飾られており「世界三大賢者ローランド」とりっぱな筆文字で書かれている。

 ローランドは治癒魔法に破壊魔法、あらゆる魔法技術に優れたオールラウンダー。一ヶ月前に王付きの勇者をやめ魔法学校の校長に就任した時には国中の人間が驚いた。齢三十五歳にして賢者の称号を手にした凄腕が、わざわざ現役を退いて後進の教育に?

 それは魔法学校、いや王国七不思議の一つと言われている。


「どうしてリタ君をわが校に呼び寄せたのですか? あの特区ですら匙をなげた札付きの問題児を……」


 ローランドの隣で、ギルが言う。


「リタ君の慈愛は特区民の100倍。その強すぎる慈悲の心が破壊へとつながる。それはわかっていた事でしょう」

「そうだよ。だからいいんじゃないか。うちの生徒たちはおとなしすぎる。ここ数年、お役所魔導士ばかりで勇者になる者がほとんどいないのは、教師の指導に問題ありだと私は思うよ」

「おとなしくて穏やかで争いを好まない。素晴らしい資質じゃないですか。ここ数年、ずっと平和が続いておりますし、むしろ世情を読み適応する能力に長けているのではとさえ思います」

「でもねえ。有事に平和主義は役に立たないよ。実際、リタ君たった一人で右往左往してるじゃないの」


 悔しいがローランドの言う通りだ、とギルは心の中で溜息をつく。

 昨日は二度も蘇生魔法を使ってしまった。自分以外、使えない魔法だからだ。

 ギルにとって最優先は、定時に学校を出ること。

 昨日は当然残業だった。

 植え込みに散らばったハンスのかけらを探すのに、大層時間がかかったからだ。

 くるりと窓に背中を向け、ローランドはギルに向き合った。


「リタ君はね、平和ボケした学園という沼に垂らされた一滴の毒なんだよ。その毒が、どんな化学変化をもたらすか、私はとても楽しみだよ」


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