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「おおおおお、すごい。凄まじい速度です!!!」
少し長めのお昼休み。
雲のちょうど下あたりの空で、リタが叫んでいる。
ぎゃおおおおお、と迫力のある獣声と共に、モンスターが旋回した。
巨体にリタを乗せ、咆哮を上げながら、空を飛び回っているのだ。
「まさか、空を飛べるようになるとは。流石は破壊令嬢。欲しい。バディに」
破壊クラスの窓から眩しげに空を見上げるアレックス。
「校長がモンスターライドを命じてるお陰で、平和だ。ずっと空にいてくれ。永遠に」
治癒魔法クラスのハンスは、もう懲り懲り、といった風情で言う。
一週間前の演習で、生まれて初めて治癒魔法に成功したリタだったが、どうやら、事はそう簡単ではなく。
妙にモンスターがパワーアップしてしまった。
今やモンスターは彼女の下僕。
なかったはずの翼が生え、今ではリタの足として、ドラゴンさながらに空を飛び回っている。
「リタ君の治癒には、プラスアルファがあるようです。ハンス君、一度試してみますか? もう何度も彼女のヒールを受けてるわけですから、そこそこ耐性があるでしょうし」
同じく窓からリタたちを見ていたギルが言った。
「絶対嫌です!」
ハンスは首を左右に振った。
「君はお金が大好きなんだよね? スキルアップすれば、大金が稼げるかもしれないよ」
いつの間にか隣にいたローランドが言う。
ハンスはブルブルと首を左右に振った。
「俺は一生ただの器用貧乏でいいんです。スキルアップなんて。選択肢が増えるだけでろくな事にならない。あれやこれややらされるのは、懲り懲りだ」
「今更、若人のやる気のなさに驚きはしないよ。でもあえて教えてほしい。そんなスタンスで、どうしてわざわざ魔法学校に?」
「かっこいいからですよ」
ハンスはあっさり答えた。
「魔法学校の卒業証書さえ持っていれば田舎では、一生威張って生きられます。最高の箔ですよ」
「……なるほどね。冒険を愛する私とは相容れない考えだ」
「私は十分わかりますよ。ほら、クラス会に行くと、魔法学校教師って、そこそこ尊敬されますからね」
「ったく。技術を磨いて英雄になろうとは思わないのかねえ」
ローランドはため息をつきながら再び上空を見た。
リタたちは、遠くに行ってしまったらしく、モンスターの巨体が鯉のぼりが揺れているように見える。ギルは感心したようにポツリと呟く。
「それにしてもリタ君のポテンシャルは恐ろしいです。きっかけがあれば、世界征服すらできそうじゃないですか」
「世界征服?」
たちまち声を弾ませているローランドを、ギルはギョッとしたような表情で見る。
「……なんですか、その、キラキラした瞳は。校長。やめてくださいよ」
ローランドは笑顔でギルの肩をぽん、と叩いた。
「ギル君。ナイスアイデアだよ」
放課後の職員室。
リタ、アレックス、ハンス、狐、そして一匹のトカゲが横一列に並んでいた。
「なんなんです。このメンツ。嫌な予感しかしないんですけど」
ハンスがリタたち(狐とトカゲのセット)からあからさまに距離を取る。
リタはピンと背中を伸ばしていた。
最近は、他人に迷惑をかけることがほとんどなく、動物たちとの調和も良好で、褒められる事が多かった。
(買いかぶられるのは勘弁です。がっ! お役に立てるのは嬉しいですっ!)
今回は破壊クラスのエースと共に、遠征で仲良くなった狐やモンスターまで招集された。
「それにしても、TPOに合わせて形態を変えられるとは。便利なものですね」
ギルが、トカゲ――モンスターの第二形態――に目をやった。
モンスターは、ギルたちの視線には無頓着で、一度自分を倒したアレックスには畏怖の念さえ抱いているようだった。
が、ハンスには、少し目が合っただけで牙を剥き出して威嚇している。
何度リタがたしなめてもやめようとせず、ハンスは密かにリタが操っているのではと疑っているようだった。
「フッフッフ。今から君たちに特別ミッションを与えるよ。このパーティーで、今から猿たちの牛耳る地下ダンジョンに潜るんだ。彼らは世界征服を目論んでいるらしい。それを君たちで阻止してみせなさい!」
ローランドは笑顔でそう言って、ギルは「世界征服側じゃなかったか……」と胃に片手をあてる。
「私はそこまでサイコパスではないからね。こう見えても穏健派だよ」
「わあああ。よくわかりませんけどっ。素敵ですっ。私が誰かとパーティーを組めるなんてっ。もう二度と無理かと思っていました!」
「面白いですね。任せてください」
リタとアレックスは自信満々。
狐とモンスターは、リタと一緒にピョンピョン床で跳ねはしゃいでいる。
「なんで俺が、こんな頭おかしい奴らと」
「君は完璧、リタ君の緩衝材だよ。彼女の破壊を受け止められるのは君だけしかいない」
「綺麗な言い方に騙されませんから!!」
顔を背けるハンスだが、モンスターと目が合い威嚇され、タジタジになる。
ローランドは満足そうに何度も頷く。
「うんうん。皆、仲良さそうで、何よりだ。こういうのはチームワークが大事だからねえ」
「わあっ。私とハンスさん、仲良さそうに見えますか?」
「喜ぶな! 本人に聞け! いつでも本音を教えてやる」
ローランドは、両手を合わせると、ゆっくりと左右に開き始めた。
その手と手の間に、丸く歪んだ異次元が見える。
「ゲートを作るよ。さあ、皆。頑張って!」
励ましの声と共に、全員が次々にゲートへと吸い込まれる。
しん、とした部屋の中に、ローランドとギルが取り残された。
「ったく。いつも強引なんですから。猿の制圧なんて、あの子たちに出来るんですか? 私もこっそり行きましょうか」
ギルの申し出をローランドは、ちっち、と押し留める。
「それじゃ、冒険にならないでしょ。それに、猿たちなんて可愛いもんだから。子どもたちだけで十分さ」
そしてローランドは片手を壁にかざした。
ビジョンが壁に映し出され、洞窟の中にいるリタたちが見えた。
「ちゃんとたどり着いたようだね。それじゃ、お手並み拝見と行こうか」




