5 僕に「告白」
「おーい、西尾!」
新橋の声で目が覚めた。午後の授業の間ずっと寝ていたみたいだ。
「倉橋がお前に話があるんだってさ。ほら、いくぞ」
そういうと俺の手をがっしりつかんで走り出した。
「あたっ」
いすに足をぶつけてしまった。そんなのお構いなしにものすごい力で引っ張られていく。
とても楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
梅雨らしいもわもわした空気。足跡がたくさんついて汚れた廊下。靴箱に近づくほどひどくなってくる。
俺の心拍数も上がってきた。ただ走ったからだけじゃないんだろうな。
靴箱には誰かが立っていた。その人は下のほうをむいて、少しだけどほほを赤く染めていた。
「倉橋、つれてきたぞ。それじゃわしはここで」
2人っきりになって葉子さんの顔はますます赤くなったようだ。演技がうまいんだな。
「話って、なにかな?」
沈黙と、なぜか感じる周りからの視線に耐え切れなくなったんだ。聞かなくてもわかっているのに。
それでも俺の声は震えていた。
「突然呼び出してごめんね。私、ずっと前から西尾君のことが好きだったの。私と付き合ってください」
気持ちが入ってないと知っていても、こんなこといわれるのは恥ずかしいな。たぶん俺も顔が赤くなってる。
小さい手をぎゅっと握り締めてる葉子さんをみて、ちょっといじめてみたいくなった。
「俺なんかで、いいの?」
俺って最低だよな、だめって言われることはないと知っていてこんなこと言うんだから。
「西尾君じゃなきゃだめなの」
やばいよ、鼻血が出る。こんなこと嘘で言えちゃうなんてすごい人だ。ましてや俺なんかに。
うわぁ、そんな感じの声がなぜか周りから聞こえた気がした。
雨上がりのむしむしした感じ、一番嫌いな天気だけど、そんなの関係ないくらい幸せだな。
昨日茂が言ってたとおり、俺と葉子さんは2人で帰ることになった。誰かにつけれれてる気がしたけど。
俺の横にはあの葉子さん。かすかに香る甘い香り。葉子さんは気を使っていろいろ話しかけてくれるけど、俺はこうやって横にいてくれるだけで幸せだった。たとえ気持ちがなくても。
ふとまた、いじめたくなった。俺ってこんなに悪いやつだっけ。
「葉子さん、本当に俺でいいの?」
またあの言葉を聞きたかったんだよ。茂に言われたとおり、楽しませてもらおっと。
「だから西尾君じゃないとだめって言ったでしょ。恥ずかしいんだから何回も言わせないで」
怒った葉子さんもかわいい。ああ、もうだめ。なんかくらくらする。
びちゃっ、またみずたまりに入っちゃった。
葉子さんは笑っていた。笑ってる顔はもうなんともいえない。
結局、恋人らしいことは何にもしなかったけど、今までで一番幸せな帰り道だったと思う。
ノロケ顔のまま家に入ったから家族に散々言われたけどね。