38 僕と私の「1か月」
私は、卓也君の肩に体を預け、静かに今までのことを思い出していた。
初めて顔を合わせた2年生の始業式。あのころはまだ、特に意識はしていなかった。だけど、日を追うごとに気持ちはつのっていった。
そして、運命の告白の日。私は、緊張しながらもちゃんと気持ちを伝えた。
それからの日々は、まるで夢のようだった。何もかもが違って見えた。お昼休みに一緒にお弁当を食べたこと、放課後一緒に帰ったこと、映画を見に行ったり、あの虎弧園に遊びに行ったり。どんなことでも、卓也君と一緒だと楽しかった。
だけど、それと同じくらい、不安だった。卓也君が無理してるんじゃないのか、本当は嫌なんじゃないのか、ドジな私といるのは疲れるんじゃないのか。考えればきりがないほど浮かんできた。
だけど今、本当に私のことが好きだったと知って、私は本当にうれしい。
耳を澄ませば聞こえる心臓の音。この音を聞けるほど近づけるなんて、夢にも思わなかった。
「ねえ、卓也君?」
体をそっと起こし、卓也君と向かい合う。
「何? 葉子さん」
ふっと短く息をはく。するのなら、今しかない。
「大好きだよ!」
私は、目を瞑って卓也君に抱きつきながら、唇を押しあてようとした。
だけど、唇に感触がある前に、おでこに強烈な刺激を感じた。
「いててて……」
卓也君は、苦笑いをしながらおでこをおさえた。
「ご、ごめんなさい……」
私は、顔を合わせていられなくなって、ベッドに顔を伏せた。
肝心なところで、失敗するんだから……。
******
葉子さんは、謝りながらベッドに伏せてしまった。
おでこが、鈍く痛む。
だけど今は、それでさえも嬉しく思った。誰かに愛されているというのを感じられるのは、今までで感じたことのない嬉しさだった。
2年前のトラウマで、茂以外の人とはほとんど話すことのなかった高校生活。そんな生活が、1か月前からがらりと変わってしまった。何をするのにも笑いがあった。
だけど、楽しければ楽しいほど怖くなった。1か月が過ぎて、すべてが無くなってしまうということが怖くて、葉子さんに冷たく当たってしまっていた。
だから、今度こそ葉子さんのことを信じる。怖がっていたって、何も変わらない。
「葉子さん、大丈夫?」
「うぅっ、ごめんなさい」
伏せたままこっちを向いてくれない葉子さんに、僕はいたずらをしたくなった。
「葉子さん、大丈夫だからこっち向いて」
葉子さんは、ようやくこっちを向いてくれた。おでこが少し赤くなっているのを見て、微笑ましくなった。
「僕も大好きだよ!」
「……んっ」
僕は、葉子さんのしようとしたことを代わりにした。もちろん、おでこはぶつけずに。
お茶のパックの周りの水たまりには、抱き合う二人の姿が映っていた。
連載開始からもうすぐ1年、ようやく『完結』をチェックして投稿することができました。途中更新が遅れてしまって、読んでくださっていた方々には大変申し訳なかったです。
『両想いだけど、そうだとは気づいていないカップル』みたいな話を書きたいと思って、勢いで連載を始めてしまった結果、いろんな設定が後づけになってしまい、意味のない設定がいくつか……。
苦労したのが、各話のタイトルです。本文はできたのにタイトルがきまらず、更新がなかなかできないということが何回か……。次のときは、タイトルは何話かに1つにしたほうがよさそうです。
一応完結はしましたが、茂と望の恋の行方とか、卓也と葉子と奈美の三角関係、卓也と葉子のラブラブ話など、書きたいネタはいくつかあるので、番外編として追加するか、パート2として投稿するかもしれません。そのときは、またよろしくお願いします。
今まで読んでくださって本当にありがとうございました! これからも書いていきたいと思いますので、読んでいただけると嬉しいです。