35 僕の「絶望」
終業から1時間近く過ぎ、もう他に生徒のいない校門を、僕は走り抜けた。
何もかもが嫌になって、何も考えたくなくて、ただひたすら走った。
夕方で交通量の多い大通りに出て、ようやく立ち止まった。膝に手を置いて、肩で息をする。
おおかた息が整うと、僕はゆっくり家に向かって歩き始めた。頬を流れていた涙を拭う。
あんなにひどく言うつもりはなかった。笑って、ごまかして、終わらせる気だった。
だけど、耐えれなかった。見世物にされて笑われるのは、自分の気持ちを馬鹿にされているようで、つらかった。泣きたくなるくらい葉子さんが好きな自分に、情けなくなった。
『キスをして』という葉子さんの言葉は、既にぼろぼろだった僕の心をさらにえぐった。心の奥では、そのままキスをしたいと思っている自分がいることに、いらついた。
こんなに僕は苦しんでいるのに、のんきに歓声をあげている観衆たち。何かが音を立てて切れたのはその時だった。
それから、僕は何も考えずに自分の気持ちをぶちまけた。周りから見ればいい見世物だっただろう。
もう、完全に終わったな。これからも、少しだけでもつながりが持てればと微かに期待していた。そうでなくても、穏やかに別れられれば、1か月がいい思い出になっていただろう。だけど、今となっては思い出もただつらいだけだ。
家の玄関の数段の石段を上り、ドアノブに手をかけたが、ドアは開かなかった。家には誰もいないらしい。こんなみじめな姿を見られずに済みそうで、ちょうどよかった。
鍵を取り出そうとポケットに手を入れたところで、鞄を学校に忘れてきたことに気付いた。もう学校なんてどうでもいい、だから対して気にとめなかった。
家に入り、そのまま2階の自分の部屋へ向かった。つけっぱなしのパソコンのせいで、部屋は蒸し風呂のようだったが、僕は気にせずベットに倒れこんだ。
ほんとに僕って馬鹿だよな。2年前のことが頭に浮かぶ。楽しかった一瞬の時間、すぐに突き落とされたどん底、味わった絶望。あのことで、すべてが変わってしまった。
奈美と葉子さんの顔が重なる。どうして僕ばっかりこんなことに。せっかく乾いた瞳がまた湿ってくる。
ふと、机の上に置いてあったカッターナイフが目にとまった。
あれがあれば、楽に、なれるかな……。