32 私の「反省会」
「結局わからなかった!?」
突然声を荒らげた望に、クラス中から視線がさっと集まった。
ただでさえ怖い望に、般若の形相で怒鳴られて、私は身の毛がよだった。
私は昨日のことをそのまま話しただけなのに。
望が後ろを振り返ってギロリと睨むと、クラスには若干の居心地の悪さを残しながらも、もとの騒がしさが戻った。
「だ、だって、観覧車が揺れたんだもん」
「突然立ったら揺れるに決まってるでしょ! そういうことはさりげなくやるもんなのよ。ドラマとか見て勉強したじゃない」
頬杖をついて、ため息をはいた望の目力は、穴が開いてしまいそうなほど強い。
声は小さくなったが、まだ怒ってることがひしひしと伝わってくる。
「あれはドラマだから出来るんだよ。経験の浅い私には無理だから」
「そんなこと言ってるから、いつまでも関係が進まないのよ! もう1か月もたって、キスすらしてないなんて……、今は中学生でもそれくらいするわよ?」
「そう言われても……。それじゃ、望は佐々木君とどこまでいったの?」
『佐々木君』の名前を出した瞬間の望の表情の変化を、私は見逃さなかった。
頬がわずかに赤くなり、あんなにあった目力はどこかに消えた。明らかに焦っている。
「な、な、何で茂君と私が、キ、キ、キスなんてしなくちゃいけないのよ! た、ただの友達なのに!」
机をバン! と叩いて立ち上がった望に、再びクラス中から視線が集まった。
望は睨み返したけど、真っ赤な顔で睨まれてもまったく怖くない。
「そんなに真っ赤になって、ほんとに好きなんだね」
「誰があんなやつのことなんか……」
「好きな人に対してはつい臆病になっちゃうんだよ。今の望にならわかるでしょ?」
望は、真っ赤なままうつむいて黙ってしまった。
これって、もしかして、私の勝利? やったね、初勝利!
「それにね、私が抱きついた時の西尾君の顔、とっても優しい顔だったもん。絶対に嫌そうな顔ではなかったよ」
あの後、西尾君が倒れてしまったことは一応話していない。あの奈美という人のことは触れないほうがいい気がしたから。
「それじゃあ、今日はどうするの?」
「はっきり聞いてみるよ。それがどんな答えでも後悔しない」
この1か月、本当に楽しかったから。
それにただの勘だけど、西尾君は受け止めてくれるような気がした。
「望ちゃん、葉子ちゃんおはよー」
この何だか間抜けな声も、この1か月の間に聞きなれた声。
前の私には望しかいなかった、友達の声。
ぱっと声がしたほうを向いて、私は唖然としてしまった。
そこにいたのは、さっきの声の主の佐々木君と、西尾君の2人だった。そこまでは何のおかしいところもない。2人が一緒にいないことのほうが珍しいことぐらいだから。
だけど、にかっと笑う佐々木君が横にいることもあいまって、西尾君の顔は余計にひどいものに見えた。目の下に広がる大きな隈、こけた頬、血色の悪い唇。明らかな体調の悪さを表していた。
昨日の病室の風景がよみがえってくる。私のせいで西尾君がこんなになってしまった。それなのに、西尾君は学校に来てくれた。たぶん、私に心配をかけないために。私ったら、西尾君に迷惑かけてばっかり。
さっきまでの、微かにあった自信はどこかへいってしまった。こんな一緒にいても何の役にもたたない女なんか、好きになってくれるはずがない、そんな気持ちが心の中に広がっていった。
「葉子さんもおはよう。昨日はごめんね、僕の急用のせいで早く帰ることになっちゃって」
西尾君に声をかけられて、はっと我に返った。
優しすぎるよ、全部自分のせいにして。先に謝られたら、もう謝れないじゃん。
「お、おはよう。もうしっかり楽しんだから大丈夫だよ。ほんとにありがとね。私、ちょっとトイレ行ってくる」
これ以上一緒にいたら、泣き出してしまいそうだったから、私は逃げた。
ちらっと見せた、西尾君の悲しそうな顔が胸に突き刺さった。
授業中も、西尾君は辛そうだった。
ときどき後ろを振り返ってみると、視線はどこを見ているかわからないような状態で、シャーペンを持つ手は弱々しく、口もぽかんと開いていることが多かった。
それでも、私に気づくと笑い返してくれた。その辛そうな笑顔を見るたびに、私の心は苦しくなった。
そして、ついに、そのときはやってきた。
えっと、お久しぶりです。
こんなに間隔が開いてしまってすみませんでした。
最後くらい行き当たりばったりでなく、いったん全部書いて、構成をきちんと練ってから投稿しようとしたら、いつの間にかこんな時期に……。
読んでくださっていた方には、大変申し訳なかったです。
ですが、一応最後まで書き切りましたので、最終話の38話まで校正しつつ投稿していきます。4月中には完結させますので、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。