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30 私と「対面」

「あら? 卓也、久しぶりじゃない」


 声をかけてきたのは、驚くほど綺麗な女性だった。

 短いスカートからは、すらりと長く、それでいて細い足が出ている。引き締まった腰、綺麗な形の胸がキャミソールの上からでもよくわかる。顔はとても小さくて、ぷっくりとした唇と、パッチリとした目、肩までの黒く光った髪が印象的だ。身長も170cmは超えている。

 雑誌に載ってるモデルさんみたい。


 隣には金髪で耳にはピアスがある男性がいて、その人と腕を組んでいる。


 私はこの人のことが好きになれなかった。表面上はにこやかに笑っているのだけれど、その裏にある黒くて、恐ろしい感情がひしひしと伝わってきていたから。


「な、な、奈美が何でこんなところに……」


 西尾君は搾り出すように言葉を発した。顔は青ざめ、握っている手は小刻みに震え、大量の汗をかいていた。

 私は何とかしないと、とは思った。だけど、西尾君と、奈美という女性との間に流れる不穏な空気に動くことが出来なかった。


「何でって、当たったからに決まってるでしょ? デートを楽しむ以外何のために来るのよ。卓也もそうなんでしょ?」


 そこでひと呼吸おくと、私の方をチラッと見て続けた。


「それにしても、卓也がこんな美人の彼女を作ってるなんてね。元カノとしては嬉しいわね」


 も、元カノ!?


「ほんとに卓也って勇気があるのか馬鹿なのか……、ぜんぜん変わってないのね。ま、私には関係ないんだけど。元カノとして1つだけアドバイスしてあげる。同じ過ちを繰り返す気なの? もう1度言ってあげるわ」


 彼女の作った一瞬の間に、あたりは静寂に包まれた。


「身の程を、わきまえなさい」


 その言葉は氷の槍のように、冷たく言い放たれた。


「彼女さんもあんまり卓也をいじめないであげてね。この子、弱いんだから。それじゃ、お2人ともせいぜいお幸せに」


 そういい残すと、2人は去っていった。さっきまでの甘い空気はどこかへ行ってしまった。


「西尾君、あの人っていったい……。ど、どうしたの!?」


 私はようやく、西尾君の異変に気づいた。

 体ががくがくと振るえ、口は半分開いた状態で、視線は1か所に定まっていなかった。

 同じようなことが前もあった。確か、ファミレスに行ったときだったと思う。


 その時、西尾君の体がゆっくりと傾いてくる。


「西尾君!」


 私は必死に抱きとめ倒れるのを防ごうと、必死になって支えたけれど、耐え切れず一緒に倒れてしまった。

 西尾君はピクリとも動かない。


「誰か! 誰か!」


 私は必死に叫んだ。それなのに思ったように声が出ない。周りの人は見てみぬふりをして通り過ぎていく。


「どうされました?」


 近くにいた係員の人がようやく気づいてくた。その人は西尾君の首にさっと手をあて、口に耳を近づけると、無線で何かを話している。


 しばらくすると、担架を持った応援の人が駆けつけてくれた。


「脈も呼吸もしっかりしているので、とりあえず救護室に運びますね」


 私は担架で運ばれていく西尾君の手を、ぎゅっと握ることしか出来なかった。




 西尾君は救護室に運ばれたが、そこでは何の処置も出来ず、救急車で近くの病院に運ばれた。

 病院では、軽い熱中症と過労が重なったんだろうと言われたが、念のため検査をするために少し入院することになった。


 病室の白いベットで寝る西尾君は、まだ顔が青白かった。

 私のせいで、私があの時走ったから、何も言葉をかけてあげられなかったから。

 このまま目を覚まさなかったらどうしよう。もう話すことも、手をつなぐことも、デートをすることも出来ないなんて、絶対に嫌だ。まだやりたいことがたくさんあるのに。まだ、キスすらしてないのに。

 あの元カノさんは何者なんだろう。西尾君との間に何があったのだろう。


 観覧車に乗るとき、私は西尾君にキスをしようと決めていた。そこでもし、嫌がるようだったら、明日ちゃんと本当のことを話して謝るつもりだった。そして、無理して付き合ってくれてありがとうと言うつもりだった。

 ほとんど頂上に達した時、私は作戦を実行しようとして立ち上がった。だけどあまりに急に立ってしまい、バランスを崩してしまった。

 そんな私を西尾君は抱きしめて助けてくれた。嬉しかった、温かかった。

 そんな状態のまま、私は無意識のうちに目を閉じてキスを待った。結局、してくれなかったけど。

 でも、何だか西尾君が本当はしたかったのにわざとしなかったような気がした。ただの思い過ごしかもしれないけど。


 結局、西尾君の気持ちはわからなかった。分からないままなんて……。


 私の瞳から一筋の雫がたれた。それが握っている西尾君の手のひらに落ちる。



「ここ、は……」


 西尾君の目が薄っすらと開き、微かな声が聞こえた。


「西尾君! 良かった、本当に良かった」


 私は西尾君に抱きついた。今までこらえていた物が、堰を切ったように流れ出ていく。


「ごめんね、僕のせいで」


 そう言って、西尾君は優しく頭を撫でてくれる。私はその温かさの中で、シーツのしみをどんどん広げていった。

 前の投稿から1か月もたってしまいました、ほんとにごめんなさい。

 暗い場面は苦手だということを痛感しました……。


 いろいろ悩んで書いていったら、奈美がかなり強烈な性格になった気がします。

 それにしても卓也は美人に囲まれすぎです!

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