3 僕に「告白予告」
「はー、口の中が血の味だ」
パソコン室から教室までは意外と距離がある。だが、その程度で息の上がってしまい、改めて運動不足を実感した。骨しかないような細い腕を見ると余計にそう思う。ちなみにBMIは17.3だ。
「ぬわぁっ!」
雨が降ってるせいで汚れた廊下は滑りやすかった。それなのに階段を2段とばしで降りてたら、最後の着地に失敗して見事にしりもちをついた。その勢いのまま滑っていって壁で顔面を強打。身も心も傷だらけだ。
あそこの1年生なんか、後ろ向いてるけど肩が揺れてるから笑ってるのばればれだし。
歩いてくるより時間がかかったが、なんとか教室前の廊下までたどりついた。あと20メートル。
だけど、僕は足を止めた。教室から明かりもれていたから。だれかいるのか、入りづらいな。
なにか声が聞こえる、確か新橋って人の声だと思う。
僕は耳がいい。たった1つの自慢できること。だけど、聞こえてきた言葉を理解するまでには時間がかかった。
「倉橋、明日の放課後、靴箱のところで西尾に告白だぞ……ネタバラシは1ヶ月後だからそれまで絶対に言うんじゃないぞ。」
これはたぶん、なにかの罰ゲーム。倉橋って人がその対象になったんだろう。
倉橋っていうのはつまり葉子さん、西尾は僕……
気がついたら俺は走り出していた。とりあえずあそこから逃げたかった。
扉をあける、あたりまえだけど茂がいる。僕の中のなにかがふっと軽くなった気がした。
「遅かったな、そんな走らなくてもいいけど。って、どうしたんだよ!」
僕は崩れるように座って、泣いていた。学校で泣いたのはこれが2回目だと思う。話したい、だけど泣いてるせいでうまく声がでない。
「とりあえず落ち着け、無理に話さなくていいから」
ひっくひっく言ってる僕の頭に手を置いて茂はそっと言ってくれた。
「あかねもすごいことをやらすな、さすが裏番長」
あのときのことを茂に全部話した。いつもはふざてる茂も今はまじめな顔だった。
「僕はどうしたらいい?」
「どうもこうもないでしょ、素直に付き合うしかないよ。卓也の好きな人なんでしょ?」
「だけど相手に気持ちがないって分かって付き合うなんて器用なこと……」
「そんなこと気にするな、1ヶ月ってのはすぐだぞ?その分楽しんでこいよ。それに葉子ちゃんを振ってみろ、クラスにお前の居場所はなくなるぞ」
「確かにそうだけど。 僕にそんなことできるかな……」
「なに言ってんだよ!好きだって気持ちをそのまま表せばいいだけ、そんなに難しいことじゃない。いやなら俺が代わりたいぐらいだよ!」
「茂にだけは代わってほしくないな」
「なんだと!まあ、がんばれよな」
茂と話してすこしだけど気分が晴れた。なにをくよくよしてるんだ。明日、好きな人に告白される、夢にもみた幸せなことじゃないか。
「あれー?顔が赤いぞ、なに考えてるのかな?」
やばい、妄想してしまった。こんなにすぐ顔に出るのか。
「ばか!何にも考えてないよ。ちょっと泣きすぎただけ」
「照れなくてもいいぞ。さて、そろそろ帰るかな。今度卓也と帰れるのは1ヶ月後になりそうだし」
僕たちは入学してからずっと一緒に帰っている。そう考えるとさびしい。
茂がいなかったら今の僕はいなかっただろう。いつも助けられっぱなしだな。
パソコンの電源をきり、戸締りをすますと僕たちは家に帰った。
少しだけど、明日が楽しみになっていた。