24 私に「サプライズ」
「西尾君、ご飯食べよっ」
こんにちは、改めまして倉橋葉子です! 映画デートからもう1週間。あれから西尾君との距離がぐっと近づいて、今ではかなりラブラブです。だから毎日が楽しくて楽しくて。
「うん。って、葉子さん?」
ごめんなさい、また変な世界に飛び立ってました。
慌てて現実世界に戻ってくると、目の前に西尾君が。そんな近くで見ないで……。
「だ、だめぇ~」
体に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまいました。
「葉子、毎日毎日何してんのよ。もう見飽きたわ」
「ラブラブ過ぎて見ているこっちが恥ずかしいよ」
そんな冷たいことを言っているのは、望と佐々木君。
この2人は映画デート以来、すっかり仲良くなってます。
「葉子さん、早く立って。制服が汚れちゃうよ」
そういって手を差し出してくれる西尾君。ほんとに優しいんだから。
また異世界にトリップしそうになったけど、これ以上すると愛想を尽かされそうだから我慢して手をとる。
西尾君の手って、温かくて大きいんだよ。映画館での出来事を思い出して、また頬が緩んでしまう。
「手を離してくれないと、ご飯が食べれないよ」
困った顔の西尾君もまた……。って、いつまでこんなことをしてるんだ! 慌てて手を離して自分の席に戻る。
「それでね、大きい熊がわぁっと出てきてね」
お弁当をのんびり食べながら、昨日見た北海道の自然っていうドキュメンタリーの話をしてるんだけど、聞いてくれないというか、軽く流されている気がする。でも、西尾君だけはときどき頷いたりしているから、ちゃんと聞いてくれてるみたい。
「葉子、その話おもしろくないから。西尾君もそんなに気を使わなくていいのよ」
そ、そんな。薄々気づいてたけどはっきり言わなくても。
「それじゃ、さすがにかわいそうかなと」
西尾君、それじゃ気を使ってることを肯定してるようなもんだよ。ちょっと傷ついたかも。って悪いの私か。
みんなを見るともうお弁当を食べ終わったみたい。話ばっかりしていた私はまだ半分以上残ってる。時計を見ると残り15分。なんとかいけるぞ!
「そういえば、葉子さんって今日誕生日だったよね」
「ぐふっ、そういえばそうだったかな」
突然だったので、むせてしまった。今ので幻滅されたよね。
それにしても、覚えてくれてるってさすがだね。私でも忘れてたのに。
「だから誕生日プレゼントというか、日ごろのお礼というか、そんな感じ。迷惑だったら破り捨ててください」
そういって手渡されたのは小さな紙のカードケースだった。
西尾君からもらったの物は例えごみだったとしても宝物だよ。破り捨てるわけないじゃん。
「ありがとう。何かな、開けていい?」
「まさか図書カードとかか、俺にくれ」
「金権なんかあげるわけないでしょ。しかも何で茂にあげないといけないのさ。あ、どうぞ開けてみてください」
「リリンの単行本が買いたいんだよ。ちょうど金欠でな」
「そんなの知るか!」
全く想像がつかない、この形の入れ物って図書カードくらいしか思いつかないよ。
緊張で震える手でゆっくり中身を取り出すと、それは1枚のカードだった。
「なになに……。 と、虎弧園1日パスポート!?」
私は驚きすぎて、危うくそれを落とすところだった。