23 僕に「チラシ」
あたりはすっかりオレンジ色に染まって、昼間ほどの暑さはなくなった。
僕は夕日を背中に受けながら、葉子さんを家まで送る。
改めて2人っきりになったんだなと、少し恥ずかしくなる。
「西尾君、今日はどうだった?」
「映画なんて久しぶりで楽しかったよ」
「私と一緒にいて、嫌じゃなかった?」
今日1日を振り返る。葉子さんといると楽しかった。心が和んだ。嫌なんて気持ちはどこにもなかった。
たぶん、いや絶対、これが好きって気持ちなんだと思う。あの時と同じ、この気持ち。
だけど、これは演技なんだよね。いつかは本当のことを告げられるんだよね。だからこれ以上は好きになっちゃいけないのに、僕の心に占める葉子さんの割合はどんどん多くなっていく。
「西尾君?」
「ごめんごめん、嫌なわけないじゃん。とっても楽しかった」
少し不安そうな顔をする葉子さん。ちょっと上目使いで見られると、あまりの可愛さで直視できない。
僕はとっさに思ったことを言って目をそらした。
「その服、とっても可愛いね。よく似合ってる」
僕の素直な感想でお世辞は全くない。葉子さんならどんな服でも似合いそうだけど。
「もう、西尾君ったら。ありがとうね」
そう言って顔を赤くする葉子さん。そんな姿にまた惹かれていく。
もう、重症だな。
そんな時、強い風がビュッとふいて、どこからともなく飛んできたチラシが僕の視界をおおった。
「む、なんだこりゃ」
どこかの遊園地のチラシみたいだ。
「これって、虎弧園のチラシじゃない。私、行ったことないから、1回行ってみたいの」
虎弧園、文字通り虎と狐をキャラクターとしたかなり大きな遊園地である。なんといってもその特徴は、入園が完全予約制で、入園者数が調整されている。そのため、順番待ちということがほとんどないため、入れさえすれば思いっきり遊べる。
だけど、抽選で入園者が決まるために、何回応募しても入れないこともしばしば。倍率は10倍から20倍と言われる。うちも確か1回応募したことがある気がする。
「へぇー、そうなんだ」
1回拾ったものをまた捨てるのもなんだか気がひけるので、とりあえずカバンに入れる。
そうこうしているうちに、葉子さんの家についてしまった。
「西尾君、わざわざありがとね。今日はほんとに楽しかったよ」
「僕も楽しかった。また学校でね」
葉子さんが扉の向こうに消えると、なんだか寂しさを感じる。また明日も会えるのに。
僕は、もう1度さっきのチラシを取り出しながら自分の家に向かった。