22 私と「望」
「遅いね、もう終わってるはずなのに」
私たちは映画館の入り口の前のベンチに座って、さっき西尾君がカバンに入れて変な形になったポップコーンを食べながら、望と佐々木君を待っているところ。
ほとんど同じ時間に終わるはずだったから、もう来てもおかしくないはずなのに。
「リリンちゃん、リリンちゃん…… うわぁーん」
映画館のほうから泣き声が聞こえた。いやまさか、まさかね……。
「望、どうしたの。そんなに感動する映画だったの?」
そこにいたのは、大泣きする望と、慰めている佐々木君だった。
望が泣いているところ、初めて見た。
「まさか茂が泣かせたんじゃないだろうな」
西尾君も目がまん丸。
「ち、違うよ。俺は真面目に映画を見ていただけだ。」
「ごめんね、こんなに泣いちゃって。佐々木君があんな映画を見せたりするから」
「俺の所為なの? そりゃ強引に誘いはしたけど」
「とにかく! 佐々木君が悪いの。お詫びとして、次回作がでたらまた誘いなさいよ!」
「えぇっ、ほんとに? 必ずお誘いします。うちに原作本もあるのでよければどうぞ」
「ふっ、しょうがないわね。読みにいってあげるわ」
望! 本当に望なの? いつもの冷静沈着な姿はどこに……。
でも、望も佐々木君も今まで見たことがないくらいに楽しそう。やっぱりこの2人って相性いいよね。
それにしても映画の内容がものすごく気になる。
その後、お昼ご飯をファーストフードで済ませた私たちは、特に予定を決めていなかったので、駅前の本屋にでも行くことになった。
「うわー、涼しい」
外は少し歩いただけで汗ばんでしまうくらいの暑さ。強めにクーラーの効いた店内はまさに天国だった。
「佐々木君見てみて、リリンちゃんの特集やってるよ」
「ほんとだ。へぇー、文庫本もあるんだ」
2人はさっきからこんな感じで、リリンとか何とかの話ばっかりしている。
正直、私にはついていけない。
「俺の持ってない第15巻がある。どこの本屋に行ってもなかったのに」
「原作ってこんな感じだったんだ」
もうすっかり熱中してしまっている。望がこんなにもはまるなんて珍しい。
「僕、見たい本があるからちょっと行ってくるね」
「あ、私も行く」
西尾君は本棚の間をすり抜けるように、奥のほうへ進んでいく。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「ううん、向こうにいるほうがきついかも」
「確かにそうだね」
西尾君が笑った、笑ったよ! この笑顔は永久保存版だよ。
そんな感じで私がトリップしている間に、西尾君はどんどん進んでいく。ま、まって~。
やっとのことで追いつくと、そこはパソコン関係の雑誌のコーナーだった。
ときどき頷いたり、首をかしげたり、よくわからない専門用語をつぶやいたりしながら、楽しそうに雑誌を読んでいる。
西尾君ってパソコンが好きだったんだ。そういえばパソコン部だったっけ。私はさっぱりだけど。
とても楽しそうな西尾君に、またもや見とれてしまう私。
「ごめん、つい熱中しちゃって。って葉子さん?」
呼ばれて、現実世界に戻ってきた私は慌てて半分開いていた口を閉じる。
「あ、ううん、大丈夫。もういいの?」
「うん、読みたいやつは読んだから。それにそろそろ戻らないとね」
「そうだね、あの2人をこれ以上放っておく訳にはいけないし」
「望ちゃん! 抽選で魔法戦士リリンポスターが当たるんだって」
「ほんとに? 絶対欲しい。佐々木君! なんとしても当てるのよ」
まだやってる。見てるこっちが恥ずかしい。
「茂、そろそろ行こう」
「いや、もう少し」
「恥ずかしいんだけど」
「気にするな」
「じゃあ、先に帰ってるよ。結構歩いて疲れたし」
「おう、そうしてくれ」
「ということだから、葉子さん行こうか」
え、これってまさか……、西尾君と2人っきりってこと?
「ひゃい! 行きます!」
真っ赤な顔でろれつも回らなくなる私でした。