20 私と「映画」
連載、再開します。
また読んでいただけたらうれしいです。
私がどうしてもポップコーンがほしいと言ったので、1つだけ買ってスクリーンへ。開始時刻を少しすぎていたけど、他の映画の宣伝とかばっかりで本編はまだ始まっていなかった。
薄暗かったけど、人で埋め尽くされているのがよくわかった。ほんとに人気みたい。
私たちの席は右端の1番後ろ。薄暗かったのでちょっと怖い。
こういうときは……ね。だから勇気を出して頼んでみることにした。
「西尾君。手、繋いでもいい? 暗くて怖いの」
望だったら、何も言わずに繋いじゃえって言いそうだけど、私にはそんな勇気ないし、前のこともあるしね。
薄暗い中でも、西尾君は少し困った顔をしているように見えた。だけど小さく頷くと、私の手をそっと握ってくれた。
細いようでもしっかりしていて、大きな西尾君の手は、私の手をすっぽり包む。それは冷房の所為で少し冷えていた手を温めてくれた。触れているのは手、だけなのに、体の芯から温かくなる。
そんな温かい時間はあっという間に過ぎていって、私たちの席に着く。放された手に感じる、ほのかな温もりに名残惜しさを感じた。
「ポップコーン、食べていいからね」
意外と量が多くて1人じゃとても食べきれないのだ。残しちゃもったいない。
「うん、ありがとう」
そう言っているけど、西尾君は全く食べようとしてくれない。もしかして嫌いなのかな。
少し目が悪いみたいで、見慣れないメガネ姿は、賢そうなお坊ちゃまって感じで何だかかわいい。
そうこうしているうちに、残りの照明が完全に消えて、真っ暗に。と思ったらスクリーンがバッと明るくなって、どこかの町並みが流れた。どうやら始まったようだ。
始めの方っていうのは、ちょっとつまらない。だけどここを見ておかないと、あとが全くわからなくなるから結構大切。
欠伸を必死で我慢して、眠気を覚ますためにポップコーンに手を伸ばした。適当につまんで口に運んでいく。
あれ、何だか感触が違う。妙にすべすべしている。それにポップコーンとは思えない重さ。
これ、違うなとは思ってはいたけど、半分眠っている頭じゃ手の動きを止めることはできず、そのまま口の中へ。
何だか温かいな、すべすべしていて気持ちいいし、おしゃぶりみたい。
無意識のうちに舌でなめていた。
「ちょ、葉子さん」
隣の西尾君の声で少しづつ頭が回り始める。私、何をなめてるのかな。
「ご、ごめんなさい」
慌てて西尾君の指を口から出し、唾液をハンカチで拭き取った。
いくら寝ぼけてたからってポップコーンと指を間違えるなんて、私どうにかしてるよね。でも、口元が寂しく、さっきの感触が名残惜しくなる。
「ほんとにごめんなさい」
「もういいから、映画見ようよ」
ちらりと横を見ると、暗い中でもわかるくらい赤い西尾君。前みたいにならなくて良かった。
ほんとにごめんなさい。反省してます。