16 私「見ちゃった」
「いやー、寒かったな」
「ほんとだよ、こんなときに泳がさないでほしいよな」
水泳が終わったようだ。頭のぬれた男子たちが次々と帰ってくる。
早く西尾君帰ってこないかな。私、頑張るんだから!
ふと、誰かの会話が耳に入った。
「西尾のやつ大丈夫かな。血まみれだったけど」
血まみれって、確か血がいろんなところについて真っ赤になってるってことだよね。
想像しただけで背筋が寒くなった。
「ねぇ! 西尾君が血まみれってどうゆうことよ!」
こんなときになりふりなんか構ってられない。私は近くにいた男子をとっ捕まえて聞いた。
「ひ、ひぃ。プールから上がってきたら血まみれになっていて、そのまま保健室に運ばれていったのであとはわからないです」
私は考えるより先に走り出していた。次々と帰ってくる男子たちをかき分け、保健室に向かう。
保健室は階段を下りたところだったので、すぐついた。思いっきり扉を開ける。
「西尾君大丈夫!?」
扉を開けたところにいたのは、佐々木君と、佐々木君もたれかかるように立っている西尾君だった。
右足のところに包帯は巻いてあるけど、血まみれってほどではなかった。ひとまず安心。
落ち着いてから、もう1度2人を見てみると何かに気づいた。
西尾君って、やせているのに意外と筋肉あるんだね。少し腹筋がわれてるよ。ますます惚れ直しちゃう。
あれ、腹筋が見えているってことはまさか……。
西尾君が水着姿だということに今頃気づいて急に恥ずかしくなった私は、思わず後ろを向いた。
どうしよう見ちゃったよ、西尾君の裸。
「男子が大騒ぎしてたから結構心配してたのに、ケガはたいしたことなさそうね。よかったわ」
いつの間にか横には望が立っていた。
「えっとね、西尾君。葉子にはまだ水着姿は早いみたい」
「ああ、ごめんなさい」
「葉子、もう大丈夫よ」
そういわれて振り返ると、西尾君はタオルを羽織っていた。なんだかちょっとだけ残念な気がする。
「心配させてすみません、ガラスのかけらを踏んじゃったみたいで」
「そうなの? 何より無事でよかった」
まだ髪がぬれていて、長い前髪を左右に分けた西尾君は、いつもよりかっこよく見えた。いつかはあの前髪を切ってくれないかな。
「葉子ったら、話を聞いてすぐ飛び出していったんだから。西尾君、愛されてるわね」
望ったら、そんなこといって冷やかさないでよ。下がっていた心拍数がまた上がる。
西尾君の顔もほんのり赤くなっていた。あの日から何度も見てきたけど、妙に久しぶりな気がした。
「ケガってどれくらい? 歩けそう?」
「ちょっと血が出ただけなので、今はまだ痛むけどそのうち普通に歩けるようになると思うけど」
「ならよかった、ちょうどね映画の割引券が3枚あるのよ。期限がもうすぐだから今週末あたりにどうかなって」
なるほど、私に任せなさいってこういうことだったのね。さすが望だわ。
「ちょっと待って、3枚って俺は、俺はどうなるの。1人だけ置いてけぼりだなんて」
なんだか佐々木君が泣きそうだ。そういえば忘れてた。
それを聞いた望は待ってましたといわんばかりに言い返す。
「話は最後まで聞きなさいよ。この券はね1枚で4人までOKなのよ」
「そ、そんな。なら最初から3枚って言わなくても。でも見捨てられたんじゃなかったからよかった」
「ということなんだけど、どう? 西尾君」
「僕は行きたいです。映画なんて久しぶりだな」
「よかったね、葉子」
「ひゃぁい、よかったです」
あぁ、西尾君に見とれてたせいで変な声になってしまった。恥ずかしい。
一瞬静かになったあと、保健室は笑い声に包まれた。
「葉子、あんたって最高」
「葉子ちゃんといると、いつでも笑いが起こるよね」
「葉子さん、おもしろいです」
西尾君にまで言われちゃったよ。だけど、笑顔が見れたたからいいや。
週末が楽しみだな、今からわくわくしていた。