11 僕の「トラウマ」
「どうだ、落ち着いた?」
窓の外にはもうオレンジ色の空が広がっていた。30分くらいたっただろうか、汗もだいぶひいて、体の震えもとまった。
「うん、なんとか」
言葉を話すのはまだきつかった。絞り出したような声に茂の顔がまたけわしくなる。茂は残っていたコーヒーを飲み干した。
「悪いな、俺があのときもっと強くとめとけばよかったのに」
「茂のせいじゃないよ、こんなことになるって分かっていながらやめなかった僕が悪いんだよ」
さっきのことをまた思い出し、背筋に寒気が走る。
「最初は大丈夫だと思ったんだ。怖かったけどなんとかなるって。でもさ、フォークが口に入った瞬間、葉子さんと奈美が重なっちゃってさ。『西尾君』って声も奈美の声に聞こえたんだ。僕怖いよ、最近せっかく忘れることができたと思ったのに」
涙が次々とあふれ出てくる。忘れたい、けど忘れられない、2年前のこと。
「卓也ごめんな、俺がそばにいながら。俺が助けてやるって言っときながら助けられなくて。ほんとすまん」
何度も、何度も謝ってくれる茂。茂のせいじゃない、すべては僕のせい。
それから僕は気が済むまで泣いた。外はすっかり薄暗くなっていた。
ファミレス代は高校生にとっては安くはない金額で、迷惑をかけたせめてもの償いに、僕が払おうとしたが、茂は『望ちゃんたちに言っちゃったから』といって全部払ってくれた。どこまで優しいんだよ、茂。
ファミレスの扉を開け、外に出る。肌に感じるむわんとした空気。
「茂と帰るの、久しぶりだね」
「そういえば、そうだな」
僕は立ち止まった、茂も2、3歩進んでとまった。
「どうした?」
「僕、葉子さんを好きになりかけてたんだ。今までの遠くから見てての好きじゃなくて、もっとたくさんのことを知って、内心から好きになりかけてたんだ。だから、葉子さんとは少しだけ距離をおくよ。恋人じゃなくて、友達くらいに。僕はもう人を好きになっちゃいけないんだよ、周りの人も自分も傷つけてしまうから」
「それで卓也はいいのか?」
「いいんだ、それに葉子さんだって演技なんだし。どうせもう3週間したらふられるんだから」
「それはそうだが……、卓也がいいならそれでいい。でも、人を好きになっちゃいけないとか、絶対そんなことはないからな」
茂の真っ直ぐな視線が突き刺さる。でもこれでいいんだよ、こうするしかないんだよ。
「悪いね、迷惑ばっかりかけて」
「迷惑なんて何気にしてんだよ、俺たち友達じゃないか!」
2年前と違うこと、それは茂という友達がいることだ。茂がいればきっとこの3週間を乗り切れるはずだ。
「ありがとう、茂」
「おう!」
その後、僕たちは久しぶりの帰り道を精一杯楽しんだ。
奈美ってだれ?
卓也の過去に何があったの?
謎だらけですが、ここではまだ秘密です。
詳しいことは話の終盤ででてきますのでお楽しみに。