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10 私の「財布」

「はぁー……」


 財布の中をみて大きなため息をつく。どうしてこんなことになっちゃったかな。


「いかにも金欠ですってアピールしても遅いわよ! さあ、入るよ」


 目の前には、ファミレス。昼休みの約束をはたすためにやってきたのだ。

 私はもう1度大きなため息をつくと、扉を開けた。


「いらっしゃいませ、4名様でございますか? お好きな席にどうぞ」


 平日の午後ということもあって、店内はがらがらだった。望に先導され、私たちは窓際の席に座った。


「ふふー、なにがいいかな」

「悪いね、葉子ちゃん」

「ほんとに、いいの?」


 食べる気満々な2人に対して、謙虚な西尾君。ほんとに優しいんだから。


「西尾君はいいのよ、むしろ食べて欲しい。望と佐々木君は遠慮ってものを知らないの? ほんとにお金ないんだから」

「んー、じゃあ、私は遠慮してジャンボチョコパフェで」


 遠慮してなかったら何を頼むつもりだったのよ、ほんとに怖いんだから。


「俺は枝豆とコーヒーで」


 なんか得体の知れない組み合わせが聞こえた気がするような……。


「茂、うけ狙いか? どう考えてもおかしいぞ」

「意外とあうもんだぞ、卓也もたべてみたらいいよ」

「いや、遠慮しとく。えっと、僕はオレンジジュースで」


 絶対遠慮してるよね。西尾君のためにきてるのにな。


「すいません、えっと、チョコパフェと枝豆とコーヒーとオレンジジュースとチーズケーキをお願いします」


 注文を済ますと、望の目が怖い。私、またなんかした?


「そんな真っ直ぐな目で見ないで。わかった、今回は許してあげるから」


 よく分からないけど、許してもらえたみたい。私はいつもおびえてなきゃいけないのね。


「それにしても、2人ともアツアツよね。見てるこっちが恥ずかしいくらいに」


 私は横を見る。西尾君も同じことをしたので、目線があう。とっても恥ずかしくなって、あわてて目をそらした。


「そういうのがアツアツって言うんだよ。俺も彼女欲しいよ!」

「佐々木君ならすぐできるよ、話しやすいし、おもしろいし」

「葉子さん、嘘ついてまで励まさないでいいよ。すぐ調子乗るから」


 ぬわっ! 嘘ってばれちゃった。さすが西尾君。


「えへへ、ごめんなさい」

「うぅ、やっぱり嘘だったの。そんなことはないよって言って欲しかった」

「おい、それはまだ狙ってるってことなのか? 全くつりあってないけど、一応僕の彼女なんだからな!」


 広がる沈黙。今いったよね? 僕の彼女って。


「いや、あの、これは……」


 真っ赤な西尾君。こんなに何度も血圧上がってたら、いつか脳卒中で倒れちゃうよ。


「今ので俺には付け入る隙がないことが分かったよ」

「いいわねぇ~ ほんと。葉子、うれしいのは分かるけどよだれたれてる」


 あわてて口を閉じてよだれをふく。せっかくのいい雰囲気が台無しじゃないの。


「チョコパフェと枝豆とコーヒーとオレンジジュースとチーズケーキになります」


 店員さんグットタイミング! これでよだれのことは忘れてくれるはず。


「普通サイズなのに意外と大きいのね。なかなかいいわねこの店」


 望はご満悦のよう、このまま何にも起きませんように。


「ねえ葉子、昼休みはさんざん食べさせてもらったんだからここはお返しをするべきじゃないの?」


 でた、爆弾発言! でも言われてみればそうかも。


「あ、まあ、そうかな。じゃあ西尾君食べてね」

「え、いや、はい……」


 クーラーがきいてて涼しいはずなのに西尾君は汗びっしょりになっていた。そんなに緊張しなくてもいいのよ。


「卓也、大丈夫か?」


 顔は笑ってる佐々木君。だけど、その声は本当に心配してるように聞こえた。


「じゃあ、いくよ」


 そういって私は、フォークを持つ。フォークの重さだけで切れてしまうほど、やわらかいチーズケーキを少しだけすくうと、ゆっくりと西尾君の口に近づける。ちょうど、昼休みにしてもらったのと同じように。

 西尾君は小さく口を開ける。私は唇に当てないように気をつけながらそっと口の中にケーキを入れた。

 西尾君が口をそっと閉じる。それを見て、私はフォークを抜く。



 私の顔は赤くそまる。だけど、西尾君はそれとは逆に、どんどん血の気が引いて行くように、白く、青くなっていく。そして、額からは玉のような汗が流れ落ちる。


「西尾、くん?」


 こんな姿は見たことがなかった。体はぶるぶると震えていて、目はどこにも焦点が合っていない。まるで、何かにおびえているように。


「卓也! 大丈夫か、しっかりしろ! 悪いけど葉子ちゃんと望ちゃんは先に帰っててくれるか? お金は俺がはらっとくから」


 いつもの佐々木君とは違う、有無を言わせない感じ。明るくて楽しげな雰囲気は少しもなかった。


「悪いわね。ほら、葉子行くよ」


 気がつくと私は望に腕をつかまれて引っ張られていた。

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