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第8話 雑収入を得る


 纏装訓練最終日の4日目。マリエス要塞は警戒体制のままなこともあって、訓練カリキュラムは変更を余儀なくされた。本来ならグループ単位で要塞周辺の警備訓練を行うはずだった。襲撃が昨日だったのは本当に不幸中の幸いだ。


 今回のクオンの小規模な群れは、西隣の別の領域から流れて来た共有種ということだった。クオンは基本的に個体同士で協力しない、むしろ共食いのように相手を取り込むことで自身を強化する。弱いクオンは別として、中程度の能力のクオンは有益な能力を共有する事で互いに生存を図る場合がある。それが共有種だ。そして大規模な共有種の群れは協調群と呼ばれる。



「どうも信じられん。少ないとはいえ7匹まで増えた共有種だぞ。雑魚じゃない」


「オリノが付替えたんだろ」


「違う違う。間違いなくあのガキが確殺した。目の前で見たんだぞ」


 クオン襲撃時、主に要塞敷地内で応戦した部隊員。彼らは周辺警ら後の1日ぶりのまともな食事にありついていた。目下の話題は訓練用の想甲兵で四足八級クオンを討伐した訓練生だ。機動性、再生能力が高く、難易度的に三鐘十四級でも二対一でないときつい相手だった。


「飛んだと思ったら、そりゃもう流れるような鎧流しだった」


「おうさ、中身はうちの娘ぐらいでまた驚いた」


「ナハジの話じゃ、最初の発見者もそのガキらしいぞ」


「いやまて、そりゃ盛りすぎだろ。ナハジ! ほんとか!」


「ほんとだマヘル。オリノの指示だが、最初に指差したのはそのガキだ」


「剛鉄とは同籍らしいぞ」


「「「「「お────」」」」」(一同驚きの声)


 「ミ-リャの隠し子か?」だの「弟子だろ」だの、マリエス要塞の食堂は現在禁酒令が出ているが、素面とは思えない盛り上がりを見せる昼飯時であった。



 午後になって訓練の打ち切りが決まった。運よく物資搬入の輸送車が空荷で帰るというので全員で便乗する。で、トラック待ってたら要塞守備隊の人から今回の早期発見の礼だと言って食事券を貰った。あと、配属先はぜひここを希望してくれとお願いされた。とりあえず曖昧に笑ってお礼を言っておいた。


 さてどうしたものかと食事券をひらひらさせていたら、今度は教導官から声をかけられた。おじさまにモテモテだ。


「どうしたストラ?」


「あー、守備隊の方から食事券をいただきました。オリノ教導官」


「ほー、そこはいい店だぞ。マヘルの隊にしては気が利いてるな」


「あと、配属先として推薦されました」


「正直あまりお勧めせんな。お前は基地詰めより猟兵向きだ」


「はぁ……」


 到着したトラックはなんかえらくすっきりとした外観だった。運転席に屋根がない。もちろん荷台にも。車体中央からカニみたいに伸びたサスペンションに車輪が付いていた。地球だと山間部で使う重機で見たことある。今回は想甲兵が2機、ここから3キロ程度は護衛に付いてくれる。さっきのマヘルさんとこの隊ではないようだ。


「ストラ。お話があるんだけどよろしい?」


「どうしたのヨース?」


「……その、食事しない? 私の友達も一緒に」


 荷台に乗り込む時、黒髪の背の高い女の子がさっと隣を確保したので、何かあるかなと思ったら食事のお誘いだった。


「それと、できればその……アンリさんとご一緒できれば」


「うん。誘ってみるよ」


 割とクール系のヨースが照れながら言うもんだからきゅんとした。そういや、テントにアンリ来た時、遠目でソワソワしてたもんな。同年代から見たら憧れなんかな。


「ちょっと待て。俺も参加したい」


「ラキ。空気読んでよ……」


「できれば俺も」「私も」「はいはーい」「……(手を挙げる)」


「えぇぇ……」


 予想外の参加者に愕然とするヨース嬢。結局、ここの10人とその友達ということで20名ほどの参加になった。基本的にアンリの都合に合わせるのが最優先として、場所は皆の金銭事情を聴取してヨースが決定する運びとなった。


 トラックというよりトラクターでの帰投は20分ほどで完了した。歩くよりは早いけど、やっぱり汽力域では出力がでないのか、ずいぶんしんどそうに動いていた。それを考えると、サンザノの町は業地、陵地どっちの動力でもほぼ5割引きなのだ。それでも町があるのだから、何かメリットがあるのだろうな。


 私は教導官から呼ばれているので、探題のロビーへ向かった。分厚いドアを「んしょっ」と開けて、振り向いたら目の前が全部アンリだった。


 無言でペタペタ体中を触られ、腕を上げ下げされて、後ろ向かされて、またペタペタ。ひとしきり確認されてがばっと抱きしめられた。


「アンリ。具合なら聞いた方が早くない?」


「やだ。ストラも黙ってそうだから」


 きっとクオン襲撃の件だな。タイミング的に、今朝方聞いたんだと思う。


 放してくれそうにないので、抱っこされたままペコペコ歩いて受付に向かった。受付は美形ショートボブのキールス副教導官だった。ここって人手不足なのか? オリノ教導官の件を伝えると30分ぐらい待たしていいからと、にこやかにロビーの椅子を指差された。


 20分後、キールス女史に連れられて執務室に入ると、書類作業中の教導官から「げっ」と小さく声がした。筋骨隆々で、坊主頭の強面が焦る姿はちょっと面白い。


纏装てんそう訓練3日の訓練生に昇鍾受験資格証ですか。なんですかこの戦績証明書は」


「待てエボナー。誤解だ。危ない事は一切なかった」


 彼女の声は、はたで聞いてるこっちの肝が冷えるような声だった。オリノ教導官からの緊急救助要請の視線が痛い。あんまり、関わりたくないけどしょうがない。


「キールス副教導官。教導官のおっしゃる通り、私は最も安全な場所にいました」


「ストラ君。かばってませんか?」


「いえ、余計な事をした私を最大限補助していただきました。感謝しております」


「……そうですか」


 全力で頷くオリノ教導官。結局、よくわからないまま昇鍾受験資格証とやらを貰った。この資格試験は1期に2回しかないので、3か月後の次回受験するよう言われた。想甲兵の免許取得みたいなものだろうか。まぁ、確かに武器だ。免許くらいいるだろう。あ、そうだ。


「お二人にお伺いしたいのですが、受像機ってご存じですか?」


「ん? 珍しくはないが……出回ってるのは、だいたい壊れてるな」


「それなりの立場の方なら、使える状態でお持ちじゃないかしら」


 意図を聞かれたが、単に動いてるのを見たかったといったら納得してくれた。機械好きには一定の需要があるそうだ。そういう所は男の子なんですねとキールス女史には微笑ましく見えたようである。


 アンリと帰宅途中に先ほどの資格証見せたら、普通に早いと驚かれた。どういう試験なのか聞いたら。想甲兵には『鐘』というランク分けがあり、6段階ある。数字が大きいほど優秀な想甲兵で、それを認定する試験だそうだ。


 どう優秀なのかというと、なんか色々と認定スペックがあるようだ。鐘が増えれば割り当ての送信動力が増える。当然、想理で扱える重さも増える。まぁ、打撃がメインっぽいから質量は重要だ。


「アンリって鐘いくつなの?」


四鐘(よつかね)。カラーン、カラーンて鳴らしたよ」


「え!? ほんとに鳴るの?」


「昇鐘試験って……、こうやって測定石を持ち上げるんだよ」

 

 と、アンリは御者台で座ったまま背筋力測定みたいな姿勢をとった。持ち上げた分だけ鳴る鐘が増えていくそうだ。自分でファンファーレ鳴らすのか。兵役初日で受けたヤツの豪華版だな。教導官の持ちネタの元ネタはこれか。


 ちなみにランク上げないと上位の装備も買えないそうです。ランクで取扱い重量増えるとか重機免許みたいだな。





 5日ほど経って訓練生の食事会の日、当日。せっかくなのでツインテにしたら、アンリのヘアメイクを申し付かった。同じ髪型もどうかと思ったので、編み込みにする事にした。びっしり編んだのでショートっぽい髪型になった。割と細面なので姫騎士みたいだ。いつもならスカートなんだが今日はパンツルックにショートブーツ。


 かっこいい。さぁ、アンリ。君は私のナイトだ。色々とやばそうだから守ってね。なんか泣けてきたな。


 鎧馬マツの引く荷馬車に乗って、サンザノのお食事処へ。宴会向けのレストランって感じだ。店先でヨークの名を出すと店の奥の部屋へ案内された。


 あれ、意外ととリッチだこれ。アンリを伴って部屋に入ると、20名くらいが全員が起立した。何事かと思う。


「は、初めまして。ヨース・ノーテカです。本日はご参加いただき光栄です」


「お招きありがとうございます。よろしくお願いします。ヨースさん」


 幹事のヨースがアンリを上座へ案内する。というか上座の概念があるんだ。大きなテーブルが3台。2台それぞれに10人づつ。1台は料理が置いてある。


 バイキング方式だね。私はアンリの隣に座る。席に並んでるのは、空の皿とジュースが注がれたグラスだ。まぁ、酒はないよね。よかった。


「それでは、始めましょう。豊穣を我らに!」


「「「豊穣を我らに!」」」


「いいぇーい!」「お疲れーっ!」


 さっそくアンリのところに詰め寄る地元女子と男子。ほとんどが『六本腕』討伐のお礼だ。場所が場所だけに血縁に猟兵がいる者が多いので被害者も多い。親や親戚からぜひ礼を言われた子もいた。私はオマケなので皿の盛付に専念するのだ。


「ストラ、なんだその髪型」


「え? 似合ってない? ロキ」


「いや、似合ってはいるけど……」


「将来、ロキみたいな体格になったら、かっこいいのにするよ」


「「「絶対ダメ!」」」


 女子に猛反対された。さすがに成長はどうしようもないぞ。ていうか、成長するよね。この体。いや、本気で心配になってきたぞ。


「ストラちゃん。それどうやってるの」


「真ん中から割って結ぶだけだよ。エレーメ。なるべく上でね」


「うーん、もう少し長くないと子供っぽくなっちゃうね」


 この身長が私より少し高い亜麻色セミロングの子は先行選抜で一緒だった。3区街の子で寮生だ。今日は相部屋の子と2人で来てる。ちなみに、将来の夢を聞かれて「ナイスボディ」と答える面白い女だ。そして同期のファッションリーダーだ。


 適当に皆の相手をしながら、アンリの皿に料理を運ぶ。


「ねぇ、ヨース。ヨースの家ってお金持ち?」


「ずいぶんとはっきり聞くのね。ま、まぁ裕福ではあるわ」


「受像機ってある?」


「受像……ああ、おじいさまが変わった形の物を趣味で集めてらしたわ」


「ひょっとして壊れてた?」


「ええ、その通りよ。そもそも爵位権限がないと動かせませんし」


 それなりの立場ってそういう意味か。貴族ねぇ……。賑やかな皆を眺める。アンリも普通に談笑してる。会話の内容が想甲兵関係なので、若干物騒なのはご愛好だろう。話の流れで、ストラってアンリさんのお弟子さんなのかと聞かれ、違うよと否定してたら、類友という事に落ち着いていた。そういう概念もあるのね。


 その後、お食事会は2時間ほどでお開きに。先に確認済だったのでお会計の際には守護隊の方にもらった食事券を使わせてもらった。日本円だと5万円相当あったので、えらく感謝された。ヨース嬢にも。まぁ、半額くらいにはなったかな。高校生程度の歳だしそんなお金持ってないよね。


 こんにちは、そしてグッバイ俺の雑収入。



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