第2話 大変だ! 通知壊れた⁉
「大変ですわ! 大変ですわ~!」
ウーミーが血相を変えて練習場に駆けこんできた。
みんな準備運動を一時中断してウーミーのもとに集まっていく。
なんだなんだ?
ウーミーが騒がしくするなんてめずらしい。
「ちょっと、海さん。足痛めてるのだから、部屋でおとなしく安静にしてなさい」
ウタが呆れたようにため息をつく。
そういえばそうだよ。まだ治ってないでしょ。なんのために練習休んでいるのやら。絶対走っちゃダメでしょ!
「そんなことより大変ですわ! 通知が通知が!」
ウーミーが自身の端末を掲げてみせた。
耳を澄ましてよく聞いてみる。すると、端末からポロンポロン、ポロンポロン、おかしな連続音が鳴っていた。
うーん? 端末壊れたのかな。
「大変です! 大変です!」
サクにゃんが血相を変えて飛び込んでくる。
今度はサクにゃん?
サクにゃんが騒がしくするのは……いつものことだね。
「桜さん、遅刻やで。事前に連絡してもらわんと困るわ」
シオが慌てるサクにゃんを気にも留めずにシンプルに注意する。
そうだよ、無断遅刻はダメ、絶対。
ロボット製作が忙しいのかねえ。
「そんなことより大変なんです! 通知が通知が!」
また通知? 端末壊れるブームか何か?
「「通知が止まらないんです(わ)!」」
ウーミーとサクにゃんが微妙にシンクロする。
あらあら、仲がおよろしいこと。
「2人とも端末壊れたの? それなら花さんに言って修理に出してもらわないと」
「そうじゃないんですのよ」
「そうじゃないんです!」
「「通知が止まらないんです(わ)!」」
2人の目が血走っていた。あと、ちょっと目の下にクマもできていた。
うーん、圧が強い。
「とにかくこれを見てください!」
サクにゃんが画面を開いてボクたちに見せてくる。
「サクちゃん、大騒ぎしてどうしたんですか~?」
メイメイがサクにゃんの端末の画面に近づいてのぞき込む。
ちょっとー、メイメイの頭で見えないよ。
「すごいです~! フォロワー5万人です~! おめでとうです~」
メイメイがその場で謎の祝福ダンスを始めてしまった。
えっ? フォロワー5万人⁉
見せて見せて!
「今朝起きたら、フォロワー数が大変なことになっていたんですわ!」
ウーミーも端末を見せてくる。
こっちは6万人⁉
「2人とも昨日までは……たしか1万ちょっとだったよね? 何が起きたの⁉」
もしかして、デビューイベントが大成功したから一気に知名度が⁉
はっ! メイメイのアカウントは⁉
8000人じゃん! なんで⁉
いや、昨日から1000人も増えてるからめっちゃ伸びてはいるんだけど! でも!
「ん~、原因はこれやな」
シオが画面を見せてくる。
これは、ファンの人のアカウントかな?
「この投稿や」
あ、これは……。
「スポフェスの時の、ラストのキスシーンの切り抜き、ですね……」
レイが言う。
ウーミー(レイ)が、サクにゃんのほっぺにキスのところがきれいに切り抜かれてSNSに投稿されていた。
「ファンの方が切り抜いた写真がバズったらしく、わたくしと桜さんのアカウントに殺到してきたようですわ!」
ウーミーが興奮気味に言う。
スポフェスって撮影禁止だったような……。まあこの際それはいいか。
ボクも自分の端末でその投稿周りを追ってみる。
あったあった。
関連の投稿がいっぱい出てくるー!
「『#期待の百合アイドル』ってなにさ……」
デビュー初日から百合アイドルのレッテルを張られるっていったい。
めっちゃ盛り上がってるー。
「コメント欄に『#海桜』でイラスト上がりまくってる……」
「『#海桜』のイラスト、どれもめっちゃ尊いやんなぁ」
「ねえ、シオセンセ……自作自演でしょこれ……」
「ぜ、全部やないで! ちゃんとファンの子たちも投稿してくれとるで!」
自作自演の部分は否定せず。
けしかけたのが誰なのかちょっとわかっちゃった気がしますけれども。
あー、よく感想配信してくれる人のイラスト投稿もあるね。この人、絵も描けたんだ! 喋れて絵も描けて多才だなあ。
こっちの人も見たことある。
お、サクにゃん推しの人もいる。
「『#海桜』はノーマークでしたね。うかつでした」
「えっと、それをレイが言っちゃうの?」
すまし顔で、完全に他人事のように語ってますけど?
この写真に写っているのはレイさんですよね? つまり本当の中身は『#零桜』なわけで……。
「わ、わたくし……以前から百合には少々興味がありましてよ。ですが知識が乏しく……」
ウーミーさん……あなた何言ってるんですか?
そういうのって堂々と宣言するものではなくってよ?
あと、頬を赤らめながら言うとガチっぽいよ?
「さ、サクラも知識が乏しく……」
はいダウト!
あなたは超望遠のカメラで参考資料撮りまくってるし、シオセンセのいけないマンガの熱狂的な読者ですよね?
たまにそっち系の長文ポエムを夜中にDMで送りつけてくるのやめさないね? まあ、けっこうな頻度で全員のグループのほうに誤爆してるから、みんな知ってるけどね?
「しゃあないな! ここはこの百合博士のシオセンセが一肌脱いだろか~」
「わ~い、シオちゃん脱いでください~」
メイメイがシオの服を引っ張り始める。
いや、物理的に脱ぐわけではなくてね……。でもまあ、実際脱いでも百合の勉強にはなる、のか……。ふむ、では続けてもらいましょうか。
「ええい、お約束はやめ~い! おまえたちぺーぺー百合アイドルのために、うちが特別講座を開いたる! おとなしく席につかんかいっ!」
シオはメイメイを引き剥がし、おなじみのホワイトボードを引っ張ってくる。
特別講座か。しかも百合の……。
今回の講座受講者は6名。ウーミー、サクにゃん、メイメイ、レイ、ウタ、そしてボクだ。
百合に関して一応整理しておくと、ウーミーは初心者。メイメイはたぶん多少好き程度。レイはまあまあ好き程度。サクにゃんは最近急激にはまってる。ウタはガチ勢。
まあ、こんなところかな。
自称百合博士による百合アイドル向けの特別講座が始まってしまいますね。
いや、≪初夏≫はぜんぜん百合アイドルじゃないからねっ⁉




