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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第51話 レイの秘策、サクラの秘策

「遅くなりました! サクラ、全開バリバリで行けます!」


 レイよりも先に、サクにゃんと都が楽屋に戻ってきた。


「ちょっとは眠れたかな?」


 ボクの問いにサクにゃんはピースサインで答える。

 顔色はさっき楽屋に送って行った時よりも良さそうだ。だいぶ回復しているようで少し安心した。


「みなさん、ご心配をおかけしました!」


 サクにゃんが深々と頭を下げる。

 まあ、復活できて良かったよ。信じてたけどね。


「えっと、他のみなさんは……」


「ああ、それについてだけど――」


 ことの顛末をかいつまんでサクにゃんに説明する。


「そうですか……海さんが……」


「私が毎日自主練に誘わなければこんなことには……」


 ハルルが自責の念を述べる。

 リーダーだからと言って、なんでも背負い込もうとするのはハルルの良くない癖だ。


 都がハルルの肩をやさしく叩く。


「春さん、今すべきなのは何? どうしようもないことで自分を責めること? それとも目前に迫ったデビューイベントの完成度を上げること?」


「完成度を上げること、です……」


「よろしい」


 ナイス都!

 そう、振り返るのは今じゃない。


「レイちゃんが代役の準備に行ってはるから、いったんあーしらは待ちの状態やで。サクにゃんも座ってここで体を休めとき~」


 ナギチの言うとおり、今ボクらにできることは体を休めることと心を落ち着かせることくらいだ。

 無理に練習して次に誰かケガでもしたらもう目も当てられない。


「それと花さんがフォーメーションの練習ができる場所を探してきてくれてるし、お菓子でも食べてのんびり待とう」


 サクにゃんは、あいかわらず不安そうな表情を浮かべていたが、まだ本調子ではないのか、黙ってボクの言葉に従い、イスに腰かけた。



「それにしてもレイちゃんがな~。まさか引き受けるとは思わなかったで」


「私がセンターの代役を買って出ていれば……」


「ハルル、今すべきなのは?」


「完成度を上げること、です……」


「違う違う、笑顔笑顔! アイドルは笑顔が基本だよ。そんな眉間にしわを寄せたアイドルがどこにいるの?」


「えっと、笑顔……」


 ハルルが無理やり笑顔を作る。めちゃくちゃひきつっていて不自然すぎる。

 いきなり笑えって言ってもさすがにこの状況ではきついか。

 でも――。


「あれー? 若手注目株の演技派アイドルのハルルさんって、笑顔はそんな感じでしたっけねー? 10万再生の動画では確か……」


「やめて~! それをここで流すのやめて~!」


「あの動画の春さん、本当にお綺麗で。恋ってこんなふうに表現するんだって……」


 サクにゃんがうっとりした表情で語る。

 あれは奇跡の一枚の類なのかもしれない。でも、本当にきれいだった。ハルルはすごい。それをもっと世間の人に知ってもらいたい。


「あれは意識して演技できてていたわけじゃなくて偶然の産物で……みんな私のことを買いかぶりすぎなのよ!」


 ハルルの顔が見る見る真っ赤になっていく。

 まあ、あれ、隠し撮りだしね。


「偶然でもええんちゃう? ベテラン女優やないんやから、偶然でもなんでも、あの演技がフィルムに収まってたら勝ちやで」


「世間の人たちは、無名の新人のコンテンツにも、『良いものは良い』って、ちゃんと評価してくれていて安心したわ。それがわかっただけでも大きな収穫なんじゃないかしら?」


 都の冷静な評価。

 本当にその通りだと思う。

 有名なコンテンツだけに飛びつくわけじゃなく、正しく評価してくれる人がいる。世間も捨てたもんじゃないね。


「サクラのロボット動画は……一部の大学生たちからラブレターみたいなのが届くだけで……」


 それはやっぱり、内容がコアすぎるのかもしれない。ロボットアニメ好きの人が再生してくれたとして、巨大ロボットの作り方を大真面目に解説されてもピンとはこないだろう。喜ぶのはロボットコンテスト出場を目指すような人たちか……いるかわからないけど、本当に巨大ロボットを作っている秘密結社的な人たちか?


「あーしのスイーツ作り動画はもうちょっとバズってもええんちゃう? こっちもなんや一部の人たちからは絶賛されとるんやけど、なんていうか広がっていかへんのや」


 ナギチのスイーツ作りには可能性を感じるんだよなあ。

 きっかけがあればアイドル料理研究家みたいなポジションは狙えそうな気はするんだけど。

 それにはやっぱり、ナギチが有名になるしかない気もしている。本末転倒だけど。


「そういえば、最近の早月さんの動画はジワジワ再生増えてますね」


「そうなんだよ! サクにゃん見てくれた?」


「サクラはフェザースティックのショート動画が好きでした。ああいうのをロボットが作れたら素敵だなって思います」


 またロボット……。

 そのうちソロキャンじゃなくてロボットとのペアキャンの時代が来るのかなあ。そのほうがセキュリティ面では安心だし、とくに女性向けにはニーズはありそうな気はするけれども。


「あーしはうさぎやな。カエちゃんの動画にサッちゃんが解説入れてる風が逆に新しくて良かったで」


「いや、あれは……」


 レイの撮り方の問題もありまして。

 あとボクがちょっとテンション上がりすぎて邪魔をしてしまった気がしてまして。


「でも、ファンの投稿したお題に答えていくのは良さそうやんな?」


「投稿数も徐々に増えているし、企画としては良かったと思ってる。写真や短めの動画をどんどん公開していきたい」


 なんにせよ、少しずつファンが増えているのを感じられるのはとてもうれしいし、充実感がある。

 でも、どこかでどかんとブレイクしたい……。



* * *


「みなさん、おまたせしました」


 お、レイ! 戻ってきたんだね……え、レイ、なの⁉


「レイちゃんそのかっこうは⁉」


「どうでしょうか。わたし、ちゃんとうみ先輩できていますか?」


 ボクたちの前に立っているのはウーミーだった。

 でも、ウーミーがレイの声で話していた。


 ボクの脳がおかしくなったのかもしれない。

 見た目がウーミーなのに、レイの声が聞こえてくる……。


 なんでレイがウーミーになっているの⁉


「私も手伝いました~。レイちゃんが先輩のコスプレをしたんですよ~」


 メイメイがうれしそうにウーミー(レイ)の肩を揉んでいる。


 ああ、コスプレか……って、これはコスプレってレベルじゃないよ! ほとんど、いや、完璧にコピーしてるって。もう特殊メイクレベルのクオリティだよ。


「海さん? あれ?……零さん?」


 サクにゃんはまだ混乱していた。

 無理もない。あまりにもそっくりすぎて、しゃべらなかったらウーミーにしか見えないもん。


「メイクがんばりましたよ~」


「メイクだけでこんなにいけるもんなんや?」


 ナギチの感想に完全に同意だ。

 メイクの一言で片づけるのは無理がありすぎるよ……。


「うみ先輩をイメージして、うみ先輩になり切ってメイクしましたから」


 レイ……そのメイクって、顔のメイクだけじゃない、ですよね……。


(うみ先輩をイメージして実体化(メイク)したわたしです)


 念話をしながらウーミー(レイ)が口角を上げて小さく笑った。

 なるほどね……しかしホントにウーミーそっくりだなあ。


 それにしても、メイクって便利な言葉ですね!


「あとは口調と……声か」


 こんなにそっくりなウーミーのコスプレができたとしても、残り数時間でダンス、口調、そして声、歌の完成度まで上げていかないといけないなんて。

 なかなかまだ課題が多い……。


「あ、それならサクラがなんとかできるかもしれないです」


「なんとか、とは?」


「ちょっと待ってくださいね。たしか荷物の中に……」


 サクにゃんが自分のカバンの中をゴソゴソと探って、何かを取り出した。


「ありました~!『脳波信号・音声変換くんType-A(試作版)』です!」


 まーた、やばい名前のやつ出てきた。


「えっと、それは、体の自由を奪われるやつですか?」


「それは『脳波信号バイパスくんUltima』やんな。あれは試験をパスしたから完成ということで一旦開発を終えてるで。今度の試作型医療用ロボに組み込む予定や。あ、社外秘だからここだけの秘密な」


 ナギチが解説してくれる。

 社外秘は社外には秘密ってことだから、ここでは言っちゃダメだよ……。


「Ultima……試作版じゃなくなってるのか。じゃあ今回のは?」


「『脳波信号・音声変換くんType-A(試作版)』はまだまだ試作版ですが、脳波信号に加えて、声帯の振動もキャッチして蓄積。あらかじめインプットしておいた音声パターン・言語パターンに変換して即時提供する、といった仕組みになっています」


 サクにゃんがドヤ顔で語ってくれるが、ぜんぜん意味がわかりません!


「サクにゃん、それだとわかりづらいで。つまりやな、平たく言うと変声器と翻訳機を兼ね備えたもんやな。どれ、実際に見せたろ」


 そう言って、ナギチは『脳波信号・音声変換くんType-A(試作版)』と自身の端末をつないで何かを操作する。そして、その小さなチップをサクにゃんの首筋にとりつけた。


「OKや。サクにゃん話してみ」


「あ~あ~。テステス。どうや? あーしの声、うまく変わっとるか?」


「え~、すごいです~。ナギサちゃんです~」


 サクにゃんの口から出てきたのはナギチの声、しかもちゃんとエセ関西弁っぽくなっていた。


「こうやってあらかじめ声のサンプルと言語パターンをセットしておけば、どんな声や口調でも自由自在や。ちなみにウーミーちゃんのも準備しとるで」


「え、なんで」


「メンバーのは声のサンプリングもしやすいやんな。実はもうすでに10人分プリセット済みや。あとは花ちゃんやコーチ陣のもあるで」


 え、怖い。

 この精度で真似されたら電話口だとだまされちゃう。


「さっそくウーミーちゃんの声にセットして……よし、レイちゃん、このチップをつけて、試しにしゃべってみよか」


 レイがチップを受け取り、自分の首筋に装着する。

 小さく深呼吸してから口を開いた。


「どうかしら? わたくし、ちゃんとしゃべれていまして?」


「かかか完璧だー!」


「すごいです~、ホントに先輩だ~」


「どこからどう聞いても海さんだわ……」


 それぞれが感嘆の声をあげる。

 サクにゃんチームの開発力に助けられることになるとは……。

 その技術力、ホントに絶対悪用しないでね。


「これはすごいですわね。わたくし、これなら舞台でも緊張せずに歌えそうですわ」


 ウーミー(レイ)がうれしそうにしている。


 そうか、レイ自身として舞台に立つのは難しいかもしれないけれど、ウーミーという仮面をかぶれば、レイは演技できるのかもしれないな。


 いける、いけるぞ!

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