第49話 ボクらの決断
(花さんから緊急招集です)
レイ! ちょっと待って。今サクにゃんを寝かせてるから、少ししたら行くって伝えて。
(わかりました。伝えます)
まいったな。
緊急招集というからには、きっとウーミーはステージに立てない状態なのだろう。あんなに練習して……おそらくウーミーが今日という本番の日を1番楽しみにしていたんじゃないだろうか。
なんとか出演させてあげたいけれど、今日の2曲はどっちも盛り上げ系の曲でダンスが激しい。足の状態が万全でないならかなり厳しいだろうと思う。
ふとサクにゃんのほうを見ると、もう静かに寝息を立てていた。ようやく薬が効き始めたのだろう。しばらくゆっくりお休み。あとはなんとかしておくから。
よし、起こさないようにいくか。
音を立てないように楽屋の扉を開いて外に出る。
集合場所は、と――。
* * *
「おまたせしましたっ!」
急いで集合場所に向かうと、狭い物置小屋のようなところにみんなが集まっていた。メンバーは、花さん、都、レイ、メイメイ、ハルル、ナギチの6人だ。
「桜の様子はどう?」
花さんの表情が険しい……。
「ええ、とりあえず今は薬が効いて寝ています」
「そう、なんとか回復してくれれば……桜は平気そうね……」
桜は、か……。
「ウーミーのケガの具合はどうなんでしょうか」
花さんは小さく首を振った。
そうか。やはり。
「先生のお話だと、骨に異常はないそうよ。でも、今日は安静にと……」
そう言って都も小さく首を振る。
「やっぱり左足ですか? 昨日気にしていたので医務室で診てもらっていたんですが……」
「いいえ、右足首です。本当につまずいただけのようで、不運な事故だったと思います」
レイも悲しそうに首を振る。
「仮設やからかな……。ちょっといつもの床の感じとはちゃうかったかもしれへん……」
ナギチも悔しそうだ。
でもまだだ。みんなそんな顔をしちゃいけない。本番で失敗したわけじゃないんだから。
なんとか今日のデビューを成功させるためにできることは……。
「今から4人のフォーメーションで組みなおしましょう」
今日は≪初夏≫の大切なデビューだ。
≪初夏≫だけでデビューさせてあげたい。まさか代理が入るなんてもってのほかだ。
「1曲目はそれでもなんとかなるかもしれないわね。でも2曲目は……」
そうだった……。
2曲目の『サツマイモラブ』は、サクにゃんとウーミーのダブルセンターの曲。2人の掛け合いがダンスにも多く取り入れられている。今からそれを1人にするのは、あまりにも内容が変わりすぎるだろうし、さすがに厳しいと言わざる負えないか。
「とすると誰か……ハルルかメイメイか……代わりに前へ?」
「自分のパート以外はちょっとまだ覚える余裕がなくて……」
「私、サツマイモラブのセンターは自信ないです~」
2人ともダメか……。さすがにこの曲のセンターは特殊な動きが多いから……。
「あーしには聞かんのかいっ!」
ナギチがちょっとおちゃらけた感じでツッコんでくるが、やはり元気がなくどこかキレがない。
「あ、じゃあナギチお願いね」
「そこまで身の程知らずちゃうわ!」
顔の前で大きなバッテンを作っている。そこは冗談でも「やったるで!」を聞きたかったよ……。
「カエデちゃんは、どうして自分が出るって言ってくれないの……?」
ハルルがつぶやくように言う。
「ハルル。今日は≪The Beginning of Summer≫のデビューの日なんだよ。そんな簡単に代理がどうのって話じゃないでしょう?」
アイドルにとって最も大切な始まりの儀式。原点はここだったんだな、と後にメンバーが、そしてファンたちが振り返る聖地になるはずの場所なんだ。
「でもウーミーさんは踊れなくて、今私たちは4人しかいないのよ。いったいどうしたら良いの⁉」
ハルルが叫ぶ。
その気持ちはわかる……でもどうするのが正解なのか……。
「ボクは……」
みんなの視線が集まるのを感じる。
ボクに代理で出ろって、みんなそう思っているのか。
それで良いのか、本当に。ファンのみんなはがっかりしないか。ここでの選択がこれからの≪初夏≫の活動に大きな影を落とすことになるんじゃないか。
ボクはどうしたらいい。
「医務室の海と通話をつなげたわ」
花さんが、自身の端末をみんなの真ん中あたりに静かに置いた。
「海、話してちょうだい」
「はい。わたくしは……自分の不注意で……今日の、わたくしたちのデビューという大切な日に……ステージに立てないことを本当に悔しく思っています。みなさんには大変なご迷惑を……謝罪しなければなりませんわ。本当にごめんなさい……」
苦しい……。かすれて震える声、息遣い、その一言一言が重く、ウーミーの激しい自責の念が伝わってくる。
「先輩……」
あまりに重たい謝罪。
それに対して、誰も「気にしないで」と声をかけることすらできないでいる。
「ウーミーさん、私たちは今日を……」
「待ってください。もう1つだけ、わたくしから話をさせてくださいまし」
何かを言いかけたハルルを、ウーミーが制止する。
「……どうぞ」
「今日のステージ、もし、わたくしのわがままを聞いてくださるなら……零さんに代わりを務めていただきたいのです」
ウーミーの言葉に、その場にいる全員が息を飲んだ。
ああ、そうか。
ボクが引っ掛かっていたのはこれか。
ウーミーの代理はボクじゃない。
ウーミーが自分の意思を託す相手はレイだ。




