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第9話 食堂にて天使先輩と

 エレベーターから降りても、メイメイと目的地は同じだ。とくに会話はないが、食堂まで連れ立って歩く。といってもエレベーターホールから20歩くらいの距離。


 メイメイが食堂の入口に端末をかざすと、緑のランプがつく。ネックストラップがボクと同じ青だ! うれしいなあ。

 ボクも同じように端末をかざして中へ入った。


 うわ、めちゃくちゃ広い。

 小学校の体育館くらいはありそうな空間にテーブルが大量に並んでいる。すべて二人がけの小さめサイズ。

 人はほとんどおらず、ポツポツと間隔を開けて座っている。ボクたちくらいの年齢の人もいれば、大人も混じっていた。


 花さんはどこかな?

 と、探していると、こっちに向かって手を振っている花さんを発見。足早に近づく。


「「すみません、遅くなりました」」


 声がシンクロする。

 

 反射的に後ろを振り向くと、メイメイが口元に手を当てて固まっていた。


「2人とも遅い! 早く……カウンターで……受け取ってきなさい」


 花さんがこちらも見ずに何かを頬張っている。え……なんかすでにどんぶりが積み上がってるんですけど。


「は、はい! カエくん、行きましょう~。カウンターはこっちですよ~」


 メイメイがボクの手を取り、食堂のカウンターのほうへ歩き出す。肩に届くか届かないかくらいの柔らかそうな髪の毛が、ボクの目の前を左右に踊っている。

 

 あ、あ、あ……。

 しあわせ過ぎて死ぬ……。



「何にしますか~? 今日の日替わり定食は……ガパオライスか~。う~~~ん」


 メイメイがメニューを見ながら眉根を寄せている。食事に悩むメイメイかわいすぎか! もうなんだかおなかいっぱいだー。


「よし、決めました~! すみませ~ん、オムライスください~。デミグラスソースのほうで。カエくんは決まりました~?」


「あ、えっと、同じので」


「すみませーん、オムライスもう1つお願いします。ソースも同じで!」


 メイメイは再びボクの手をとると「あとはあっちで受け取りますよ~」と、受け取りカウンターへと案内してくれた。



 5分ほどでオムライスが2つカウンターへと置かれた。

 メイメイが食堂の人が差し出した機械に端末をかざしている。


「はい、ではそれを持って席に戻りましょう~」


「さっきのは、もしかしてボクの分も?」


「今日はまとめて注文したので払っちゃいました~。ここは先輩に任せて奢られちゃってくださいよ~!」


 仰け反って胸をポンポンと軽く叩く先輩ムーブ再び!


「うおーこれがリアル天使か! 天使先輩!」


「天使だなんてオムライスくらいで大げさですよ~」


 メイメイが恥ずかしそうにクネクネしている。

 え? もしかして今の声に出てた? キモイのがバレちゃう……。


「ハッ! 花ちゃんに怒られちゃうから急ぎましょう! 天使先輩に着いてくるのです~♪」


 天使先輩ってあだ名、めっちゃ気に入ってるじゃん。天使か!



「あら? 同じものを頼んだりして、もう仲良し?」


 花さんはご機嫌な様子だった。

 アイスクリームの器が1、2、3、4……ふむ。


「エレベーターで仲良くなりました! 私の後輩ですよ~♪ フフフ」


 メイメイよく笑うなあ。

 ボクの知っているメイメイは、もう少しストイックなイメージで、笑う時もどこか控えめで。

 オフの時はこんな感じなのかあ。というか、これがボクの願望の中のメイメイか……。


「あら、零も戻ってきたわね」


 仙川さんが白いカップを顔の高さに持ち上げた状態でこちらに近づいてくる。若干遅れてコーヒーの香りが漂う。

 あいかわらず目元は前髪で見えないが、口角が上がっていて、その……コーヒーの香りがなかったら、黒魔術の実験みたいに見えるって……。


「紹介します。こちらがアイドル候補の夏目早月さん。それでこちらが、今日からマネージャーとして働くことになった七瀬楓さんと仙川零さん」


 花さんの紹介を受けて、ボクたちは、よろしくお願いします、とそれぞれ会釈する。


「早月は1ヶ月ほど前からアイドル育成プログラムに参加しているわ。詳しくは来週説明するけれど、2人がペアリングする予定のアイドル候補ユニットに所属しているので、ちょうど良かったわ」


「そうなんですね~! 私、カエくんに担当してもらえるんだ~。うれしいです~~~」


 メイメイがぴょんぴょん飛び跳ねて、メイぴょんになっている。

 ボクがメイメイのマネージャーってこと⁉


「まだバディは正式な決まってないのでこれから検討を……あ、待って」


 花さんが端末とにらめっこを始める。


「なるほど、そうなのね……。楓、あなたは早月と組むことになってるわ」


「え? ホントのホントにですか⁉」


「ええ、2人はバディよ。正式な辞令は来週になるけれど、内示がきてたので、まあいいでしょう」


「やった~! カエくんだ~!」


 髪の毛が左右に跳ね上がり、うさぎの耳みたい。メイぴょんがメイぴょんぴょんに。


「とこでその……バディって何ですか?」


「バディと言うのは……あ、ちょっと端末で調べておいて、説明があるから」


 花さんはそう言って、席を立ってどこかへ行ってしまった。


 なになに?

 バディとは……ペアリングするアイドルユニットとマネージャーユニットの中から、それぞれ1名ずつによって形成される1対1のコアユニットのこと。コアユニットは基本的にオーディション通過後も変更されずに継続される。


 ふむ? つまり?


「バディはアイドルとマネージャーさんの2人ペアのことなんですよ~。ずっと一緒に成長していく夫婦みたいなものって花さんが言ってました~」


 夫婦だと……。

 ボクとメイメイがバディで夫婦! 2人で成長していく。ボクはメイメイがアイドルになるのを支えるマネージャー。

 なにこれ、めっちゃいいじゃん!


「その分だと、バディのこと理解できたみたいね? 正式な辞令は月曜日になるけれど、その前に他の寮組のメンバーとも顔合わせはしてしまいましょう」


 いつの間にか花さんが戻ってきていた。

 両手に巨大なパフェ。右にチョコレートで左に抹茶。細いのにすごいな、この人。


「お祝いに私もたくさん注文してきますよ~」


 メイメイがカウンターのほうへ走っていく。


 あ、ボクのオムライス冷めちゃった。


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