第44話 メイカエレイは動物園へ行く
「おおー、これが柊アクア様なんだね。メイメイの書いてる作品のSっぽいVTuberのヒロインだっけ?」
「そうです~。全然うまく描けないです……」
メイメイが頭を抱えていた。
まあ、女の子かな? ってくらいはわかるから……たぶんきっとおそらく平気!
「最初はみんなそんなもんやで。ここでやめるか、投げ出さずに描き続けるか。それだけの違いや」
シオがメイメイの肩をやさしく叩いた。
継続は力なりかあ。まさにこの企画のためにあるような言葉。
「初日だし、これからがんばっていこう!」
「アップしたくないです~。みんなに笑われたらいやです~」
「うちはアップしたほうがええと思うで。SNSにアップするんは、覚悟を世界に示すってこっちゃ。その偉大なる一歩が人を成長させるんや」
なるほど。シオセンセが言うと説得力あるな。
「いけ、メイメイ! 輝かしい明日のために!」
「う~、笑われたら一生恨みますからね!」
ちょっと涙目でこっちをにらんでくる。
一生はやだなあ。
「でも大丈夫だと思うよ。まだまだアンチを気にするような時期じゃないから。今はガンガン攻めていこう!」
『これからオリジナルシナリオのマンガが描けるようになるために、毎日練習して成果をアップしていきます~』
商業目的のサービスではないことを確認して、投稿小説サイトへのリンクも、特別に事務所にOKをもらった。
シナリオのほうに目を通してみたけれど、変わった女の子と変わった女の子が冒険している内容だった。
「メイメイってこんなことを考えていたんだ」ってコメントもあったりして、わりと好意的な反応が多くみられる。ファンの人にメイメイの内面を知ってもらえるきっかけになるかもしれない。うん、ちょっとおもしろいことになりそう。
「ほかに来ているアイディアもやっていかないとね。けっこう集まってきているから、連載シリーズじゃなくて、単発で終わるものもやっていきたいな。どんなのが良いかな」
料理、裁縫、カラオケ、大食い、ASMR、メントスコーラ、富士山登頂、写経……。ほかにもたくさん。わりと集まってきてるなあ。
「私はこの『うさぎを抱っこ』がいいです~」
「ほー、うさぎかあ。いいんじゃない?」
動物と触れ合うのは心も落ち着くしいいと思う。見てる人もしあわせな気持ちになれるし。
さて、どこでうさぎは抱っこできるんだろう。ペットショップ? さすがに撮影許可下りないか。
調べてみると、いくつか動物園がヒットする。
なるほどね。ふれあい広場的なところで、うさぎやモルモットを抱っこできるんだ。牛や羊にエサもやれるんだ。
「動物と触れ合うシリーズということにして、動物園で何本か撮ってみちゃおうか」
「わ~い! ライオンにもエサをあげられますか~?」
「それはサファリパークかな……」
「ワニの口に頭を~」
「それはテレビ番組のショーだね」
芸人志望の人かな?
「イルカと一緒に~」
「水族館はまた今度ね!」
(わたしが撮影係としてついていきますよぅ)
え、いいの? ありがとう、レイ。
* * *
無事、外出許可が出て、翌朝早くに、ボクたち3人は事務所の車で動物園にきていた。
「うさぎは人気だから、朝いちばんで予約のチケットを買わないと、なかなか抱っこできないらしいよ」
「そうなんですね~。調べてくれてありがとうです~」
「マネージャーとして当然さ……ってレイ、ここもカメラ回すの?」
「あとで編集すればいいので、長回ししておきますよ」
レイは本当にカメラマン役としてついてきてくれたようだ。一緒に楽しめばいいのに。
「さあ、開園ですよぅ」
レイの声はどことなく弾んでいた。楽しそうにしてるからいいのかな。
「よし、いこう。まずはふれあい広場のチケットを取って、待ち時間にうしとひつじにエサをやろうね。うさぎを撫でたらすぐ帰らないと午後の練習に遅れちゃう」
「う~いそがしいです~。他の動物も見たいのに~」
せっかく動物園に来たのに、滞在できる時間は午前中のわずかな時間だけ。お弁当も帰りの車の中で食べなければいけないスケジュールなのだ。
でも遊びに来たわけじゃないからしかたない……。
無事ふれあい広場のチケットを押さえたボクたちは、隣りの牧場エリアに移動する。
「ふれあい広場から近くて助かるね」
移動時間が短いのはありがたい。VTRを少しでも撮らないと。
「エサはこの草を固めた何かを上げるのかあ。ペレットっていうのね。干し草みたいなのを食べてるイメージだったけど」
「あっちのケージに入っているウシさんたちは干し草を食べてます~」
「白黒のホルスタインにはエサをあげられないのね。そっか、ストレスかかるとお乳が出なくなるから……」
「エサをあげて良いのは、こっちのジャージー牛と羊みたいですね」
レイが案内看板を指さして教えてくれる。
「サンキュー、レイ。じゃあ1カップずつエサを買って、さっそく行こう!」
エサを買うと一緒に竹を半分に割ったような棒を渡される。
「これは……ああ、素手でエサをあげるんじゃなくて、この竹の上に乗せてあげるのね」
「感染予防って書いてあります~」
「人の持ってる菌が命取りになることもあるんだ。気をつけないと」
エサやりができるスペースに到着する。
うっ、独特の臭い。家畜って感じだなあ。
「メイメイはこういう臭いは平気なの?」
「私、北海道でおばあちゃんと暮らしてましたから、牛さんは慣れてますよ~。近所の牧場に手伝いに行って、子牛を取り上げたこともあるんです」
「えーすごい! じゃあ、牛のエサやりはあんまり目新しくなかったね」
メイメイはめずらしい経験をしているんだなあ。そっちのほうが動画に撮りたかった。
「東京に出てきてから、しばらく牛さんと触れ合っていないので会えてうれしいです~」
いまにも柵を超えて牛を撫でに行ってしまうんじゃないかと思うほど、メイメイは前のめりだった。
ホームシックでもあるのかもしれないなあ。落ち着いたらまとまったお休みを取って、一度北海道にも帰らせてあげたいな。
「わ~、みんなお腹減ってるんですね~。いっぱい食べます~。そっちのちっちゃい子にも分けてあげてください~。ああ、もう、体の大きな子に全部食べられちゃいました……」
ええ、もう1カップ分エサが空に? 早いなあ。さすがに撮影時間としては短すぎる気が。
「次はもうちょっとゆっくり上げよう? はい、エサ。ちょっとずつね。隣りの柵には羊もいるから」
「は~い。羊さんのほうが勢いがすごいです~。たくさん寄ってきちゃいました!」
メイメイが驚きの声を上げる。
いやいや集まりすぎでしょ。10匹くらいの羊がメイメイの立っている金網の前に、我先にと頭をこすりつけてアピールし始めている。
「一瞬でエサがなくなりそうだなあ」
追加で買ってこよう。
「え~い!」
メイメイが大きな掛け声とともに、手に持ったペレットを何個か、柵の奥に向かって投げた。
「メイメイなにを……」
美しいフォームから投げられたペレットは、きれいな放物線を描き10メートルくらい奥の土の上にポトリと落ちる。
と、一斉に羊が転進すると、ペレットが落ちたあたりに向かって走り出す。
「さ、今のうちに!」
残された小さな羊たちが、ゆっくりとメイメイのほうに集まってくる。
「おお、策士メイメイだー」
小さな羊たちのところにペレットが差し出されているいることに気づいた大きな羊の群れが、メェメェ鳴きながら、再びダッシュしてくるも、すでに遅し。
子羊たちにすべて残りのエサをあげ終えて、ドヤ顔で腕組みするメイメイが待つばかりなのでした。
「もっと寄こせ、もっと寄こせ」の大合唱が聞こえてくるよう。大きな体でお腹を空かせているのもかわいそうなので、レイから最後の1カップを受け取ってメイメイに手渡す。
「これは体の大きな子たちにも上げてね」
牛・羊エリアはこんなもんで撮れ高は良いかな?
さあ、本命のふれあい広場へ行こう!




