第39話 質問ボックスから答えよう~後編
「は~い。何が出るかな~。これ!『尊敬する人は誰ですか?』です~」
これは……。
メイメイ、くれぐれもお母さんの話はダメだよ。
ひとまずけん制しておこう。
「えっと! ボクから答えようかな。ボクが尊敬しているのはやっぱり家族。あとは最近知り合った人で言うと、大学病院の教授。あとはレイかな。レイの占いはすごいんだ。なんでも当たっちゃうからね」
“尊敬する人多いな”
“レイちゃん占いできるのか”
“レイちゃんに占われたいだけの人生だった”
“教授は男?”
「教授は女の人だよー。白衣着ているちびっこ先生で、なんでも知ってるから悩んだら相談してるんだー」
“白衣のちびっこ先生だと⁉”
“何でもは知らないわよ。知ってることだけ”
“すぐ男か女か気にする奴いるよなw”
“教授はいつ出演予定ですか?”
「教授はそのうち機会があったら動画に出てもらうかもねー。はい、次メイメイの番!」
「私の尊敬する人は……お母さん」
「お、お母さんはやっぱり尊敬できるよね! やさしいし、ここまで育ててくれたし!」
メイメイ、お母さんがアイドルだったことはダメだよ。それは世間に公表されていないことだからね。
「私のお母さんはキラキラしていて、いつもみんなを笑顔にしていて……私はお母さんみたいになりたいです」
“やっぱお母さんは偉大だよな”
“笑顔は大事”
“メイメイも笑って”
そうだ。泣きそうな顔でそんなこと言っちゃいけない。ちょっとコメント欄に気を使わせちゃっているよ?
「私もお母さんを尊敬してます! 私にアイドルのことを教えてくれたのはお母さんなんです」
話に入ってきたのはハルル。
だけど、ボクにはかけてあげられる言葉がない。でも、ハルルはこんなにも立派に育って、今はちゃんとアイドルしている。お母さんに感謝しかないね。
と、メイメイが意を決したように、大きく息を吸い込んでから話し始めた。
「私は……お母さんみたいになりたくて、アイドルになりました! みんな応援よろしくお願いします~」
“おう、まかせとけ”
“いっぱい売れてお母さんに自慢しような”
“ひさびさに親孝行してえな……”
“肩たたき券わたそ”
みんな応援よろしくお願いします。
今の話なら大丈夫か……な。核心的なことは言っていない、と思う。
「はい。早月さん、一緒にアイドルの頂点を目指しましょう! 次、サクラ&栞ペア、いきます!」
サクにゃんが宣言し、自ら紙を引く。
「じゃじゃん!『ボケとツッコミのどっち?』です! むむむ?」
サクにゃんが考え込んでしまう。いや、それは考えるまでもないんだけど。
「じゃあうちから答えるわ。うちはツッコミ担当やで。そして桜さんはボケ担当や」
はい、ありがとう。すっきりしました。
“勝手に答えたw”
“ちーちゃん悩んでたのにw”
“悩んでいる振りがボケって高度なオチか”
“高度でもなんでもないwww”
「え、サクラってボケなんですか……」
“はい天然”
“天然尊い”
“まてまて、ネコミミつけてる天然ボケがいるか?ここまですべて計算だ”
“これはどう見ても素の反応だろw”
「サクラはボケだったみたいです。がんばって一発ギャグを覚えます!」
“まじめか!まじめな天然ボケか!”
“別にボケの人は絶対一発ギャグを持ってるわけじゃないぞ?”
“ナギサなんかしゃべれ。せっかくボケツッコミの話してるのに黙ってるなよ!”
「おう、あーしか? 出番が終わってオフの気持ちでいたわ。すまんすまん。サクにゃん、一発ギャグ一緒にやるか?」
“本番中にやすむなw”
“違うそうじゃない”
“ナギサ……おまえも天然ボケなのか”
“寝ぼけてるだけだろ”
“コメント欄で大喜利すなw”
「次回までにがんばって勉強してきます! 次のペアお願いします! ラストは春&都ペア!」
「時間も残りわずかね。サクっと引いてサクっと答えちゃいます。はい、これ。『好みの女の子のタイプは?』誰よ、これ書いたの……」
ハルルが眉根を寄せる。アイドルっぽい良い質問じゃない? なんかダメなの?
“キマシタワー?”
“俺じゃないよ”
“おれ……のは選ばれず”
“違います”
“おしいけど書いてない”
コメント欄が一斉に否定を始める。そういえば、これまでの質問も「採用されたー」みたいな人がいない。書いてくれた人は配信を見ないものなのかな。はがき職人的な人にも会いたいなあ。
「好みの女の子ね。私はアイドルが好きなので女の子はもちろん好きよ? でもそれは恋愛対象ではなくて、尊敬している好きという意味で――」
「春さん、前置きが長いわ。サクサクいかないと……。私からいくわね」
ごにょごにょとしゃべっているハルルを脇に追いやって、都が割って入った。
「私は一生懸命努力している子が好きよ。まっすぐ前を向いて、一心不乱に走っていくような……たとえば春さんとかね?」
“ミャコさんステキー”
“100点の回答あざす”
“狙いすぎ感はあるけど美しい”
“今日のハイライトか”
“ミヤコ!ミヤコ!ミヤコ!”
「ミャコさん……私、もっとがんばるね!」
2人が抱き合う。
ああ、なんて美しい光景なの。もうこれでエンディングにしようよ。
「ステキなお話ですね。私も一生懸命努力して、一発ギャグを習得します! それでは熱い友情の抱擁をバックに、今日の配信を締めさせていただきたいと思います!」
おお、サクにゃんすばらしい締め方。
「また次回の配信でお会いしましょう。10月9日はスポーツフェスティバルに前座で参加予定です。サクラたちは2曲披露する予定で、毎日練習しています。ご都合が会う方はぜひ応援に来てくださいね」
「青のペンライトを用意して応援に来てください~」
「あ、サッちゃん抜け駆けずるい。水色も頼むで!」
「わたくしの緑もお願いしますわ」
「サクラのピンクも……あとついでに春さんの赤もお願いします」
“チケット取れたから行くよー”
“遠いから配信で見させてもらう”
“しかたねーな。5本のバルログスタイルでいくか”
“チケット取れなかったから画面前でペンライト振るわ!”
「みなさんありがとうございます! それでは今日はこのあたりで。以上、≪The Beginning of Summer≫でした。ありがとうございました~」
サクにゃんが頭を下げ、みんなで手を振る。
都とハルルが抱き合う姿をバックに。「私たちいつまでこうしてればいいの?」という表情の都と目が合う。離れるタイミングを見失ったね。エンディング終わりまでがんばれ。
配信終了画面に切り替わり、BGMが流れる。
「お疲れ様でしたー」
接続数は累計3000人か。初回にしては、まあまあつないでもらえたんじゃない?アーカイブでもう少し閲覧数が伸びるといいな。




