第37話 自己紹介パート2
「わ~い、呼びたいです~」
メイメイがコメントの流れに気づき即座に反応する。
うーむ。
「お、ええやんな。各自マネージャー自慢大会やるか?」
「えっと、良いんですか?」
ハルルがこちらに向かって目線を送ってくる。
都が一瞬悩んだ様子を見せたが、すぐにオッケーサインを出した。
都……いくのね。
「はい、それでは自己紹介パートが終わっていなかった、ということで、私たちのマネージャーさんたちをお呼びしたいと思います!」
“いいねー”
“待ってました”
“なぜマネージャー?”
“SNS見ろ推せる”
「ささ、みなさん、早くこちらへ!」
行く、と決めたは良いけれど、どう登場したら良いかわからず、及び腰になるボクたち。
サクにゃん、「こちらへ」って言われても、覚悟と勇気がね……。
「マネージャーさんたちは恥ずかしがり屋みたいなので、それぞれ順番に連れてくる形式にしましょうね」
ハルル……マジかー。それはそれで恥ずかしい気がするんですけど?
「ではまずは私から。私、新垣春のマネージャーのミャコさんで~す。どうぞこちらへ~」
ハルルが紹介しながらカメラからフレームアウト。都の手を引いて再びフレームインする。
「は~い、ミャコさん、配信見てくれてる人に手を振ってください」
都が硬い表情のまま小さく手を振る。
“ミャコちゃん超美人だ”
“若い”
“ポニテコンビ尊い!”
“本当にアイドルじゃなくてマネージャーさんなの?”
“実はメンバーってオチw”
「コメント欄盛り上がってますね~。ミャコさんはきれいで頭も良くて、段取り仕切りがテキパキしてて、私たちのまとめ役なんですよ」
「ちょっと春さん、ほめすぎよ」
都の顔が真っ赤だ。
“お、しゃべった”
“かわよ”
“ミャコちゃんアイサツして~”
“ミャコミャコ”
「えっと、はい。ご紹介に預かりました、都です。新垣春の専属マネージャーをしております。皆様、どうぞうちの春をよろしくお願いいたします」
都がカメラに向かって深々と頭を下げる。
「ミャコさんかたいよ~。営業じゃないんだから」
ハルルが苦笑。周りのみんなも笑っていた。
“しっかりしてる”
“よろしくお願いされました!”
“2人とも優等生っぽいな”
“ちゃんとマネージャーだ”
「は~い。ということで、私のマネージャーミャコさんの紹介でした~。次はサクラお願いね」
「はい。栞さん、お願いします!」
サクラに呼ばれて、シオが頭を掻きながらフレームインする。入れ替わるように、都がさっとステージから捌けていった。
「どうも~。桜のマネージャーの栞です~。動画編集や舞台装置なんかも担当してます~」
“すらっと系の美人さん!”
“モデルの人?”
“動画編集や舞台装置はマネージャーの仕事なんか?”
“関西?”
“動画のクオリティ高いよな”
“恋愛ゲーム作ったのもシオリさん?”
「容姿をほめられたんはひさしぶりやな~。おおきにおおきに。今上がってる動画は全部うちが編集しとるで。春さんの恋愛ゲームもうちやで~」
“すげ~”
“見た目も中身もクオリティ高いな”
「栞さん……サクラにも紹介させてください……」
サクにゃんが後ろで佇んだまま泣きそう。
「すまんすまん。ほんならかっこよく紹介したってや」
「サクラの栞さんはすごいんですよ! 動画編集もすごいんですけど、普段はサクラの隣の研究室で脳科学の研究をされていてですね。天才科学者って呼ばれていて――」
「桜さん、その話はまあ、ええやん?」
ん、シオがサクにゃんの話をやんわりと止めた。まあ、アイドルとは関係ない仕事の話は嫌なのかな?
“ネコミミロボット少女に天才科学者と呼ばれるとは”
“次元が違いすぎて話についていけねー”
“あっあっあっ”
“2人とも研究者確定か”
“なんでアイドルやってんだ?”
「まあまあ、うちのことはええやんか。裏方のマネージャーなんで、これからも桜さんをよろしゅうたのんます」
“次の動画も楽しみにしとるで~”
“よろしくお願いされました”
“研究も頑張ってな”
「はい。サクラ、シオリさんありがとうございました~。次はサツキお願いね」
「は~い。カエくんカエくんカエくん!」
めっちゃ手招きするやん……。メイメイの笑顔が天使すぎて正直困る。世界に見つかっちゃってるよね。あー今日のハイライトとして切り抜きたい。
「カエく~ん!」
はい。わかりました。
そそくさとメイメイの隣に歩み寄る。なぜかシオがボクにハイタッチを要求してから舞台を降りていった。
うむ、ライトがまぶしいな。
「は~い。私のマネージャーさんのカエくんです~。んふふっ。みんなお待ちかねの代理ちゃんですよ~」
“まってました代理ちゃん!”
“代理ちゃんの素顔!”
“超絶パフォーマーなのにオーラが普通っぽくて和む”
“代理ちゃんおひさー”
“ちっちゃくってかわいいな”
「みんな~、これからは代理ちゃんじゃなくてカエくんって呼んでくださいね~」
“カエくん”
“カエくん”
“カエくん”
“カエくん”
コメント欄が「カエくん」で埋まっていく。なにこれ?
「みなさんはじめまして。おひさしぶりの方はおひさしぶり? 夏目早月のマネージャーの楓です」
“カエくんはカエデって言うんだ”
“おひさおひさ”
“ずっとカエくん推し。メンバー入りはよ”
“代理カエくん”
「カエくんは~、いっつもやさしくて~、ちっちゃくって~、もちもちしてて~。いっつもギュってしてます」
ふいに後ろから抱きつかれる。
ちょっ、配信中!
“愛されてるなあ”
“うらやまそこ代われ”
“そうだぞ、メイメイそこ代われ”
“カエくん推しの圧が強い”
“メイメイかわいいな”
「はいはい、ピンマイクガサガサしちゃってるから、気をつけてね。カエデちゃん、サツキ、ありがとう。次はウミお願いね」
ふぅ、なんとか事故らず無事終わったか。
このまま立っていればいいのかな。
「よろしくてよ。詩さんお願いしますわ」
「ええ、私が糸川海のマネージャーの詩よ。全体の進行管理も担当しているわ」
ウタは足早にカメラ前に出て、早口で自己紹介をした。
しまった。ウタと入れ替わって舞台を捌けるタイミングを見失った……。
“セクシー系”
“声が濡れてる”
“セクシーコンビか”
“正直踏まれたい”
“おまわりさんこいつです”
「詩さんにはいつもセクシーについて教えていただいてますわ~」
「ちょっと、海さん! 適当なこと言わないでちょうだい!」
“セクシーイチャイチャ”
“このペアは正直推せる”
“金髪姫×黒髪お嬢=一生見てられる”
「詩さんは少しカメラに緊張されているみたいですが、普段はもっと和やかに、手取り足取りいろいろ指導されてますわ~」
“kwsk”
“手取足取りされてー”
“おいそこを代われ(ループ)”
「はいはい。あとは後ろで適度にイチャイチャしてくださいね。最後、ナギサお願いね」
と、ウタがステージから捌けない……だと?
ボクが帰るタイミングはいつ⁉
「おうよ! おまえら、驚いて腰を抜かしても知らへんからな? ここまでは正直全員前座や。真打の登場やで~」
“ナギチハードルを上げるー”
“その振り、マネージャーちゃん出にくいだろw”
“すべらんな~”
“前の4人で前座だと⁉(やさしいので乗ってあげます)”
「レイちゃんカモーン!」
顔真っ赤のレイは動かない。
「……レイちゃん?」
ナギチが呼んでもレイは動かない。
はずかしいのはそうだろうけれど、気持ちとは別に動けないのだろう。行かなければいけないのはわかっている。でもおそらく足が動かないのだ。好奇な目に晒されることが怖い。配信だから相手がどんな雰囲気なのかつかめない。また見た目だけで判断されてしまうと体が拒否しているんじゃないか。
「レイ」
ボクが盾になろう。
ステージを降りてレイのもとへ。震えるレイの手を引き、再びカメラの前に進み出る。
「レイは人見知りなので、みなさん、やさしくしてあげてくださいね」
「お、おう。めっちゃ美少女やし、働き者なんやけど、男性が苦手なんや。優しいコメント頼むな?」
“お、おおーおおおおおおおおお!”
“雰囲気ある”
“メカクレ美少女!”
“人見知り文学少女っぽくて超絶推せる”
“ナギチのビッグマウスがビッグマウスじゃなかった件について”
コメントは総じてやさしい。ここに集まってくれているファンたちの民度が非常に高いことが知れて良かった。どうか≪初夏≫のことをお願いします。
「水沼渚のマネージャーをしています。零と申します。みなさま、なぎささんのかわいい一面を探してほめてあげてください。ほめて伸ばすタイプなので、なぎさも喜んでもっとがんばれると思います」
ボクの背中に隠れたまま、レイが自己紹介とナギチのPRをおこなった。
“レイちゃんサンキュー”
“ナギサはおれに任せろ!”
“ナギサナギサ!”
“ナギサー今日もかわいいよー”
「なんやなんや。さっきまでの扱いと全然ちゃうやんけ。美少女レイちゃんに頼まれたら手のひら返すんやな、ほんまに」
なんだかんだ言ってナギチもうれしそう。レイには無理させてしまったけれど、話題も作れた、かな。
(こわいです……。でもみなさんのためにできることを)
うんうん、レイ、よくがんばったね。




