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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第30話 お母さんみたいになりたい

「私は、お母さんみたいになりたい」


 メイメイは消え入りそうな声でそう言った。


 メイメイのお母さん。

 伝説のアイドルグループ≪Believe in AstroloGy≫の秋月美月。


 ≪BiAG≫が活動していたのは、今から15年ほど前になるだろうか。その活動期間は5年と少し。

 活動期間の最終盤、≪BiAG≫は日本の音楽シーンを席巻し、様々な記録を塗り替えていった。連日のようにテレビでドラマ、映画、CMと複数のタイアップ曲が流れ続け、≪BiAG≫を知らない者はいないと言われるほどの超人気アイドルグループだった。


 らしい。

 ボクは記録でしか知らないから、詳しいことはわからない。


 ≪BiAG≫は少し特殊な活動方針で知られていたようだ。

 小さな箱でライブをすることを活動の中心に掲げていて、人気絶頂の時でも、ドームツアーなどは行っていなかった。一番収容人数の大きいライブは≪BiAG≫最後のライブとなった武道館だった。

 

 また、音楽番組と自らの冠番組以外のメディア露出はほとんどなかったらしい。加えて、各メンバーのソロ活動も極端に少なく、あってもCM出演のみ。ドラマの出演などは一切受けていなかったようだ。


 一方でファンサービスには非常に力を入れていて、握手会や個別トーク会、比較的大きめのライブ会場でも、終演後のタッチ会は活動を終える最後まで継続されたらしい。武道館ライブでどうやってそれを実現したのかはまったく想像もつかないけれどね。


 ≪BiAG≫の活動は人気絶頂の時に突然終わる。

 初の武道館ライブの少し後、秋月美月が電撃的に引退を表明。ほどなくしてほかのメンバーも全員引退を表明し、事実上のグループ解散となった。その後の各メンバーの芸能活動記録は一切なし。

 ≪BiAG≫はアイドルグループとしての顔しか世間に見せなかったと言える。


 では、≪The Beginning of Summer≫はどうだったか。

 ボクが知っている≪初夏≫の活動期間は3年半ほど。3年目に武道館ライブを成功させている。


 活動のスタートは地味なものだった。

 大手事務所のダブルウェーブ所属ながら、とくに事務所プッシュされることもなく、ひっそりと地下の箱で活動する地下アイドルとしてデビューしている。


 メンバー同士の仲が良く、仲良しグループのような緩いノリでありながら、ライブパフォーマンスの質が非常に高く、そのギャップが地下アイドル界隈の現場組の中でじわじわと話題となる。

 それとほとんど同時期に、公式チャンネル内のとある動画がバズり、そこから人気が出て一気にメジャーへ。デビュー半年で音楽チャートに名前を連ねる常連となった。


 ≪初夏≫はメンバーのソロ活動にも力を入れていて、ドラマ、映画、舞台、バラエティ、CMなど幅広く活動をしていた。

 全員が集まるのは、公式チャンネルでの活動やライブなど限定的ではあったが、SNSで公開されているメンバー間のやり取りは、デビュー当時から変わらず仲の良さを見せていた。


 そう考えると、≪BiAG≫と≪初夏≫はまったく系統の違うアイドルグループだったと言える。



「お母さんみたいに、ファンのみんなの前でいつもキラキラしている存在になりたいです」


「早月は、お母さんが普段どんな人だったか知っているのか?」


「詳しくはわからないです」


 メイメイは首を振る。


「でも、記録映像の中のお母さんはいつも笑っていました。ライブの時も、メンバーの人たちと話している時も、ファンの人たちと交流している時も」


 アイドルとしての秋月美月。

 まさに崇拝されるべき存在だったといえる。


「麻里さんは、メイメイのお母さん、秋月美月さんとご友人なんですよね? 秋月美月さんは今どちらにいらっしゃるんですか?」


 とりあえず軽く石を投げ入れてみる。そこから広がる波紋を見てみたい。


「申し訳ないが消息不明だ。赤ちゃんだった早月を置いて消えてしまった」


 麻里さんは小さく頭を下げた。

 まあ、そういう回答だとは思ったよ。


「麻里さんほどの人が、1人の人間を見つけられないなんてことあるんですか? 何か言えない事情が?」


「私のことを何だと思ってるんだ? できないことだってたくさんあるぞ? ほら、この脚立がないと、本棚の中段にも手が届かない」


 麻里さんが茶化してくる。

 背伸びして本棚に手を伸ばす姿は、小学生くらいの女の子……なんだけど、あまりかわいく見えないのはボクの偏見なのか、麻里さんのオーラがそうさせているのか。

 何かをごまかしているようにしか感じられない。


「何の本が取りたいんですか? あ、ところで麻里さんは秋月美月さんとはいつからのご友人なんですか?」


「生まれる前からだな。腐れ縁というやつだよ」


 ふーん。なるほどね。

 そんなにずっと一緒にいるんだったら、メイメイのことを娘みたいに思うのも納得かな。


「お母さんは小さい頃どんな人でしたか~?」


「そうだな……昔から浮いていたな」


 麻里さんが遠い目をする。

 え、これはかなしい過去?


「造形が他の人間とは違っていてだな。美しすぎて避けられている、そんな節があった」


 ああ、そっちか。

 今のメイメイもまあまあ似たような……でも、メイメイは容姿だけじゃなくて態度もそっけないから浮いているのもありそうなので、たぶんちょっと違うかな。


「ある意味アイドルを目指すのも必然的なことだったのかもしれんな」


「お母さんは何でいなくなっちゃったんでしょうか……」


 メイメイが誰に尋ねるでもなく、下を向いてつぶやいた。


 そう、そこなんだ。

 なぜ秋月美月はいなくなったのか。

 

 前のメイメイがいなくなった理由もきっと同じなんじゃないかとボクはにらんでいる。メイメイがお母さん、秋月美月さんが消えた理由を知ったか、あるいは奇しくも同じ想いに至ったか。どちらにせよ、引退失踪した理由は2人とも同じなのではないかと考えている。


「……それは本人を見つけて、直接聞くしかないんじゃないか?」

 

 たしかにそうだ。そうなんだけど……。


「私が有名になったら、お母さんは会いに来てくれるでしょうか……」


 ああ、メイメイ……それは違うよ。


「早月、おまえがアイドルを――」


「麻里さん、そこはボクが言います。ボクに任せてください」


 ボクは麻里さんの言葉を遮った。

 

 それはボクの役目だ。


 麻里さんは驚いたような顔をしたが、すぐに破顔して小さくうなずいた。ボクも小さくうなずいてから、メイメイのほうに向きなおる。


「メイメイがアイドルを目指す理由は何?」


「私は――」


 ボクの問いにメイメイが固まる。

 でも答えはすでに持っているよね?


「私は、お母さんみたいになりたいです。お母さんみたいにたくさんの人を笑顔にして、たくさんの人をしあわせにしたいです……」


 そう、それだ。

 メイメイの力の源泉はそれで良いんだ。


「うん、がんばってお母さんみたいになろう。そして5人でお母さんの伝説を超えよう!」


「お母さんを超える?」


「そうだよ。≪BiAG≫は人気があったけど、武道館ライブは1回しかやってないんだ。ボクたちが2回武道館ライブをやれたら、もうそれは勝ったってことで良いんじゃない?」


「ふっ、生意気言ってくれるわ」


 麻里さんが苦笑する。

 まあ、良いじゃないですか。強引なロジックだってことは百も承知。でもモチベーションを保つのなんて強引だって良いんですよ!


「武道館ライブ2回でお母さんを超えられる?」


「もちろん! そしたらお母さんも悔しがってメイメイの前に現れるかもね?」


「私、お母さんを超えます!」


 メイメイの頬に赤みが増していく。


「そうだよ。超えよう! お母さんが会いに来てくれることを目標にするアイドルなんかに、ファンのみんなをしあわせにできるわけないからね?」


「そうでした……。私は間違ってしまうところだったです……」


「大丈夫。メイメイは間違ってなんかいないよ。ファンのみんなを笑顔にする。それはメイメイがいつも言っていることだから、何も間違ってなんかいない」


 その力の源泉がお母さんみたいになるということだとしても、それをパワーに変えて、ファンに笑顔を届けるというメッセージには、なんら不純物は入らないのだから。


「私、がんばります!」


 メイメイの握るこぶしに力が入る。


「まとまったな? それでは明日に備えて寮に戻って早く寝るように。以上だ」


 麻里さんはそれだけ言うと、腰を叩きながら、ゆっくりと自分のデスクに戻っていった。


「ありがとうございました。明日からもがんばります」


「麻里ちゃん。私デビューします。そしてお母さんを超えます。悔しかったら私に会いに来てってお母さんに伝えておいてくださいね」


「おう、そのうちな」という麻里さんの声を聞きながら、ボクたちは研究室を後にした。


 いよいよ明日はデビュー告知日だ!

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