第7話 ドッキリモニタリング? ハプニング!
「さて、どうしたもんかな……」
仙川さんはすでに大浴場へ向かってしまった。
ボクもお風呂に……お風呂に……お風呂に入るの? マジで?
さすがに女子の体でお風呂は倫理的に……。
着替えだけしてそのまま食堂に行っちゃおうかな。でも汗臭いかな……。
スンスンと自分のニオイを嗅いでみる。
……汗臭い。
女の子の汗ってバラの香りがするんじゃないの……。
マンガで読んだ知識はウソだったか。
「これは夢! 夢だから大丈夫!」
倫理も平気!
自分に言い聞かせるように宣言する。
まったく見覚えのないキャリーバッグから着替えを探す。
バックの中はおそろしくきれいに整理されていた。
取り出したのは、謎のロゴがデザインされたTシャツ。水色のショートパンツ。そして下着。
触っていいのこれ?
いっぱいあってどれにすれば……付け方……もう誰かタスケテ。
……誰も助けてくれそうにないので、君に決めた!
装飾がなく、上から被るだけで良さそうなグレーのスポーツブラとパンツのセット。これならまあなんとか?
グッタリしながら内風呂へと向かう。
シャワーを前にしながら、ボクはもっとも重要な真実にたどり着いてしまった。
服を脱がなきゃお風呂に入れない!
反射的に周りをキョロキョロと伺ってしまう。
やっぱりこれはドッキリで、別室でモニタリングされてるんでしょぉ?
そろそろ放送的にアウトなところでテッテレーなんでしょぉ?
「脱ぐぞー! ボクは脱ぐぞー! 止めるなら今だぞー!」
ジャージのズボンに手をかけながら、モニタリング先のスタッフを脅してみる。
無反応。
誰か助けてよ……。
ボクは固く目を閉じ、服を脱ぐ。そしてシャワーへ……ブラジャーがうまく取れない……。
「真っ白に燃え尽きた……」
着替えも髪のドライヤーも無事終わった。
ボクは何かを失って何かを得た……のかもしれない。
お風呂イベントはエロ展開も、ハプニングもなく、知らないはずの女子知識が増えている。何だこれ?
突然、端末が唸り声を上げ出す。
ゴジラのテーマだ。
何事!?
表示を確認すると、花さんからの着信のようだ。通話開始。
誰だ、この着信音を設定しやつは……。
「はい」
「はいじゃないわよ。もう19時過ぎてるんですけど! 時間厳守!」
「え、あ、はい。すみません!」
花さんめっちゃ怒ってるー。食事に厳しすぎない?
「ダッシュで食堂に集合!」
「すぐ行きます!」
通話を切り、端末を首にかけながら急いでエレベーターホールへと向かう。
食堂は2階だったっけ。
エレベーターホールに着くと、ちょうどエレベーターが来ていて、ドアが閉まりかけるところだ。
「すみません、乗ります!」
慌てて声をかけると、中に乗っていた人がドアを開けてくれた。
「ありがとうございます!」
「いいえ~、何階ですか~?」
「あ、2階で、お願いします」
ボクは若干息を切らせながら、行き先階数を告げる。
「同じですね。あ、もしかして食堂ですか?」
そう言いながら、声の主が振り返った。
あ。
その時、ボクの心臓が止まった。
文字通り。
何もかもがスローモーションになり、全身の毛穴がゆっくりと閉じて鳥肌が立っていくのさえ感じられる。
メイメイ……。
「うん? 大丈夫ですか~?」
メイメイだ。
「あの~? 気分が優れないんですか~?」
ありがとう。
夢を見せてくれた神様。また会えた……。
元気なメイメイがいた。
それだけでいい。
世界は美しい。
これで思い残すことはない。