第27話 緊急マネージャー会議 in楓&零部屋
「どうしてこうなった」
すでにボクの初スイーツ作りの様子が動画になってチーム内に出回っていた。
冷静になってあとから見ると、終始妙にテンション高いし、普通にめっちゃはずかしいやつや……。
「かえでくんがこんなに一生懸命作ってくれたものを食べてしまうなんて……なんて!」
レイさん、そのゼリー、すでに3つ目ですよ。
「お口に合ったみたいで良かったよ」
しかしなあ、この動画のナレーション……。
「なんで麻里さんなんだよっ!」
誰だ、あの人にこんな仕事頼んだのは?
ノリノリでウザウザのナレーションじゃないか!
「ババ~ン! それは、もちろんうちやで。モグモグ」
ですよねー。
ボクたちの動画にこの人あり。犯人はシオセンセやで!
「シオセンセ……当たり前のようにゼリー食べないでください」
「動画編集の費用としては安いもんやで?」
シオがスプーンをくるくる回す。
「こんなはじめてのお使いシリーズみたいな動画、ぜんぜん頼んでないんですけど……」
「かわいいやんな?」
「かわいいですね!」
「かわいいわね」
うわっいたの、詩お姉ちゃん⁉
気配を消して、無言でゼリーを食べないで。
「うーんと、詩お姉ちゃんは何しにここへ?」
「その言い方はひどいわね。栞さんは良くて、私は来てはいけないのかしら? そう、そういうことなら海さんをここに呼ぼうかしら……」
なんでや!
ウーミーを脅しの道具みたいに使うのやめて?
ぜんぜん来てもらってもかまわないけれど……あ、でもやっぱり、レイと仲直りしてからが良いかな……。
「わたしはぜんぜんかまいませんよ」
あらら。ゼリーを食べるレイの手がピタリと止まってしまった。
「それで、ホントはゼリーを食べに来ただけじゃなんだよね?」
「もちろんおいしいゼリーを食べに来たのよ。栞さんに誘われてね。あと、しいていえば、外で早月さんが泣いていたから、それを伝えたほうが良いかと思っただけよ」
ウタはすまし顔でゼリーを口に運んでいる。
なんでそんな重要なことを今まで黙ってたの……。
「そういうことは先に言ってよ……」
メイメイ、メイメイ、泣かせてごめんよ。いつも通り入ってきていいんだよ……。でも一緒にスイーツを作るのだけはもう二度と勘弁してほしい……。それ以外はずっと一緒にいたって良いんだよ。
「ボクちょっと表を見てくるね!」
「そしてその後カエちんを見た者は誰もいなかった……」
「妙なナレーションつけないで! 台風の日の用水路を見に行くわけじゃないんだからさー」
不吉すぎるよ、まったく。
はっ! まさかメイメイに何かが起きたフラグ⁉ 無事か⁉
ちょっと慌ててドアを開けて部屋の外へ出る。
と、ドア横に体育座り小さく丸まっているメイメイの姿が。
なんとか無事か……。
「ごめんよ。ここにいたことに気づかなくて……」
メイメイの背中をさすると、小刻みに震えていた……。
「泣かないでよ。おいしいゼリーはいっぱいあるから……」
震えがピタッと止まる。
「私のゼリー?」
メイメイが少し顔を起こしてこちらを見てくる。
うわっ、顔白っ! 生気のない淀んだ目。これ生きてる?
「あるよあるよ! ナギチがいっぱい作ってくれたからね!」
「ゼリー食べても良いの?」
「いっぱい食べて! 今日はプリン一緒に作ろうとしてくれてありがとうね!」
「ゼリー食べるますっ!」
おお、完全に目に光が戻った!
メイメイにはスイーツを注入すれば生き返るってことだね。
とりあえず良かった良かった。
「おし、部屋入ろう」
* * *
「さて、今日みんなに集まってもろたんは、我々のアイドル≪六花≫の記念すべきデビュー告知日があと1週間と迫ってきたからやで!」
『デビュー告知日をド派手に盛り上げよう』
シオが宣言し、ホワイトボードにデカデカとお題を書いて見せた。
え、そのホワイトボードどこから出したの? ボクらの部屋にこんなのあったっけ?
「わ~い、盛り上げてください~!」
メイメイがゼリー片手に喜んでいた。ふー、なんとか機嫌が戻って良かったよ。
「うん、デビューを盛り上げるのは重要だね。ところで都がいなくてメイメイがいるんだけど、会議メンバーはこれでいいんだっけ?」
やはり仕切りは都がいてくれるとなあ。やっぱりこう、なんかちょっと物足りない。
「私いらない子ですか……?」
うわ、また目が淀んで……。
「違う違う違う! メイメイに関係する話だからもちろん参加大歓迎だよ? そうじゃなくて、都がいないのが心配だなって」
「私ここにいても良いの……?」
もちろんだとも!
私ここにいても良いんだー。わー、おめでとう。
「都は……花ちゃんに連れていかれてもてん。もう帰ってこられへんかもしれん……」
シオがうなだれる。
え、マジやばい系の話⁉
「さっきまで会議室で出来立ての『カエちん初スイーツ作り体験』動画を一緒に視聴してたんやけど、まじめな顔した花ちゃんが現れて、そのままミャちゃんはどこかへ連れていかれてしもうたんや」
うん、まあ、花さんは大体まじめな顔している……あとは、お菓子食べてるかだね。何の話だろう。デビュー前にトラブルはいやだなあ。
「代わりにスペシャルゲストの早月さんもいることだし、がんばって盛り上げるわよ!」
ウタがこぶしを突き上げて「ウォ~!」と叫んだと思ったら、真っ赤になって座ってしまった。
急にキャラにないことして、我に返って照れるのやめて……。まあ、かわいいけどさあ。
「わかりました。それではさつきさんこちらへ。みやこさん風にコスプレをしていただいて会議参加を……」
「レイ、そういうのは良いから。いったん早めに会議を始めよう?」
「こういうのは形から入るのが大事なんですよぅ」
レイが頬を膨らませてちょっと怒っていた。
メイメイをいじりたいのはわかるけれども、告知日まで1週間しかないから、早めに方針決めないといろいろ間に合わなくなったら困るよ?
「おほんっ! 今日はまず、うちからの提案をきいたってや!」
シオはそう言いながら、キュッキュツとホワイトボードにペンを走らせていく。
「これや! ドバ~ン!」
『生配信&ショート動画で絨毯爆撃大作戦!』
ほほう?
なんとなく言わんとすることはわかる。けれども?
「栞さん、どういうことか詳しく説明してくれる?」
「おうさ。うちが最近動画編集ばかりしてたんは、遊んでたわけちゃうで? どんな傾向の動画が受けそうか、みんなの反応を見させてもろてたんや」
ふむ。
言われてみれば、たしかにテイストが違う動画ばかりだったね。
「試行錯誤の末、1つの結論を導き出したんや」
シオが下を向いて、クックッと不敵な笑みを浮かべている。
「え~、なんですか~? スイーツしか勝たんですか~?」
どうだろう? 爆発ボヤ騒ぎのほうが視聴回数伸びるかもよ?
「人の好みは千差万別! 幅広い層に認知してもらうためには、ターゲットやジャンルを意識しすぎて、勝手に絞るのはやめよう、やで!」
「溜めに溜めたわり、まあまあ普通のこと言ったね……」
もっと何かとっておきの作戦があるのかと思った。
「無策とちゃうで。最後まで聞き~や」
ホワイトボードをペンのフタでコツコツ叩く。
「はいはい、途中でごめんなさいね。最後まで聞かせてくださいな」
「そう、千差万別なんはわかっとるんや。でも、≪六花≫は5人や。だったら、1人1ジャンルに絞る! 1ジャンル3本のショート動画を出して、無風なら次のジャンルで3本。そうやって各自のキャラとハマるジャンルを見つける作戦や!」
お、なんか良さそう。
「最初のほうはそれぞれ得意なジャンルを自己申告でかまへん。テイストは動画編集でなんとかするから、うちに任してもらう」
「コラボ動画などはありでしょうか?」
レイが手を挙げて発言をする。
「当たりジャンルが見つかるまでは、なしにしよか。まずはピンで突き詰める。メンバー同士の絡みは生配信でたっぷりとな」
「なるほど……生配信はどういうコンセプトで行くのかしら?」
「ナイスウタちゃん! その質問、待っとったで!」
再びシオがホワイトボードにペンを走らせる。
『生配信で30分限界チャレンジ!』
「限界チャレンジって何ですか~?」
メイメイが首をかしげる。
限界チャレンジって言うと――。
「時間や体力の限界に挑戦したり、かな? 具体的には大食いにチャレンジだったり、5人連続でライターに火をつけたり、まあそんなやっちゃな」
「そういうものこそ編集ありきではないのですか?」
レイの言うことはもっともだ。
チャレンジ動画は盛り上がり所が演出されているからおもしろいけれど、生配信でずっと長回しされていたらダレてしまうんじゃないだろうか。
「そこがミソや。生配信枠はきっちり30分。その間にチャレンジ成功しても失敗しても30分で切断や。リアルタイムのドキドキを視聴者には楽しんでもらう。もし成功したら、ご褒美動画がそのあとアフターで配信される。失敗したら罰ゲーム動画が配信されるっちゅう寸法や」
タイムリミットがあれば、やるほうも見るほうも焦るから、うまくいってもいかなくても後半の視聴は増える、かなあ。
「何にチャレンジするか事前に発表しないで、当日にボックスからお題の紙を引いてスタートしてみよか」
「お題を引いた時のリアクションも楽しみにできるかもね」
「せやな。そこから派手にいければおもろいと思うわ」
「イメージは湧きました。わたしはおもしろいと思います」
「ボクも良いと思う」
「私も栞さんのアイディア行けると思うわ」
「私はがんばって大食いにチャレンジします!」
一旦ここのメンバーでは決まりかな。
あとはここにいないメンバーたちの了解も取る必要がある、けれど、まずは一度試してみたいね。
「リハーサルで生配信の練習してみたいね」
ボクのつぶやきに、全員がうなずいた。




