第22話 ハルルのすごさがわかっちゃうデート5(終)
「え、ヨーヨーってこんなに取れないものなの?」
何回やっても持ち上がらない……。
すぐプチーンってこよりの紐が切れちゃう。
重すぎじゃない? まさかヨーヨーの中に石でも詰まっているの……か?
「カエデちゃん下手ね~。私もう3個目~」
ハルルが宣言通りに3個目を鮮やかに釣り上げた。
「えー、なんでそんなに簡単に取れるの⁉ まさか接着剤でとめてる⁉」
不正だ不正だ!
「そんなことしなくても簡単に取れるわよ。水に濡らさないようにこうやって根元からすべらせて~、よっと」
鮮やかに4個目を釣り上げる。
え、ハルルヨーヨー名人じゃん!
「えー、もう1回お手本見せて!」
「じゃあ一緒にやろうか? おじさん、もう1つください」
追加のこよりを買って、ボクの隣にしゃがむ。
名人自らレクチャーしてくれるの!
「ほら、ここ持って」
「うん」
こよりの真ん中らへんを持つボクの手に、ハルルがそっと手を重ねてくる。
「狙うヨーヨーは、結び目が水から出ているやつよ。それにしよ!」
ハルルが指さしたのは紫色のヨーヨー。たしかにヨーヨーとゴムの結び目が水からわずかに浮いていて濡れていない。
「なるべく濡れていないところに金具をひっかけて……はずれないように後はゆっくり持ち上げて、ゴムの輪っかのところを水から引き出していく」
金具をガイドみたいに使うのか、なるほど。
少しずつゴムの輪っかが水の表面に浮いてくる。
「こよりに水がつかないように慎重にね。最後濡れると破れちゃうから、輪っかが水の上まできても焦らずうまくひっかけて、そうそううまいうまい」
お、輪っかに金具が入った!
「あとはゆっくり持ち上げつつ、水から持ち上がったらすぐに反対の手で器を滑らせてキャッチ! やった!」
「わーい、とれた!」
左手に持った器でヨーヨーをキャッチできた!
「ハルル先生ありがとう!」
「どういたしまして。ね、簡単だったでしょ?」
「ハルルが一緒に引っ張ってくれたからなあ。1人じゃたぶん難しいよ」
慣れないと手が震えちゃって水についちゃいそう。
「そんなことないって。がんばってみよう? Call Enchant. You Can do it!」
ハルルがボクの右手をギュッと握り、やさしいおまじないをかけてくれた。
うん、燃えてきた! 今ならできそうな気がする!
「がんばるよ!」
教わった通りに焦らず……根元からゆっくりと――。
「輪っかに引っ掛けた後も慎重に……」
ゆっくり持ち上げて、水から浮いたら左手の器でキャッチ!
「うまいうまい! できたね!」
「ボク1人で取れたよ! ハルルありがとう!」
うれしい。
こういうのって取れずに参加賞をもらうものだといつも勝手にあきらめてたよ。
「そうよ。やればできないことなんてないのよ」
いつだってハルルは前向きだ。
「できるよ。もうちょっとがんばったらできそうだよ」そう言ってみんなを1歩前に前進させてくれる。
ハルルの強み。
「Call Enchant」のおまじないも、その前向きさをわかりやすくしたものなのだろう。
「ハルルのエンチャントがあったからね!」
ボクがそう言ったら、ハルルはくすぐったそうに笑った。
「私ね、言霊は本当にあると思うのよ。前向きな言葉は力になる。後ろ向きな言葉も同じく力になっちゃう。私がWe Can.って言い続けることでそれがパワーになるなら、ずっとみんなに言霊を付与し続けるわ」
「うんうん。実際ホントに力があると思う。ハルルがエンチャントを唱えると、体の奥が熱くなるっていうか、力が湧いてくるっていうか、そんな感じになるもん」
気持ちの問題、と言えばそうなのかもしれない。
でも本当に自分の力が強くなる、眠っている力が引き出されるような感覚に陥るんだよね。
ハルルとの絆の力、みたいなものなのかなあ。
「そう言ってもらえるとうれしいわ。あ、そろそろ時間ね。対決はあんまりできなかったけれどもう帰らないとね」
「もう時間かあ。そうだね……帰ろうか」
あっという間の2時間だった。
ちょっと最後夢中になりすぎて、時間配分を間違えてしまった……。
「うわー、夕方なのにまだあっつい!」
外に出ると、再び灼熱地獄が待っていた。
「帰ったらレイとかき氷食べなさいね」
ハルルが持ち帰りしたクーラーボックスを持ち上げて見せてきた。
「え、その辺で一緒に食べようよ」
「私はさっき一緒に食べたし。これ、2時間は保冷できるらしいから、あと1時間は余裕で大丈夫よ」
外で一緒に食べるって約束したのにな。
やさしいハルル。
「今日はおそろいのかわいい洋服も着られて、おいしいかき氷も食べられて、ヨーヨーも釣れて――」
ハルルが小走りで前に駆けていき、数メートル先でくるりとこちらに向き直った。
「カエデちゃんとのデート楽しかった~!」
口に手を当てて、気持ち大きめな声で叫んだ。
「うん、すっごい楽しかったねー!」
ボクも気持ち大きめな声で返す。
「私ちょっとお手洗いに行ってくるね。これ持っててくれる?」
小走りで戻ってきたハルルからクーラーボックスを受け取る。
「はーい。ここで待ってるね」
ハルルが行ってしまい、ボクは1人ぽつんと立ち尽くす。
今日は楽しかったなあ。
やっぱりハルルはステキだった。
そしてふと思う。
ボクは≪六花≫のみんなが好きだなあ。
≪初夏≫を応援している時にも薄々はそうだと思っていたけれど、ボクは箱推しなんだと思う。
メイメイに特別な感情があるのはそうなんだけど、最推しなだけで単推しってわけじゃないのかもしれないな。
≪初夏≫の≪六花≫の作る空気が好きだ。
そしてハルルがその空気のもとを作り出しているんだと思う。だからボクはハルルが作る≪六花≫が好きだ。
ハルルと一緒にいるとしあわせな気持ちになれる。
いつまでも一緒にいたいなあ。
「おまたせ~。じゃあ帰ろうか」
「うん」
ボクたちは手をつないで帰った。
駅ビルから本社ビルまで5分ほどの距離。
ゆっくりゆっくり――。
本社ビルがだんだんと近づいてくる。
ボクたちの歩幅もだんだん小さくなっていく。
ゆっくりゆっくり――。
楽しい時が永遠に続けばいいのに。
「じゃあ、また明日ね……」
エントランスのところでお別れのアイサツをする。
「今日はありがとう。何で落ち込んでたか忘れちゃった!」
ハルルは笑っていた。
「今日もハルルのすごさがわかっちゃったなあ」
「え、私がそれをわかるデートじゃなかったっけ?」
「ボクがこんなにしあわせな気持ちになっているんだから、ハルルのすごさがわかったでしょ?」
「え~なにそれ~」
ハルルは再び笑った。
「ハルルが笑うたびにみんなしあわせになれるんだよ」
「なんか良い感じのこと言ってごまかそうとしてる⁉」
ギクリ。
「そ、そんなことないよ……ぴゅーぴゅー」
「口笛吹けてないから! あ、そうだ。さっきそこで買ったんだけど、はい、カエデちゃんにありがとうのプレゼント!」
小さな包みを手に握らされる。
「なにこれ?」
「開けてみて~」
ハルルがニヤニヤしていた。
言われたとおりに包みを開ける。
「髪ゴム! 四つ葉がついてる!」
小さな四つ葉の飾りがついた髪ゴムが1つ入っていた。
「カエデちゃんもそろそろ髪の毛伸びてきたし必要そうだな~って思って」
「ちょっと前髪が目に入るようになってきてどうしようかなって思ってたところ」
「私の髪ばっかり見てたし。興味ありそうだなって思ったの」
バレてたー。
髪ゴムうれしいなあ。
「私もおそろいの買っちゃった。ほら!」
ハルルはポケットから髪ゴムを取り出す。
「わー、おそろいだー!」
ハルルは一度ポニーテールをほどき、新しい髪ゴムでくくりなおした。
「どう? 似合う?」
馬のしっぽをぶんぶん振って見せてくる。
うれしそうなハルル。
「似合うよー。いいなー。ボクも早く髪伸びないかな」
「もうちょっと伸びたら使ってね」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
ボクたちはお互いにお辞儀してから笑いあった。
『ミッション3.デート記念のお土産がほしい。何を買うかはハルルに決めてほしい』クリア。
ハルルはやっぱりすごいや!




