第21話 ハルルのすごさがわかっちゃうデート4
ようやく順番が回ってきて、ボクたちは案内された2人用の席に向かい合って座る。
もう頼むものも決まっているし、早速注文しよっと。
「すみませーん。マンゴー味と杏仁豆腐味とキンモクセイ味を1つずつください!」
「はい、かしこまりました」
「あ、すみません」
伝票を書いて厨房に向かおうとした店員さんをハルルが呼び止める。
「キンモクセイ味だけ持ち帰りにできますか?」
「はい、できますよ。お帰りの際にお作りしますね」
「ありがとうございます。それでお願いします」
店員さんは軽く頭を下げると、厨房のほうへ向かっていった。
「すごい! 持ち帰りなんてできたんだー」
「メニューに書いてあったよ。そうじゃなかったらさすがに3個はダメよ。外で食べるなら、ギリギリ大丈夫かなって」
持ち帰りは気づかなかったな。
ボクがお腹弱いことをずっと心配してくれていた。
実のところ、ホントはあんまりかき氷は得意じゃない。味は好きだけど、氷ダイレクトだと冷えすぎるからね。
「それとここの氷はそこまで冷たくないかもね。天然氷を使っているそうだから、体を冷やしすぎない、かもね?」
へえ、天然氷!
頭がキーンってしないやつかあ。
初めて食べるかも。
「ハルルって物知りだねー。氷の違いなんて気づかなかったよ」
「メニューに書いてあったのを読んだだけよ。カエデちゃんが味を選ぶのに夢中になりすぎなの」
そう言ってコロコロ笑うハルルの笑顔がたまらなく愛おしい。
ハルルにはずっと笑っていてほしいなあ。
「あ、もうきた。早い!」
「やったー! マンゴーと杏仁豆腐! うわっ、ホントに大きい!」
ホントに洗面器ぐらいあるんじゃないかというほど大きな器に山盛りのかき氷と所狭しと並べられたマンゴーの果肉。
これマジ1人分?
「カエデちゃん、マンゴーどうぞ」
巨大なマンゴーかき氷の器をボクのほうに寄せてくれる。
圧倒的存在感!
「ありがとう! 写真に撮ってー。せっかくだからハルルとかき氷も一緒に撮るよー」
ハルルと杏仁豆腐かき氷をパシャリ。
どんなポーズを取っていいか迷って照れているハルルをパシャリ。
「ちょっと何枚撮るのよ。溶けちゃうから早く食べよう?」
「はーい。それじゃあいただきます!」
さっくりと氷にスプーンを刺して、まずは1口いただきます、と。
「何これ、口の中で消えたんですけどっ!」
「ホントね! 溶けるっていうより消えるね!」
やばい、おいしい!
口の中に入れると消える。空気のように軽い食感。でもしっかりとマンゴーの風味が鼻を抜けていく。
マンゴーと氷を一緒に食べるとまた絶妙なシャリシャリ感!
ああ、スプーンが止まらないっ!
「カエデちゃん食べる速度すごい! 頭キ~ンってしない? お腹大丈夫?」
「大丈夫ーおいしいから平気だよー。ハルルの杏仁豆腐もおいしい?」
ハルルの食べる速度はわりとゆっくりめだった。ボクの半分くらいの進み具合だ。
もしかしていまいち?
「おいしいよ? 交換する?」
ハルルはスプーンを置いて、杏仁豆腐味の器をこちらに寄せようとしてくれる。
「んーん。1口ちょうだい」
ボクは目をつぶって口を大きく開ける。
さあ勝負!
「え~なにそれ。鳥の雛みたい」
ハルルがおもしろがっているので、口をパクパクさせてエサを待ってみる。
「じゃあ、はい」
わーい、エサゲット!
「おいしー! マンゴーとぜんぜん違う!」
「ホントに⁉ 私もそっち気になるかも」
「じゃあ、ハルルも、あーん!」
スプーンにめいっぱいマンゴーとかき氷を乗せて、ハルルの口の前にもっていく。
「え、え~」
さすがに「あーん」は躊躇している様子。
ボクも食べたんだからハルルも食べてー。
「ほらはやく! 溶けちゃう!」
「う、うん……」
「あーん!」
「あ、あ~ん……」
観念したように、ハルルは目をギュッとつぶって口を開けた。
よし、餌付け成功!
ついでにめっちゃ照れてるハルルをぱしゃり。
「ちょっと、何撮ってるの⁉」
「お宝写真ー」
「バカ……」
照れながらの「バカ」いただきました!
そして『ミッション2.アイスを3種類食べたいからシェアしてほしい。あと「あーん」にも応えてほしい』クリア!
3種類目は持ち帰りだけど、もう予約しているからクリアで良いよね。
「杏仁豆腐、もう1口ちょうだい」
「しかたないな~。はい、あ~ん」
「あーん!」
おいしいなあ。ハルルに食べさせてもらえると余計においしく感じるね。
「ハルルも、あーん」
「……あ~ん」
食べさせてもおいしいなあ。
絶対照れが抜けないところがまたおいしい。
いつまでもずっとそのままのハルルでいてね。
そうこうしているうちに、あっという間に2種類のかき氷は食べ終わってしまった。
名残り惜しいけれど、ボクたちはレジで持ち帰り用の保冷バッグを受け取り、かき氷屋さんを後にした。
「あと1か所くらいどこかに行ったら時間かなー?」
「そうね。あっという間ね……」
「どこに行こうかな。あれ? なんかお祭りみたいなのやってる?」
駅ビルの10階催事場で何かイベントがあるみたいだ。
「お祭り、ちょっと覗いてみましょうか」
「やったー、お祭り! わたあめ、たこ焼き、焼きそば!」
「え、カエデちゃんまだ食べるの?」
「かき氷は口の中で消えたから、実質まだ何も食べてないよ!」
「それは……まだここにきんもくせいのかき氷があるのも忘れないでね……」
「はーい。あとで外に出たら食べよう!」
そんな会話をしながら、ボクたちはエレベータで10階に上がる。
「おっと、これは⁉」
そこは想像していたようなお祭りの会場ではなかった。
「これはお祭りというより縁日ね」
「うん、食べ物がどこにも売ってない……」
食べ物の屋台や出店はなく、射的や輪投げといったレトロなゲーム系が立ち並んでいた。
「これはこれで楽しめそう……ね?」
ハルルは若干疑問形。ボクの様子をうかがっているようだった。
「楽しそう! じゃあ、ゲーム対決だね!」
「え? 対決?」
「順番にゲームで対決していって、ボクとハルル、最後に立っていたほうの勝ちね」
「え、どちらかが倒れるまで対決するの⁉」
「24時間耐久!」
「お店しまっちゃうわよ……」
「じゃあ適当に何個か対決しよー」
「急に軽い……。うん、何からやる?」
そうだなあ。
まずは定番の――。
「型抜き?」
「それは……時間かかりそうだから別のにしない? ヨーヨーすくいが良さそう」
型抜きやってみたかったのに。
まあ、ヨーヨーすくいでも良いか。
でもヨーヨーすくいなんてやった記憶が……うーん、思い出せないな……。




