第20話 ハルルのすごさがわかっちゃうデート3
「ねえ、私たちさっきからみんなに見られている気がするんだけど……」
うん、気のせいじゃなくて、確実に見られてますね。
何なら振り返って二度見する人もいるし。
「そうだねー。ハルルがかわいすぎてモデルさんかな? って思われてるんじゃないのかなー」
それは半分ホント。もう半分は……双子コーデは目立ちすぎますよ、さすがにね。ちょっとはずかしいです……。
「カエデちゃんがかわいいから見てるんじゃない?」
ちょっとからかった感じのニュアンスでハルルが耳打ちしてくる。
そういうのはいらないです……。
「まじめな話をすると、ハルルのことを見ているのはほぼすべて学園の生徒だよ。それだけデビューを控えた≪六花≫が注目されてるってわけ」
周りの生徒の多くは、仮契約をしているかしていないかギリギリのところにいるアイドルの卵たちだ。
中学から高校までの6年間でデビューできずに卒業していく生徒のほうが多い中、≪六花≫は結成1発目のオーディションで本契約を勝ち取った。
注目されないわけがない。
これからずっと、羨望と嫉妬と両方の目に晒されていくのだ。
「ハルルは芸能人として活動する自覚をもって行動してね。行動だけじゃないな。心のほうもね。自信がすべてだから。強く立っていないとあっという間に足元をすくわれるよ」
たぶんね。
ハルルはどうしようもなくお人よしだ。
それが長所でもあり短所でもある。都がしっかりと守ってくれるとは思うけれど、自覚して自衛することも必要なことだから。
「カエデちゃんって、時々難しいこと言うよね……」
ハルルが眉根を寄せて、わかっているのかわかっていないのか、うんうんうなずいている。
「ごめんごめん。デートなのに仕事の話は良くないよね!」
「ううん、勉強になるから良いの」
「今日は勉強やめよう? 残りあと1時間ちょっとだよ。もっと楽しまないと!」
今日はインプットよりもハルルの自信回復が大事だ。
「せっかく涼しい格好をしたのにもう暑いわね……」
「ボクたちさー、さっきから『暑い』ばっかりしか言ってないね。ちょっと駅ビルにでも入って、涼みながら何か探そうか?」
「賛成! この時間に外を歩くのはやっぱり無謀よ」
駅ビルなら食べ物もいっぱいある。
つまりミッション2に誘導することもたやすい!
ふふふ。
「ショップほど涼しくはないけど、外にいるよりは快適ね」
駅ビルは人の出入りもそこそこあるから、さすがにお店の中ほどは冷房が効いていなかった。でも、延々と汗をかくループからは脱出できるくらいには快適だ。
「こんなにお店があると、メイメイじゃないけど甘い物がほしくなったりするね……」
冷たくて巻き巻きしているやつとかね? ね?
『ミッション2.アイスを3種類食べたいからシェアしてほしい。あと「あーん」にも応えてほしい』
これをそろそろ実行に移したい。
「そういえばこのビルに有名なかき氷屋さんがあるのよね」
えー、かき氷かーい!
かき氷も氷だから英語でアイスか。ソフトクリームのイメージで書いてたけれど、まあギリセーフかな?
「台湾かき氷のお店が2階にあるね。行ってみる?」
案内板を見ながら相談する。
他には、同じく2階のジェラート屋さんか、9階のレストランのガレットか。
「暑いし混んでるかな? まずは行って様子を見てみましょうか」
エスカレーターで2階に降りると、わりとわかりやすく長蛇の列がかき氷屋さんのほうに伸びていた。
「まあ、人気だよね。何分待ちくらいか聞いてくるね」
入口付近にいる店員さんに確認すると、30分待ちとのこと。
なるほど、見た目の列よりも結構回転が速い店なんだね。
戻ってハルルに報告する。
「30分ね……。せっかくだし待っちゃう? カエデちゃん、立ってられる? 足疲れてない?」
「ボクは大丈夫だよ。ハルルこそ疲れてないの? MV撮影もあったし、体育館裏で仁王立ちしてたし」
「私は日ごろから筋トレして鍛えてるから大丈夫なの!」
そういうものですか。でも足が太くならないように鍛えてね?
「ところで話は変わるんだけど、ハルルっていつもポニーテールだよね。たまには違う髪型にしたりしないの?」
実は女の子のヘアアレンジには興味津々なのです。
最近ちょっと髪も伸びてきたし、もう少しで結んだりできそうで。
「う~ん、そうね~。くくるのが楽だし、動く時にも邪魔にならないし?」
完全に効率重視でしたか。
似合ってるから良いんだけどね。
「アイドルにはイメージを定着させるために髪型を固定化する人と、わりと自由に変える人といるよね」
「そうね。私はイメージを定着させるほど個性はないから、そういうこだわりはないかな」
「ナギチとかウーミーとか、めっちゃイメージ大事にしてそうだよね。ナギチがふわふわ金髪から黒髪ロングになったら爆笑しすぎて死ぬと思う」
「それは言い過ぎよ~。でも3日くらいは笑えると思うわ」
ミュージカルのアニーっぽいナギチが清楚系になったとしたら。
それは有名になって、7変化か笑ってはいけないに出演する時まで取っておいてほしいネタ!
「髪型と言えば、ちょっと変わるけど、サクにゃんって最近ネコミミつけてない時も多くない?」
「あ、私も気になってた。ネコキャラ迷ってるのかも……」
「わりと最初からだけど、語尾も『にゃん』ってつけたりつけなかったりだし、まあ、何してもかわいいからなんでも良いとは思うんだけど……」
無理にキャラ付けしなくても、人気があるからセンターなんだと思うし。
≪六花≫の元気印・サクにゃんを中心に話題は進行されることが多かった記憶がある。
「あ、もうすぐ私たちの順番ね」
店員さんからパウチ加工された小さなメニュー表を渡された。メニューは2人で1つのようなので、ハルルにも見えるように斜めに傾ける。
「すごい種類がたくさんあるねー!」
迷うふりをしようと思ったけれど、ホントに迷う!
かき氷ってこんなに種類あるんだ⁉
「いっぱいあるね~。どれにしよう?」
ハルルはメニュー表を前に腕を組んだまま固まってしまった。ボクと同じでかなり迷っている様子。
ではお先にリクエストをば。
「えーと、まずはマンゴー味は絶対外せないでしょー。杏仁豆腐味もおいしそう。豆乳も良いなあ。え、なにこれ、バラ味? キンモクセイ味? めっちゃ気になるー」
「カエデちゃん欲張りすぎよ……。お腹弱いんだから1個にしようね……」
「やだやだー。全部食べたいー」
「わがまま言わないの~。またくればいいじゃない? 台湾かき氷ってこんなに大きいんだよ?」
ハルルは両手を広げて顔よりも大きな円を作る。
それは盛りすぎでしょう。
「さすがにそこまで大きくはないんじゃ……。でも1個じゃやだー」
「私のもちょっと分けてあげるから、それでガマンしよう?」
「うー。マンゴーと杏仁豆腐とキンモクセイ……」
「どっちか私が頼んであげるから2個にしなさい……」
「マンゴーとキンモクセイ……と杏仁豆腐」
「順番入れ替えてもダメ」
「どうしても……ダメ……?」
必殺の上目遣い。
レイはだいたいこれでなんとかしてくれる!
「う~ん。しかたないか~。お腹痛くなる前に残すのよ?」
「やったー! やさしいハルルママ大好きー!」
「まったく調子が良いんだから~」
やったぜ!
必殺の上目遣いは必殺なのだ!




