第19話 ハルルのすごさがわかっちゃうデート2
ボクたちは連れ立ってセレクトショップに入った。
「わ~涼しいね~!」
ハルルがついつい大声になってしまうのもわかる。
外の灼熱地獄から考えると、本当に天国みたいな快適さだ。もうここから出たくない……。
「ねえねえカエデちゃん。ここに置いてある服って、やっぱりどれも甘い雰囲気っていうか……ちょっとかわいすぎない?」
ハルルがボクのTシャツの裾を引っ張ってくる。
「うん、かわいいねー。どれもハルルに似合いそうで迷っちゃうねー」
ホントかわいい。
種類も豊富、値段もリーズナブルで、学園の生徒たちに大人気のショップだ。
真夏の布地少な目のものから、すでに秋先取りのものまでコーナーが分かれていて目移りしてしまう。
でも今日は今すぐ着られるのがいいから夏っぽいのを探そう。
「いつもシンプルなデニムパンツにTシャツばかりだから、こういう服に近寄ったことないかも……」
と不安を覗かせるハルルの今日のファッションは、ショート丈のデニムパンツに白Tシャツ。そして今は、違う意味での透け感を演出中。まあ、ほぼ練習着ですね。
「ハルルは細身だからデニムを多用したがるのはわかるけれど、今日は冒険してみよう!」
というファッション雑誌の受け売り。
ボクだってちょっとは勉強しているんですよ!
ねえ、見て? ボクの今日のファッションは、いつものTシャツじゃなくて、ちゃんとキャミにシアーカーディガンを羽織ってるんですよ!
えっと……朝起きたら準備されていたので……はい……。でもホントに勉強もちゃんとしてるの!……って誰に言い訳してるんだろう。
「今日買うのは絶対スカート系ね。これは決めましたからね!」
無難にパンツ系には逃がさないよ。さて、どんなのがいいかな。
「あ、これかわいいかも」
ボクが手に取ったのは白系花柄のロングスカート。
「ええ! それはさすがにちょっとかわいすぎない?」
「かわいすぎないです!」
これに合わせるとしたら、うーん、普通にいくとカットソーだけど、あえてニット系?
「これ似合いそう! 片方肩出ててちょっと大人っぽいし」
ピンクのワンショルフリルニットを手に取る。合わせると甘々でちょっとセクシー。
「はいこれ、試着してみて!」
選んだ花柄のスカートとフリルニットをハルルに手渡す。
「え~これ着るの? 絶対似合わないよ……笑うでしょ?」
ハルルはアイテムを一応手には取ったけれど、かなり及び腰の様子。
「せっかく選んだのに着てもらえないんだ……」
精一杯の悲しみを口にしつつ、ボクはハルルに背中を向けた。
「違うの! 着ます着ます! すみませ~ん、これ試着いいですか⁉」
ハルルは慌てた様子でお店の人に声をかけてから試着室へ入っていった。
よし、作戦成功!
ちょっとこの隙に次の候補を――。
辺りを物色しながら、待つこと5分ほど。
「似合わないと思うけど……」
そう言いながら試着室から顔だけ出すハルル。
「早く見せてー」
「う~。え~い!」
勢いよく試着室のカーテンが開く。
そこから現れたのはいつもと全然違うハルルだった。
普段のきりっとした雰囲気から一転、めっちゃ女の子っぽい!
「うわっ、かわいい……。予想よりも何倍も似合ってるよ!」
用意していたリアクションじゃなく、本音が漏れてしまった。
元の素材が良いとこんなふうになるんだ……。
思わず連写。
「ホントに? 私、変じゃない?」
ハルルは自信なさげにスカートをつまんでいる。
「ホント似合ってるって! それで街を歩いたら絶対読モにスカウトされちゃう!」
事務所所属のアイドルがスカウトされても困るけども、それくらい似合ってるよ!
「そんなに褒めちゃう? うれしいけど、やっぱり自信ないよ……」
「ハルルはアイドルなんだよ? しかも≪六花≫のリーダーなんだから、もっと『自分が1番かわいい』くらいの態度でいても罰は当たらないからね」
「かわいい子がそろっているグループで、そんな態度できないよ~」
「ハルルはかわいい! ホントにかわいいから自信をもって!」
うーん、ピンク系だとこんな感じになるのかあ。良いなあ。
やっぱり他の色も着せてみたいな。
「よし、次はこれね」
ハルルが試着している間に探しておいた次の候補。
ビッグカラーが特徴の白ブラウスと緑のギンガムチェックのキャミワンピだ。
さっきのよりもおとなしい感じだけど、こっちのほうがハルルの雰囲気と合いそうな予感。
「チェック柄かわいいかも」
ハルルの反応も上々。
「じゃあ着てみてね」
2時間しかないし、ここで30分以上使うのもあれだから、ハルルが気に入ってくれたらさっきのと今着ているののどっちかに決めたいな。
「着れたよ~」
2分ほどで試着室のカーテンを開く。
「おおー! めっちゃいいね!」
なるほどなるほど。ハルルはなで肩気味だから、ワンショルよりもビッグカラーのほうが整って見えるかも!
露出は減るけれど、うん、似合う!
「こっちのほうが色的にも落ち着いてていいかも……」
ハルルが鏡で全身を確認している。
けっこう気に入ってくれたかな?
「どう、それ買っちゃう?」
「そうね~。値段的にも手が届きそうだし、これにしようかな~」
「じゃあ、こっちのカンカン帽とサンダルも合わせて買おう。今日のデートはボクから誘ったんだし、まとめてボクからプレゼントするね」
「え~いいの? 選んでもらえてプレゼントまでしてもらえるの⁉ うれしいわ!」
喜んでもらえたみたいで良かった良かった。
「あ、そうだ。これがミッションなのね⁉」
ハルルが思い出したように手を叩いた。
「そうよ、きっとこれがミッションなんだわ! カエデちゃん、双子コーデしましょう!」
謎解き後の名探偵張りにドヤ顔をするハルル。
「双子コーデは、ミッションとはぜんぜん違うよ⁉」とは言えない……。最後まで正解は言わないルールにしてしまったから……。え、双子コーデ……ボクも着るのこれ。
それはまったく想定していなかった……。
「カエデちゃんは……スカートだけ色違いにしましょ!」
そう言って手渡されたのは、赤のギンガムチェックキャミワンピ。さりげなく自分のメンカラーをボクに……。ええい! こうなったら覚悟を決めて着ますよ!
ボクたちは双子コーデをしてセレクトショップを出たのだった。




