第18話 ハルルのすごさがわかっちゃうデート1
「ハルルのすごさがわかっちゃうデートだよ!」
「え、でも、そんな急に、心の準備が……」
「ボクとデートは……いや?」
そっと手を取り、指を絡ませてみる。恋人つなぎだぞ!
瞬間、ハルルの手のひらから大量の汗が……がんばって演出してるのに、そういう反応されるとこっちも恥ずかしくなるよ!
「ちょちょちょちょちょっとまっててててて! 心の準備を……」
もしかして、ガチで過呼吸になって倒れそうになっていますか?
ストップストップ!
一旦手をほどき、お茶のペットボトルを握らせる。
「はいはい、一度ブレイク! お茶飲んで深呼吸して!」
「う~う~。こういうのって慣れてなくて……いやなわけじゃないのよ。うれしすぎて緊張しすぎて……」
ペットボトルを額に当てて熱冷ましをしている。
こんなに接触に弱くて握手会とか大丈夫なの……。
「う~ん。はい、なんとかいけそう! はい、デートいきましょう!」
ハルルはいきなり立ち上がって歩き出そうとする。
「はいストップ! ただのデートではなくて、ルールがあるので一度座って話を聞いてね!」
「え、そうなの? ルール? そうよね、一度落ち着きます」
ハルルは頭を振ってから再びベンチに腰かけた。
ボクは端末を手に持ち、ハルルのほうに向けてみせる。
「ルールはシンプルだよ。ボクがデート中にハルルにしてほしいことをこの端末に3個メモります。ハルルはそれを予想して、ボクのしてほしいことを叶えてください」
「カエデちゃんのしてほしいことを予想してやれば良いのね?」
「そう、それだけ。デートの時間は2時間にしよっか。メモするのはその間に叶えられるようなことにします」
「わかったわ。それで、これは何を……」
ハルルは明らかに困惑している様子だ。
まあそうでしょうよ。でも、あまりネタ晴らしをしてもつまらないからね。
「これ以上のヒントはなし。正解もデートが終わった後に発表します」
「私はどうすれば良いのよ……」
「普通に楽しく。変にボクのことを楽しませようとしないで、自分が限界まで楽しむようにしてね。これはデートだから! 出かける前の相談はなしで、駅の周辺の敷地内だけをエリアとして適当にぶらぶらしましょう。始まった後の会話の流れで目的地を決めてもいいし、決めなくてもいいし」
「そんな緩くて良いのかな……。ホントに私のすごさがわかるの……?」
「わかる! もうわかりすぎるぐらいわかっちゃうから覚悟しておいてね」
ふふふ、と不敵に笑う。笑ってしまう。
「なんか……カエデちゃんこわい……」
ハルルがちょっと引いているけれど、これは楽しいデートになるよ。
「じゃあちょっとメモってスクショするから時間ちょうだい。覗かないでね?」
さて、どんな3つのお題にするか。
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ミッション1.ハルルのほうから手をつないでほしい
ミッション2.アイスを3種類食べたいからシェアしてほしい。あと「あーん」にも応えてほしい
ミッション3.デート記念のお土産がほしい。何を買うかはハルルに決めてほしい
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よし、こんなところかな。
さっきの接触に弱そうなところを加味して、1はマストで。2はボクのわがままに応えてくれるかと、無茶ぶりにも対応してくれるか。3は単純に思い出がほしいなー。
勢いで3個のお題って言ってみたけれど、実質2個しかない……困った。
だけど、まあ、あとは結果発表の勢いでなんとかするか……。
よし、もうこれでいこう!
あとから書き換えの不正防止のためにスクショして、と。
レイ、撮影するならこの画面も撮っておいてね。
「ハルル、お待たせ」
「準備終わり?」
「メモはスクショしたから、あとで答え合わせできるよ。いこっか」
「いいいきましょう!」
若干緊張気味のハルル。
変にあおったから気負っちゃったかな? ボク相手なんだし、気楽にやればいいのに。
学園ビルから出る。
アスファルトが溶けそうなほどの暑さ。
「うへー。あっついねー」
外を出歩く計画にしたことをもうすでに後悔。早くも帰りたくなってきた……。
「ホント暑いわ……。ようやく汗が引いてきたのにまた一気に噴き出して……あっ」
ハルルが自分の体を見てあることに気づいたようだ。
「やだっ。私、下着透けてる……」
「暑いのに白Tシャツなんて着るからだねぇ。あ、せっかくだから、そこのお店で服買って着替えちゃおっか」
ボクは目の前のショップを指さす。
ガーリー系を多く取り扱うセレクトショップだ。
「う、うん。そうね。良いかも。でも、あの店、私には似合わなそうな気が……」
「大丈夫だよー。ボクが選んであげるー」
「ファッション興味ないカエデちゃんが? それは不安しかないわ」
ハルルが苦笑する。
「ひっどい! 最近はちゃんと雑誌も読んでるし、勉強してるよ!」
「MINAさんの載ってる雑誌でしょ? それって見てるのは服じゃないよね?」
図星。
「なんでわかっちゃうの……」
「ふふっ、カエデちゃんわかりやすいもの」
「そうかなあ。ちょっと悔しいなあ……。でもMINAさんみたいにかっこよくなりたいって思ったりしない?」
そう言いながらボクはゆっくりとその場にしゃがむ。
両方の靴の紐をほどいてから結びなおし、再びゆっくり立ち上がる。
学園ビル前の大通りということもあり、それなりに人の往来がある場所だ。
ハルルのことを見失った、というように周りをキョロキョロする。
少し先にハルルがいるのを捕捉しているが、視線は送らない。
「カエデちゃん、こっちこっち」
ハルルが呼んできたのでゆっくりと視線を送る。
「ハルル! 良かった。はぐれたかと思ったよ」
「急にいなくなるんだもん、びっくりしたよ」
ボクたちはお互いに駆け寄り、ちょうど中間地点くらいのところで再会した。
「けっこう人が多くて、すぐにはぐれちゃいそう……」
ボクは再び周りをキョロキョロ見回して不安をアピールする。
「じゃあ、はぐれないように手でもつなぐ?」
「良いの?」
即決だったなあ。誘い方もスマートでポイント高いね。さっき過呼吸になりかけた人と同一人物とは思えないよ。
「もちろんカエデちゃんがいやじゃなければ」
「うん、ありがとう! じゃあ、はいこれ?」
ハルルの手にハンカチを握らせてみる。ただのイジワルです。
「あ~ひどい! もうそんなに手汗かいてないもん!」
プリプリしながらも、ハンカチを受け取って手のひらをこすっている。
怒りながらも一応手を拭いちゃうところはかわいいね。
「冗談ですー。ほら、暑いし早く行こうよ」
ボクはハルルの手からハンカチを取り上げ、ポケットにしまう。
「カエデちゃん性格悪いよ!」
「もしかして……ボクのことキライになった?」
「そういう質問も性格悪いよ! もう、行くよ!」
ハルルはボクの手をしっかりと握ってから、セレクトショップのほうに力強く歩きだした。
『ミッション1.ハルルのほうから手をつないでほしい』クリア!
おそらく、ミッションをクリアしたことに気づいていないだろう。
始まる前はあんなに接触に弱かったのに、ボクが困っていたら、当たり前のように手を差し伸べてくれた。
相手がどうしたら喜ぶか、ちゃんと見て反応してくれる。
だからハルルと一緒にいると、みんなしあわせな気分になれる。
これがハルルの魅力の1つだ。
これは地味な力なんかじゃないよ。
「≪初夏≫はハルルでもっている」そう言う人は少なくなかった。実際にそう言っても過言ではなかったとボクも思う。一推しは別のメンバーだったとしても、ハルルのアンチなんてきいたことがなかったし。
対応はピカイチ。
SNSのコメントに書き込んだだけでも握手会で名前を覚えていてくれたり、ファンの間だけで盛り上がった内容でも結構知っていてくれたりね。
ハルルがいれば安心。
ハルルがフォローしてくれるから、ほかのメンバーが全力で輝ける。
そんなハルルを見てきた。
ボクは昔も今も、ハルルのことを尊敬しているし、大好きなんだ。




