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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第17話 ハルルからの果たし状

 インタビュー動画の撮影とMV撮影が無事に終わった。これからシオを中心に編集作業に入る流れだ。

 自己紹介動画もすでに提出した。3分を大きく時間オーバーしたけれど、頼み込んでなんとか花さんチェックも通過したし、そっちは9月1日を待つだけだなあ。もちろんスポフェスの練習はがんばらないといけないけどね。



 スタジオの隅にある休憩用のイスに腰かける。

 ふう、と一息ついた瞬間、端末が鳴ってメッセージが届いた。


 なんでしょうかねー、と。


『今すぐ体育館裏に来られたし。春』


 は、果たし状だあああ!

 ハルルの呼び出しだ……なんか怖いよ……。


「ねえねえ、レイさん一緒についてきてー」


 レイの小指に自分の小指を絡ませて、引っ張ってみる。


「わたしはこの後師匠のところにいかないといけないので、かえでくんは1人で決闘してきてくださいね」


 小指をほどいてギュッと手を握ってくれた後、レイは行ってしまった。


 そんな殺生なー。

 ここ数日、ハルルがなんかピリピリしていて怖いんだよね。たまに睨みつけてくるし、声かけようとするとどっか行っちゃうし。

 何かに怒ってるなら、ちゃんと理由を聞くしかないかあ。誤解なら誤解でいいし、何かやっちゃってたなら謝ろう。


 よし、いこう……でもわざわざ学園のほうで待ち合わせなのはなぜなんだ……。



* * *


 真夏の昼間に外には出たくないので、本社ビルと学園ビルの連絡通路を使って移動する。

 クーラーが効いていて快適。文明の利器に感謝感謝。


「MV撮影お疲れ様、楓。撮影無事終わったかしら?」

 

 渡り廊下の反対側から歩いてきたのは花さんだった。


「お疲れ様です! ついさっき終わりました! ちょっと休憩してから編集作業です」


「それは良かったわ。私も学園の仕事が終わったから、あとで編集を見に行くわ。ところで楓は学園に何か用事?」


「あーえーそのー、決闘?」


 果たし状をもらったもので……。


「決闘? 何かトラブルなら相談しなさい?」


「いえ、ハルルから体育館裏に呼び出されてて……何か怒ってるっぽくて?」


「春が? 楓だけ呼び出されたのかしら?」


「そうなんですよー。レイは忙しいって着いてきてくれなかったし……花さん一緒にきてぇぇぇ」


 花さんに泣きつこうと距離をつめるも、エルマタドールよろしく、ひらりとかわされてしまった。


「春から呼び出されたんでしょ? 1人で行きなさい」


「こわいよー」


「誰かと連れ立って行ったりしたら、それこそ春が怒るわよ。1人でちゃんとしなさい」


 花さんがつめたい……ようでいて、なんだか穏やかで柔らかな微笑みを浮かべていた。何の感情なの、それ。


「わかりました! 1人でいきますよーだ」


「あなたたちはまだ仕事とプライベートをきちんと分ける必要なんてないのよ。全部ごちゃ混ぜで、山も谷もみんなで経験して、ぐちゃぐちゃになりながら成長しなさい。これからあなたたちを応援してくれるファンはそういうものを求めているのよ」


 花さんは微笑んだままだったけれど、声はまじめなトーンだった。


「はい、がんばります」


 一礼してすれ違う。

 ボクは学園へ。


 言葉の真意はわかっていないけれど……。


「年寄りじゃないんだから、今のうちから何もかもうまくやろうとなんてするんじゃないわよ!」


 背中に花さんの言葉を受けながら歩みを進める。


 うまくやろうとするな、か。

 でも何か1つでも失敗したら、メイメイたちがトップアイドルになれないかもしれない……。そう思うと、どうしても慎重になってしまう。

 ぐちゃぐちゃになりながら成長かあ。難しいな。



* * *


「きたわね、カエデちゃん!」


 ハルルはホントに体育館裏にいた。

 体育館裏は木陰で日差しはないけれど、じめじめして暑い……。

 それにしてもいつからいるんだろう。MV撮影終わってすぐくらいから? 額からは汗が流れ、Tシャツが透けてうっすら下着が見えて……あれ? ボクが前にレイにもらったブラに似ている気がする……。


「カエデちゃん? ぼうっとしてどうしたの? 暑い? 熱中症!?」


 急いで近寄ってきて、おでこに手を当てて熱を測ってくる。汗でしっとりとしたハルルの手のほうが熱いからね?


「大丈夫だよ、ボクは今まで室内にいたし。それよりハルルのほうが大丈夫なの? だいぶ汗かいてるし」

 

「わ、私? いいいい今きたところだから、全然平気!」


 顔がかなり赤い。熱中症も大変だけど、そもそもアイドルが日焼けしたりしたら大変だ!


「とりあえずビルに入ろうよ。さすがに暑い……」


「え、ええ、そうしましょう」


 ハルルが同意したので、学園ビルの中へ入る。

 ふう、涼しい。冷房の発明はすばらしいものだよ! 誰だか知らないけれど、発明した人に拍手を贈りたい!


 そして、体育館裏での決闘回避!


「なにか話があるんだよね? その辺のベンチでいいかな。あ、自販機だ。何飲む?」


「えっと、じゃあお茶を」


「はーい。ボクは桃水にしようかな。はい、お茶」


「ありがとう」


 ハルルは遠慮がちにお茶のペットボトルを受け取った。

 廊下のベンチに隣り合わせで座る。ペットボトルのフタを開けて1口。


「それでなんだっけ?」


「あ、うん……。なんだか最近忙しくて、あんまり話できてなかったなって思って。夏休みになって学校でも会えないし」


 うつむき加減でハルルがお茶のペットボトルをじっと見つめていた。

 忙しすぎてメンタル不調かな……。


「そっかー。あんなメッセ送ってくるから、決闘の申し込みかと思ってちょっとビビってたよ。ハハハ」


 ちょっとではありませんでした。けっこうビビってました!


「決闘!? そんなことしないよ!」


 こっちを見て首をブンブン振る。


「ハルルのタックルやばいからなあ。細いのにパワー系だし!」


「どうせガリガリですよ……。私もウミさんやレイさんみたいだったらな〜。あ〜あ〜」


 ハルルが両手で頭の上にペットボトルを持ち上げながら、大きく伸びをする。薄い胸がますます薄く……。


「ちょっと! 憐れみの目で見ないでよ……。悲しくなるじゃない……」


 視線に気づいたのか、ハルルが自身の体を隠すように抱いて、ボクのことを睨みつけてきた。


「冗談だよ。どうしたの? 今日はずいぶん弱気だね」


 疲れだけじゃないな、これは。ストレスが溜まっている様子だ。


「みんなと活動してるとね、私ってアイドルやれるのかな〜って不安になってきちゃって……」


 ハルルは両手で顔を覆い、「えーん、えーん」と泣き出す。

 なんというイモ演技……。演技はしっかり基礎からやらないとそういう仕事はとってこれなそう……。


「うーん、なんでそんなことを思ったの? あと、嘘泣きやめてね?」


「バレてた。だって、みんなしっかりアピールできる個性があって、私だったらファンになるな~って思うもの」


「ハルルだってとってもかわいいよ?」


「ありがとう~。お世辞でもうれしいわ」


 そっけない返事。

 あらら。ホントに重症かも。


「なんでそんなふうにネガティブになっちゃってるの? MVだっていい感じに撮影終わったし、インタビューだってちゃんと喋れてたじゃない?」


「うん、私はみんなの引き立て役を買って出ているだけよ。そうすることでみんなの個性が光るならそれでいいとは思っているんだけど、ね……」


 ハルルはポニーテールをほどいて、髪をいじり始めてしまった。

 

 もしかして、前にウーミーに言われたことを気にしてるのかな。

 ウーミーが≪六花≫に加入する前の話。ハルルが名指しで支配力が足りないという指摘をされていた。


「前に言われたウーミーの言葉を気にしているなら、たぶんハルルは自分の力を勘違いしているよ」


「私は個性がないし、周りを引き立てる脇役でしかないんだわ……」


 涙が一粒、ハルルの頬を下っていく。


「ハルル、聞いて? ハルルはね、支配力が足りないんじゃないんだよ。見えないように支配するからすごいんだよ。周りを包み込んで気づかない間に場を支配しているの。わかる?」


「ぜんぜんわからないわ。私、そんな力ないわよ。過大評価よ……」


「ボクの言葉は信用できないみたいだね。よし、わかりました。じゃあ実践形式で、ハルルのすごさを証明しちゃいましょうかね」


 我に秘策あり。

 ハルルはこの課題をたぶん余裕でクリアしてくる。

 自分の力に驚くんじゃないかな。楽しみだ。


「カエデちゃんの言葉を信用していないわけじゃないの……でも……」


「はーい、そこまで! これから2人っきりでデートしよっか!」


「ええ⁉ 私とカエデちゃんで、でででででデート⁉」


「そう、デート! ハルルのすごさがわかっちゃうデートだよ!」


 慌てふためくハルルはかわいい。

 こんなにかわいくて、よくも自分はアイドルに向いていない、なんて言ったもんだよ。

 ハルルのすごさとかわいさをイヤッていうほどわからせてやるからな! 覚悟しとけよ!

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