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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第15話 シオセンセのオフセット本

 ウーミー加入から1週間ほどが経った。

 さしたるトラブルもなく、急速にグループに馴染んでいっている様子で安心する。

 もしかしたら、そんなことを意識している暇もないくらい、やることが多いとも言えるかもしれないけれど。


 MV撮影のための練習が中心だけど、衣装合わせも進んでいる。あとはインタビュー動画の中で使われるオフショット的な撮影や練習風景の撮影はちょこちょこ入っている。まだ自己紹介動画の内容は落ちてきていないけれど、それもそろそろ準備が始まるはず。

 夏休みに入って平日の昼間も使えるとはいっても、一丸となって取り組まなければ到底間に合いそうもないと感じる忙しさだ。


「ちょいちょい、カエちん。こっちこ~」


 シオが挙動不審に辺りを見回しながら部屋の隅っこからボクのことを呼んでいる。いかにも「私、怪しい人間です」といった雰囲気を漂わせて……これ、絶対やっかいなことだわー。


「なーに? 面倒事はカンベンだよ?」


 お見合いしていても仕方ないので、渋々招きに応じて部屋の隅へ。


「カエちん、カエちん。お探しのブツ、入荷やで」


 小声で囁く。シオは辺りを確認しながら、ポケットから手帳サイズの物を取り出してボクに見せてきた。


「こ、これは!」


 オフセット本だ!


「お探しのシー×ゼロ本や!」


 なん……だと⁉

 手渡された表紙を確認する。


『気球に乗ってどこまでも』


 何このタイトル……どういうこと?

 普通に気球に乗る女の子が2人……あっ! 気球の形ェー。

 もうこれ、よく見ると完全に表紙が下ネタなんですけど。


「これ、ギャグモノ?」


「ちゃうて。中見てみ~な」


 シオセンセ、なんて悪い顔なの。その顔は悪代官しかしないやつだよ。


 若干期待値が下がった状態で、パラパラと中身をめくってみる。

 

 お、おいぃぃぃ。

 これはダメでしょう! 肌色が多すぎるよ!!


「センセ……おいくら万円ですか?」


 うおぉぉぉぉ、いくらでも出すぞー!


「あんさんにはいつもお世話になってますさかい、ロハでと言いたいとこなんやけど、こっちも危ない橋を渡ってる身。独自ルートを使うてオフセットで5部のみの限定生産。Web公開は絶対できひん代物や! 1部これでお譲りしましょう!」


 シオが見せたのは指1本。


 ふむ、なるほど。いいでしょう!

 財布から現金を取り出して、そっとシオの手に握らせた。


「まいどおおきに~」


 シオは満足そうな笑みを浮かべながら、部屋を出ていった。

 ちょっと、練習は⁉


 しかし、これはすごいな……。

 あと4部は誰に売るつもりなんだろうか。若干気になる。


(ふーん)


 あ。


「ふーん」


「うわああぁぁぁぁぁ!」


 レイが真後ろに立っていた。


 やばい。

 反射的にTシャツをめくって、オフセット本をお腹に隠してダッシュ。一時撤退!


「かえでくん、まちなさい!」


 待てと言われて待つやつがいますかーってね。

 すれ違う人にぶつかりそうになりながらもなんとかレイを巻くことに成功。


「ふぅ、危ない……これはさすがに見られたらまずい、よね……」


(かえでくん、まちなさい)


「うわああぁぁぁぁぁ!」


 反射的に振り返る。

 

 い、いない。

 なんだ、適当に呼びかけてきただけか……。

 

(わたし、レイさん。今2階にいるの)


 め、メリーさん⁉


(ううん、レイさんです)


 ええ、知っていますが……メリーさんの電話ですか?


(そうです。わたし、レイさん、今食堂にいるの)


 やばい、近づいて……いなかったわ。さすがにクリーニング室はわからな……あ。


(わたし、レイさん。40階に向かいます)


 それは卑怯だぞ!


(わたし、レイさん。怒らないからその本を見せてください)


 絶対怒りそう……。

 

(わたし、レイさん。そんなことで今さら怒ったりしないですよ)


 うーむ。


(わたし、レイさん。しおさんの新作が読みたいだけですよ)


 ホントにぃ?


(わたし、レイさん)


「つかまえた」


「うわああぁぁぁぁぁ」


 振り返る間もなく、がっちりと後ろから体を抑え込まれていた……。


「たすけてー! だれかー!」


 半べそで周りに助けを求めても、みんな見て見ぬふり……。なんて冷たい世の中……。


「わたし、レイさん。観念してその本を見せてください」


 前髪に隠れて、レイの表情が読み取れない……。逃げるか、素直に渡すか……。ええーい、どうなっても知らんぞー!


「わかった。わかりました。ホント怒らないでよね?」


 お腹で温めておいたオフセット本を取り出して、レイに差し出す。

 

「ありがとうございます。わたしが主役なんて、楽しみです」


 本を受け取ったレイは目を輝かせていた。

 え、なんかうれしそう⁉

 自分がエッチな本になっていてもうれしいものなの?

 ぜんぜんわからぬ……。


「なるほど。自分が題材になるというのは……なかなかはずかしいものなんですね」


 レイが赤面していた。

 主役だからなのか、内容がエッチだからなのか、それははっきりしていただきたい!


「苦情はシオセンセにお願いします……」


 ボクはただの読者だからね! 責任はありませんよ!


「いつもメイプルちゃんの活躍を読んでいるかえでくんもこんな気持ちなんですね」


「いや、たぶんぜんぜん違うよ? メイプルちゃんシリーズはぜんぜんエッチじゃないからね?」


 健全な……健全な(?)健全だと思われる(?)ゆるゆりだからね?

 自信なくなってきたわ。


「レイが怒っていないならいいんだけどね」


「隠れて読んでいたのはちょっと怒ってますよ!」


「え、堂々と読むものじゃなくない?」


「隠しごとはかなしいですよぅ」


 これってそういう類のものなのかな……。普通にこそこそするのが正しい行動な気がするけれど……自信なくなってきた。


「これからは……ちゃんと報告します……」


「それでよろしいです!」


 ニコニコ顔のレイさん。

 ホントにそれでよろしいのかな?


「その本返してくれる? まだちゃんと読めてないから」


「ダメです。没収です!」


 ニコニコ顔のままのレイさん。やっぱり怒ってるよね?


「読みたいよ……レイのエッチなマンガ読みたいよ……」


「か、かえでくん! こんなところではずかしいですよぅ」


 そうでした。ここは人々が往来するクリーニング室の前でした。

 急にめっちゃ恥ずかしくなってきた!


「に、にげろー!」


 ボクとレイは顔を真っ赤にしながら、足早にその場を後にした。


 あ、ボクも今日のレッスン、サボってるじゃん。

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