第12話 ボクの選んだ道
「サクラは、コーチに正式加入してほしいです!」
サクにゃんはまず全員を見渡し、そして最後にボクを真正面にとらえて、はっきりと宣言した。
「それは……ボクはマネージャーだから、メイメイを支える使命があって……」
しどろもどろ。
こんなふうにはっきりと言われるとは、正直予想していなかった。
1カ月間誰も見つからず、最終段階でいったん代理で――みたいなことはありえるとは思っていたけれど、いきなりこうくるか……。
「コーチがご自分の役割に真摯に取り組む方だというのは理解しているつもりです。でも、今コーチのことを必要としているのは早月さんだけではありません。サクラも、他のみんなも、コーチのことが必要なんです!」
ここまで信頼と期待を寄せてもらえるのは素直にうれしい。
でも、ボクの使命――メイメイを覚醒させて完璧で本物のアイドルグループを作ること。
そこに至る道筋がはっきりと見えているわけではないけれど、トップを目指す≪六花≫の中にボク自身を入れては考えてはいなかった。
「アカリの穴を埋めるだけなら、代理ちゃんとしての実績もあるカエちゃんが最適なんはわかるで。でも、ほんまにそれでええんかな?」
そう、ナギチの言葉は的を射ている。
今回の話は、ピンチの時の代打ではないのだ。正式なメンバーとしてこれから活動をスタートさせて、トップアイドルに上り詰めるための運命共同体の話をしているのだ。
「カエデちゃんがそばにいてくれるのはうれしいわ。でも、何かあった時にフォローしてくれる今の関係のほうが安心できるというか……」
ハルルの気持ち、マネージャーとして受け取るならこれ以上の賛辞はないと思う。
一方でサクにゃんの気持ちも大切にしたい。
ボクはどうしたらいいんだろう。
もしこのまま5人目が見つからなかったら。
適当な人を入れて活動するよりは。
当座をしのぐために。
「私は! 私はカエくんがそばにいて、一緒に踊ってくれるのが良いです! それが同じアイドルとしてでも、マネージャーとしてでも……それはカエくん自身が1番良いと思う通りに決めることだと思います」
ボク自身が決めること、か。
大切なことを忘れていたよ。
みんなには「自分の意思で、人に流されるな」なんて言っておきながら、ボク自身が求められるならアイドルをやってみるのもありかも、なんて流されていたじゃないか。
そんなやつが入って、完璧で本物のアイドルグループになんてなれるわけないのに。
「わたしも、かえでくんの選んだ道を支持します。これまで通りです」
レイもありがとう。
ボクは――。
「マネージャーとしてバディとして、メイメイを支える使命がある。そしてマネージャーグループ≪ペンダグラム≫の一員として、≪六花≫を完璧で本物のトップアイドルグループに押し上げる目標がある! だからボクはアイドルにはなれません!」
深く、深く頭を下げた。
これが今のボクの気持ちだ。
先のことは誰にもわからない。
何かのアクシデントでまた代理ちゃんとして活動することもあるかもしれない。でもそれはその時、≪六花≫を支える、≪六花≫がトップアイドルになるために必要だと判断した結果の行動になるだろう。
「コーチはそんなふうにサクラたちのことを……うれしいです!」
サクにゃんは大粒の涙を流していた。
サクにゃんの提案には応えることができないけれど、ボクなりのやり方で≪六花≫を支えさせてほしい。
「みんな、楓の気持ちは聞いたわね。この場で何か言っておきたいことがある人はいるかしら?」
都が1人1人の表情を確認する。
「何があってもカエくんはカエくんです~」
「カエデちゃ~ん、私のことも忘れずに支えてね!」
「異議なしや。MVの時だけでも、あーしの代わりに踊ってくれてもええで。あとで顔だけ差し替えてな?」
「楓さんの決断を支持するわ」
無言でうなずく人、言葉に出して支持してくれる人、全員がボクの意思を尊重してくれていた。
みんなありがとう。
ボクはボクの選択した道で全力を尽くすよ。
「それでは本来の議題に戻りましょうか。目下私たちの最大の課題は、新メンバー探しです」
都が宣言した。
それに合わせて、シオがホワイトボードに『≪六花≫新メンバーを探せ!』と書いていく。
「昨日花さんにも相談して、事務所と仮契約中のアイドル志望のメンバーをリストアップしたわ。今から全員に送ります」
全員の端末の着信音が鳴り、都からのメッセージを受け取る。
おっと、わりと候補者多いね。100人以上いるのでは……?
「すみません……このリストの人に総当たり、ですか?」
サクにゃんがおそるおそるといった具合に小さく手を挙げながら尋ねる。
「さすがにそれは、ね。時間も有限なので。そこでいくつかの指標をもとに点数をつけてみたわ。2枚目のリストにざっと目を通して」
2枚目のリスト。
1枚目のプロフィールの横に、複数行にわたって1~5段階の数字が書かれている。
項目は、総合評価、そして内訳として歌唱力・ダンス力・演技力・トーク力・ビジュアル。
全部5だと、総合評価が25点になるわけか。なるほど。
「総合評価が20点以上の人を中心に確認してみて、面識がある人がいれば、積極的に声をかけていきたいなって思ってる」
「評価の上位者はほとんどが学園の生徒ですね……。春さんと早月さんにまかせっきりになってしまいそう……」
サクにゃんが落ち込んだ様子を見せる。
たしかに、プロフィール欄は「大波中央学園」の名前で埋まっている。
「そうね。ほとんどが学園の生徒ね。顔見知りも何人か……」
「でもこうやってみると……ね、ハルちゃん?」
「そうね、たしかに……」
2人が顔を見合わせて目をぱちくりさせていた。
「「糸川先輩」」
そうだ。
ひと際目立つのがウーミーの名前。
歌唱力5、ダンス力3、演技力4、トーク力4、ビジュアル5、総合21。
リストの最上位のほうにあるわけではないのに、やはりどうしても惹かれてしまう。
≪初夏≫のウーミーを知っているから、フェアではない評価なのかもしれないけれど、やっぱり期待してしまう。
「なんや、学園では有名な人なんか?」
ナギチはウーミーのことを知らないようだ。
「そうね、有名人かも。つよつよな顔面、レイさんよりも爆乳、人を惹きつける個性、そして美声の超歌姫。総合的な基礎力はもちろんあり」
ハルルの評価。評価内容には同意だけど、表現がストレートだなあ。
「なんでそんな逸材がまだ仮契約なんや……」
そりゃ、そういう感想になりますよね。
何でなのでしょうか。
「先輩は~、この評価項目にはない、協調性がマイナス5だからですよ~」
はい。
個性が強すぎるがゆえに、周りとの衝突も絶えない、のかもしれないね……。
「それは……短期間でサクラたちが受け入れるのにリスクがあるのではないでしょうか……」
サクにゃんの懸念はもっともだと思う。
でも、単に問題児というわけではない……と思う。
ボクの知っているウーミーは、ストイックで目標に向かって一直線だった。メイメイとはわりと相性が良くて、2人でユニット活動をしていたりもしたし、トップを目指しているみんなとはうまくやれると思うんだけどな……。
きっと学園でこれまでうまくいっていないのには、周りのメンバーとの温度差なんじゃないかと思う。
「私は周りが本気じゃなかったから、うまくいかなかったんだと思ってるわ。私たちが本気で糸川先輩が本気なら、きっとうまくやれそうな気がしてる。でも……レイさんが良いなら……」
「私も先輩は好きですよ~。レイちゃんが良いなら~」
ハルにゃんもメイメイも、レイの様子をうかがっている。
その言い方だと、あまりにも意味深すぎるでしょう。
「零とその糸川先輩の間には、その、何かあるのかしら……?」
都が不安そうに尋ねる。
他のみんなも不安そう。息を飲む音が聞こえる。
そりゃそうなるよね。
「いいえ、特に何も。先輩がいつもいつもわたしのことを気にかけてくださっているだけですよ」
すまし顔のレイ。
「レイちゃんは先輩からスカウトされてますよ~。巨乳姉妹としてデビューしようって!」
メイメイさん、言いづらいことをズバッと言いましたね。そしてウーミーのネーミングセンス、マイナス5、っと。
「それはなかなか……ふむ、ひらめいたで!」
シオセンセ、それは後で個人的に詳しく聞かせてください。
「その話はすでにお断りしていますので、わたしは問題ないです」
すまし顔のレイ。
「そう? 零に思うところがないなら、春さんも早月さんも推している糸川海さんに絞って声をかけてみるのが良さそうね? メンバー入りに応じてくれそうかしら?」
「正直、五分五分かなと。ソロ志望ではないようですが、今は誰とも組んではいないようなので、どんな反応をされるか……」
「私はOKしてくれると思います~」
対照的な予測をする2人。
メイメイのその楽観的な根拠はなんだろう。
「だって、私たちと組めばトップアイドルになれますよ~」
ああ、そうだ。そうだったね。うん、わかりやすい。
単純で最も強い理由。
「それなら絶対入ってくれそうだね。うん、さすがメイメイだ」
「ですです~。先輩はトップを目指しているんだから、私たちと組むのが1番いいんですよ~」
とても楽観的のように見える。
でもそれでいてこれ以上ない説得力を感じてしまった。
「糸川さんのことは自信ありそうな早月さんと楓にお願いして、他のみんなは一応リストの上から確認して、次候補探しといきましょうか」
さて、いきますか。




