第11話 サクラからの提案
「そうですか。師匠がそんなことを……」
研究棟の前で待っていてくれたレイに、麻里さんとの会話をかいつまんで説明した。
「うん、でもごめん。結局アカリさんを連れ戻すことはできなかったわけで、正直この話をどうやってほかのみんなに伝えればいいのか……」
ウタ、シオは麻里さんと同じ研究室で働いているはずだから、話は理解できるかもしれない。でも、アカリさんと仲の良かったウタに、どうやってショックを与えずにこの話をすればいいのか見当もつかない。
あの雰囲気から察するに、麻里さんはいくつもの研究を進めていそうだ。
サクにゃんたちの研究は、おそらく表に出せるものだろうけれど、今日聞いた話は世間に発表すれば波紋を呼ぶことは予想がつく。秘密裏に進めている、いわば裏の研究といったところか。
レイの研究、実験なのかもしれないけれど、これはこれでまた系統が違っていそうだし、麻里さんの底が知れない。
「確かに伝え方は難しいと思います。でも、中途半端に希望を持っている方がいるとしたら、前に進む覚悟を決められないのではないかと」
「覚悟、か。あと1カ月で新メンバーを探して、グループとして成立させなければいけないわけだから、ボクたちに残された時間はほとんどないね」
「あかりさんが実験体で、という話は、ややこしくなりそうなので今話すべきかは迷いますが、あかりさんが戻ってこないということは、思い切ってみんなに話してみてはどうでしょうか。わたしたちだけが抱えていてもよいことはなさそうですし」
そうだ、麻里さんは仲間を頼れと言った。
みんなに話したほうがいい。
よし、覚悟は決まった。
さっそく、翌朝の日曜日、朝練の前にみんなに集まってもらえるように連絡をする。
何人かから「何の話?」と問い合わせがあったので、「新メンバーのこと」と言っておいた。
* * *
「今日は早い時間に集まってくれてありがとう」
9人全員そろっていることを確認。
なんとなくレイに目配せをした後、いきなり本題に入る。
「アカリさんのことなんだけど、アカリさんがもうここには戻ってこられない。だから、ボクたちは新メンバーを探すという覚悟をしないといけない」
「それは昨日、花ちゃんから聞いたやんか。今さらどうしたん?」
ナギチが怪訝そうな顔で見ている。
「そうなんだけど、もしかしたら1カ月もあれば日本に戻ってこられる可能性もあるかもしれないと思って、情報を持っていそうな人にあたってみたんだ」
「さすがコーチ! ご両親の都合なら、その予定が早まる可能性もありますからね!」
サクにゃんがうれしそうに両手を上げる。
希望を持たせるような言い方をしてごめん……。
「うん、でも、ダメだったんだ」
「ダメってどういうことですか~?」
「メイメイ、それはね、アカリさんが日本に戻ることは二度とないという情報を得た、という意味だよ」
「うそです~、信じたくないです! そんなこと言うのは誰ですか~?」
メイメイの抗議。怒りと苦しみが入り混じったような複雑な表情をしている。
メイメイはアカリさんの帰還を信じていたようだ。ごめん、冷たい言い方をしてしまって……。
「メイメイは知っているかな? 天利麻里さんという隣の大学病院で研究をされている先生だよ」
麻里さんの名前を出しながら、全員の反応を伺う。
……なるほど。
良くも悪くも、全員麻里さんのことを知っていそうな反応をしていた。
「麻里ちゃんですか! 元気でしたか?」
メイメイはポジティブな反応を示した。
良かった。
あれだけ麻里さんが気にしていたんだ、知り合いじゃないってことはないと思っていたけれど、友好的な関係のようでひとまず安心した。
「メイメイは麻里さんのことを知っているんだね。ボクがあったのは昨日で2回目だけど、たぶん、相変わらず元気、ってところじゃないかな」
「そうですか~。最近麻里ちゃんと会えていないからさみしいです~」
「もしかして、麻里さんと昔から知り合いだったりするのかな?」
「そうですね~。私が赤ちゃんの頃から遊んでもらっています! 麻里ちゃんはお母さんのお友だちなんだそうですよ~」
なんとなく予想はしていた。
メイメイのためにアカリさんを派遣するほど入れ込んでいるくらいだ。ただの知り合いということはないだろうとは考えていた。
親代わりか、なるほど、しっくりくる。
「私たちは間接的に天利教授と研究開発をしているから、多少の面識程度にはなるのだけれど、たしか栞と詩は直属よね?」
都が確認する。
そうだ、謎なのがシオとウタ。彼女たちはいったい何の研究をしているのだろうか。
「そやな~。だいたい毎日会っとるで。本当に朝少しだけ顔を合わせる程度やけどな」
シオのフラットな反応。何も読み取れないが、何か隠しているから平静を装っているとも考えられる。わからない。
「かえでくん、話を戻すと、師匠……まりさんが、あかりさんが当分の間、日本に戻ってこられないと明言された、ということで合っていますか?」
レイが脱線している話を軌道修正し、うまくまとめてくれた。
「そうだね。麻里さんがアカリさんにオーディション参加を進めた本人で、ここでの保護者の役割をされていたそうなので、この情報は確かなものだよ」
「マリさんが言うならそうなんでしょうね……」
ハルルが深刻そうな表情を浮かべていた。
「ハルルは麻里さんと知り合いなんだ?」
ハルルだけが麻里さんとのつながりが見えてこない。いったいどういう関係なんだろう。
「アカリさんと状況は違いそうだけど、実はマリさんは私の身元引受人なんです。私は産まれて間もなく事故で両親を亡くしていて、当時同僚だったマリさんが私のことを引き取ってくださったそうで」
なんと……そうだったんだ。
「春さん、苦労されてるのね……」
都がハルルを抱き寄せる。
「苦労なんてそんな。両親の記憶はないけれど、ママがアイドル好きで大量のお宝を残してくれていたし……。そうそう、マリさんには大変よくしてもらって、何不自由なく、こんなに元気に!」
ハルルが逆に都を抱き上げて、その場でクルクルと回る。パワフル!
「ちょっと、春さんおろして~!」
口では嫌がりつつも、ちょっとうれしそうな都。
「中学までは大波中央付属ではなくて、姉妹校のほうに通っていて、秋田にいたの。高校からマリさんの勧めで大波中央へ入ったんです」
それを聞いて、メイメイが手を上げる。
「あ、私もです~。中学生の時はおばあちゃんと北海道の小さな村で暮らしていたんですけど~、高校は麻里ちゃんから誘われてこっちにきました~」
「私たち似てるわね」
「似てますね~」
2人が共通点を見つけて笑いあっている。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
サクにゃんが挙手し、周りの反応を伺う。
「みなさん、麻里教授とはお知り合いなんですね。そして、教授のおっしゃることを信用される、ということでよろしいでしょうか?」
「まあ、そやな~。アカリの保護者っちゅう話やし、そりゃ信じるしかあらへん」
ナギチの言葉を肯定するかのように、みんな一様にうなずいた。
「では、灯さんは戻ってこられない。サクラたちは1カ月以内に新メンバーに加入してもらわなければいけない、そういうことでいいですね?」
サクにゃんが念を押すようにみんなの最終的な意思統一を図る。
ここから前に進むにはモヤモヤが残っていてはダメだ。みんなが納得して進まなければ。
「はい、さくらさん、まとめていただいてありがとうございます。わたしはまったく異論ありません」
「異議なし!」
「新メンバーを入れないとデビューできないものね」
みんなの意思はそろった、と思ってよさそうだ。
≪六花≫には5人目の新たなメンバーが必要だ。
「それではサクラからの提案を聞いてください」
サクにゃんが一瞬ボクのほうに視線を送ってくる。
改まってなんだろうか。
「サクラは、コーチに――楓さんに正式加入してもらうことをここに提案します!」
なん、だって……。




