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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第4話 出会い

 これから昼休み、4人でお弁当を持ってカフェスペースに向かおうとしているところで事件は起きた。


「ごきげんよう、零さん。こんなところで奇遇ですわね」


 教室を出た瞬間だった。

 後ろから声をかけられて、レイの体がビクンと反応したまま固まっている。


「ごきげんよう、糸川先輩。先輩は今日もお綺麗ですわ」


「あらごきげんよう、新垣さん。あなたもいらっしゃったのね」


 固まったままのレイをよそに、ハルルが後ろで優雅に挨拶を交わしている。


 イトカワ……糸川だと……まさか?

 その名前を聞き、ボクは慌てて振り返る。


 ああ、こんなところにいたのか……。

 

 そこにいたのは、ボクの記憶の中にいる≪The Beginning of Summer≫のメンバー。

 ウーミーこと糸川海(いとかわうみ)その人だった。

 

 ウーミー……。

 育ちの良さを感じさせる品のある顔立ち。意志の強さを表すかのようにまっすぐな眉と切れ長の目。そして最も特徴的な金髪の姫カット。

 見間違うはずがない。本物のウーミーだ。


「先輩こんにちは~。私もいますよ~」


「はい、こんにちは、夏目さん。先日の配信の映像拝見させていただきましたわ」


「え~、ありがとうございます~」


「あなた、いつの間にかトークもお上手になったのね。そちらの代理さんのおかげかしら?」


 ビクンッ。


「えへへ、カエくんのおかげで緊張せずにしゃべれました~」


「それは良かったですわ。改めて、オーディション合格、誠におめでとうございますですわ」


 ウーミーはスカートの端をつまむと、優雅に一礼して見せた。


「ありがとうございます~。先輩はオーディション出てなかったんですか~?」


 メイメイの無邪気な問いかけに、ウーミーが腰を折ったまま動かなくなる。

 

「あああ、えっと、ほら、糸川先輩はソロ志望だから! 今回のオーディションは3人以上がエントリー条件だったから!」


 ハルルがオロオロしながら、取り繕おうと必死だ。


「わたくし、別にソロ志望ではございませんことよ?」


 体を起こしたウーミーの目は全く笑っていなかった。

 ああ、目に見えるくらい空気が凍っている。この話題、絶対地雷じゃん。


「え~そうなんですか~。先輩、歌がうまいから、うらやましいです~」


「うふふ、ありがとうございますですわ。デビューを決めたあなたから言われると、勇気も湧いてくるというものですわ」


 氷を通り越して火花が飛び散って見える。一方的にだけど。

 メイメイ、それ以上は! もうウーミーのHPは……。


「うみ先輩、ごきげんよう。お祝いありがとうございます」


「あら零さん、おかわいそうに。配信であなたのことだけ触れられてなくて、わたくしとっても悲しかったですわ」


 あ、それこっちの地雷……。


「わたしは裏方ですので大丈夫です」


 レイさん華麗にスルー。おっとなー。当日マジ泣きしていた人とは思えない大人な態度ですわ。


「いつまでそんなことをおっしゃっているのかしら? 早くわたくしと組んでユニットデビューしませんこと?」


「それは何度もお断りしていると思います。わたしはマネージャーが性に合っているので」


 おっと、これは……。

 前に言っていた、レイに好意を寄せている先輩というのはウーミー先輩のことですね?

 さすがウーミー、圧が強い!


「つれないこと。わたくしと零さんが組めば、実力的にもビジュアル的にも天下を取れますのに」


「お断りします」


 ふむ。なるほど。

 たしかに2人なら天下を取れる、か。


 そう、≪六花≫にはどうしても足りないものが……2人にはあるのだ!


 SUGOIDEKAI。


 ウーミーは、歌と容姿と、その、美巨乳で人気を獲得していた。

 大きさだけで言えばレイを上回る逸材なのだ!


「ねえ、代理さんもそう思いますわよね?」


「あ、えっと、どう……ですかね? ハハハ」


 急に話を振られて人見知りが発動してしまった……。

 痛い。おしりをつねらないで。


「代理さんもこうおっしゃってますし、そろそろ考え直していただいてもよろしいのではなくて?」


「お言葉ですが、糸川先輩!」


 言葉を遮るようにハルルが強めの口調で割って入る。


「私たちは私たちのやり方で、天下を取ろうと努力していますので!」


「あなたたちのやり方ね……ところで新垣さん、どうやって天下を取るおつもりなのかしら?」


 ウーミーは胸を抱えるように腕を組むと、余裕たっぷりに尋ねる。


「それは、自分たちの技術を磨いて、それをお客さんに見てもらって少しずつファンを増やして――」


「弱い」


「え? なんですか?」


「それでは弱いと申し上げているのですわ」


「私たちには目標があって!」


「その目標は、今の話の延長線上に存在するのかしら?」


「それは、まだ、わからないですけど……」


「支配よ」


「支配……ですか?」


「ファンを支配する力が圧倒的に足りないと申し上げていますの」


 ファンを支配する力か。

 魅了する力、崇拝させる力とも言い換えられるかもしれない。

 アイドルの人気を押し上げるのに必要なパワー。それは熱狂を通り越した狂気ともいえるほどにのめりこんだファンをどれだけ抱えられるかにかかっていると言っても過言ではない。


 たしかに、普通のやり方ではなかなか到達できない、のかもしれない。

 

 ウーミーは特に単推しのファンが多かった印象だ。

 単推しのファンたちは、ウーミーを盲目的に崇拝しているような言動も多く見られたし、実際に彼らはウーミーしか目に入らない状態、つまり心を支配されていた状態だったのだろう。


「あなたたちには、いいえ、新垣さん、あなたには支配力が欠けていますわ」


「私、ですか……」


 名指しで指摘され、ハルルはうなだれてしまった。


 ハルルのまとめる力は本物だ。

 しかし、ハルルの力は支配力ではない。やさしく包み込むようにグループをまとめ上げる力だ。

 まず自分が土台としてしっかりと立ち、個性豊かなメンバーたちが自由に力を発揮できるようにする。さらにみんながより輝けるようにフォローもして、その強い輝きを放つ個性たちがバラバラにならないようにグループとしてまとめあげる強さがあるからこそ≪初夏≫は成立していたのだと思っている。

 それは強烈なウーミーというキャラクターをも包み、成立していた。


「お言葉ですがウーミー先輩! ハルルの力を見くびらないでいただきたいです。≪六花≫はこれから強くなる。それをまとめられるのは間違いなくハルルだけです!」


「カエデさん……」


「かえでくんの言う通りなので! わたしは、≪六花≫と一緒に天下を取ると誓ったので。では、わたしたちは先を急ぎます。うみ先輩、ごきげんよう」


 レイはボクの手を取ると、スタスタと歩き出した。


「わたくしはあきらめませんからね!」


 ウーミーの声が遠くから聞こえてくる。が、レイは振り返らず、何も応えなかった。

 


* * *


 無事、カフェスペースに到着し、ボクたちは急いで食事を始めた。


「いいの、レイちゃん? 先輩があんなに誘ってくれているのに」


「わたしには無理ですよぅ。それにみんなと一緒にいる今がとっても楽しいんです」


「無理じゃないと思うけどな~。私、レイちゃんの歌もダンスも好きだよ~」


「私も好きです!」


「2人ともありがとうございます。でも、わたしは人前には……」


 レイの箸がミニトマトをつまんだまま、ピタリと止まる。


「まあまあ、人はみんな、やりたいことをやるのが1番だよ。ね、レイ?」


「そうですね。わたしにはかえでくんのお世話係という大切なお仕事がありますからね」


 レイの動きが再開し、ミニトマトが口の中に勢いよく放り込まれた。

 レイの本職は、ボクのお世話係ではないのでは……。


「あ~私もお世話したいです~」


「あなたたち、ホントに仲いいわね。うらやましいわ」


 ハルルが苦笑する。

 お世話係のところの否定はしてくれない。ボクお世話するほうだと思ってたけど、実はお世話されてたのか……。


「ハルちゃんも一緒にカエくんで遊びましょうよ~」


 おい。今遊ぶって言ったな⁉ やっぱりお世話なんかじゃないじゃん。


「残念ですね……。来週はいよいよ期末試験ですからね。わたしたちの部屋への入室は禁止期間ですよぅ」


「あ~ずるい! レイちゃんの部屋で泊まり込み勉強したいです~」


「それは私もしたいわ!」


「部活動は禁止の期間ですから、それは難しい話です」


 メイメイ、ハルルの抗議の声にも、レイはすまし顔で受け流している。


「ボクたちの仕事って部活動だっけ?」


 ぼそりとつぶやいた独り言に、全員が「あ」と小さく声を上げた。

 レイだけ違うニュアンス、余計なことを言いやがっての「あ?」だったけれど。

 怖い……。


「あやうくだまされるところだったわ。部活動関係ないじゃない」


「レイちゃんだまそうとしてひどいです~」


「わかりました、わかりました! みんなで試験勉強しましょう。赤点を取ったら芸能活動禁止になってしまいますから、しっかりやらないといけませんね」


 観念したようにレイは言った。


「赤点いやです~」


 メイメイ1人だけが青い顔をしていた。


「メイメイ、勉強は……」


「エヘッ」


 ほっぺたに指をあてて、めちゃかわな澄ましポーズでごまかし……切れていない冷や汗がテーブルに一滴落ちる。……察しました。


「他のみんなは……大丈夫そうかな。わかりました。では、メイメイ赤点回避強化合宿をしますか」


「わ~い、ありがとうございます~。これでデビューできます~」


 メイメイバンザイポーズ。

 これに懲りたら、今度は普段からちゃんと勉強しようね?


「私、お友達の部屋でのお泊り会に憧れてたのよ。すっごく楽しみだわ!」


 意外にもノリノリなのがハルル。

 女子はなんだかんだ理由をつけて、いつもお泊り会をしているイメージなのに違うのかな。


「ハルちゃんお友達いないの?」


 凍る空気。

 おーいこらー、即死攻撃を無邪気にぶっこむのはやめなさい!

 ハルル涙目じゃん。な、なにかフォローを……。


「ぼぼぼぼボクたち、友達だもんね? ね? ハルル?」


「……カエデさんっ、ううっ……大好き!」


 あ、ちょっと、こら、やめなさい! ハルル、感極まって泣きながら抱きつくんじゃない!……レイ、痛い。痛い、やめて。やめてっ……うっ、心臓が……メイメイ、笑ってないで助けて!

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