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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第二章 学園・大学病院 編

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第1話 転校初日

「ねえ、レイ。ホントにこの制服着ないとダメなの?」


「はい、校則は絶対ですよぅ。守らないと坊主頭にすると38条28項に書かれていますからね」


「こわっ! 何その前時代的な学校。怖くてますます行きたくなくなるんですけど……」


「もう時間がないですね。遅刻するとバケツを持って廊下に立たされますよぅ」


「何その体罰! ねえ、今は何時代なの⁉」


「安土桃山時代ですよぅ。白馬に乗っていざ戦いの地へ! 戦闘服に着替えて、早く学校に行きましょうよぅ」


 ああ、もうめちゃくちゃ。

 レイのテンションがおかしくなっちゃっている!



 ボクはそう、戦闘服……つまり、私立大波中央学園の夏用制服とにらめっこしていた。


 グレーを基調としたシンプルなセーラー襟のワンピース。胸のリボンが超絶かわいいし、Aラインのプリーツスカートで露出が少なくておとなしいめ。なんとかギリギリ耐えられそう……。超ミニスカートだったら、初日から不登校だったと思うの。


 でも、やっぱりボクなんかには似合わない気がして……袖を通す勇気がどうしても出ない。


 だってさー、もうすぐ夏休みっていうこの時期に編入なんて……。

 せめて2学期からにしてよ……。


「ぶぶ~。時間切れですぅ。これから強制お着替えタイムになります」


「待って待って! まだ覚悟が!」


 え、あれ? 体が動かない⁉


「レイ……いったい何を……」


 首をまわしてレイのほうを向くことさえできない。


「こんなこともあろうかと、さくらさんから借りておいたんですよぅ。てれれれってれ~!『脳波信号バイパスくんEX(試作版)』」


 こわいこわいこわい。

 名前的に絶対やばいやつじゃん。

 ボク何されてるの⁉


「これはですね、首のあたりにこの小さなチップをプチっと貼り付けると……『なんか良い感じに脳波信号を迂回させてチップに記録できるんやで』となぎささんが言っていました」


「ちょっと……適当な説明で人に使うのやめてよぉ。首から下の体がまったく動かないんですけど……」


「運動系の信号は全部チップのほうへ向かっているから、体には伝わらないとかなんとか言ってたような気がします」


「サクにゃんチームは何のためにこんなものを……」


「なんでしょうね。こうやって体の自由を奪っておいて、かえでくんを好きなようにお着替えさせるためだと思いますよぅ」


 レイさんが悪い顔を……目が光ってますぅ。も、もうダメッ!



 うう……すっかり全身着替えさせられてしまった……。

 見た目よりも布地が薄いのか、下からうまく風が入ってくる仕組みになっているのか、かなり涼しく感じられる。


 レイが姿見を持ってきて、ボクの前に立てた。首筋のチップが外されて、ようやく体が動くようになる。


「おお……体が動く……」


 思い通りに体が動くっていうのはとてもすばらしいことだね……。あとでサクにゃんにクレームを入れておこう。


「ほら、見てくださいよぅ。とってもかわいいですよぅ」


 やあ、ボク……。

 だんだんと見慣れたショートカットでちょっとたれ目の地味めな女の子。


 でもさすが制服! いつものジャージ姿よりも女の子っぽくてかわいいぞ(自画自賛)。凹凸の少ないスレンダーな体型でも、制服ってやつはなかなかにお嬢様な女の子に見えるじゃないか。


 スカートをつまんでお辞儀。そのままくるりと1回転してみる。プリーツ状のスカートが遅れてふわりと回ってくる。

 ふふ、なんだかドラマの中の登場人物になったみたい。くるりくるり。


 ふと、レイと目が合ってしまう。

 初めてつかまり立ちしたわが子を応援するような目でボクを見ていた……。

 ああ……もう、はずかしいから見ないで!


「かえでくんの制服姿、とってもかわいいですよぅ。こんなにかわいい転校生がきたら、学園中の噂になっちゃうかもしれないですね」


 そう言いながら、くるくる回ってめくれてしまっていた襟を元に戻してくれる。


「大げさだよ……いつものジャージよりは多少見られるかもだけど。まあ、転校時期がおかしいから、変な噂にはなるかもしれない……ああ、憂うつ」


 ふと正面を見ると、姿見に並ぶボクとレイがいた。


 やっぱりレイはアイドルになったほうがいいと思うの。

 スタイルもすごくいいし、前髪をちゃんとヘアピンでとめておでこを出したら、周りが放っておかないくらいの美少女だもの。


「わたしは裏方がいいんですよぅ。それ以前に、不特定多数の人に見られるのはやっぱり少し怖いです」


「そうか、そうだったね。うん、一緒にマネージャーがんばろうね」


「ずっと一緒ですよぅ」


 後ろからギュッと抱きしめられる。

 いつもと少し違う香り。学校だから香水でも変えているのかな?


「初日から遅刻はいけませんね。急いでいきましょうか」


 おっとまずい。急ごう!



* * *


「学校……こんなに近いのね……」


 本社ビルを出て、隣のビルが大波中央学園だった。

 なんならビルから出なくても、2階から連絡通路があった……。


「忘れ物をした時に便利ですよぅ」


 ニコニコしながらレイが言う。

 うーん、なんか微妙な気持ち……。


「楓、転校初日はいろいろ説明があるんだから、もっと早く登校しなさい」


「は、はい。花さん、すみませんでした……花さん⁉」


 後ろから声をかけられて、反射的に謝る。って、なんで花さんが学園に?


「何を驚いているのよ。楓が編入するクラスの担任は私よ。専門教科は英語コミュニケーション。よろしく」


 ええ……。

 ちょっと安心したけれど、なんか……やだ。


「あからさまに不服そうな顔をするんじゃないの。落第させるわよ」


 こっわ!

 もしもし教育委員会? 転校した初日に教師から落第させるって脅されてるんですけど?


「まあいいわ。一応学園の説明をしておくわね。『我が校は、生徒の自主性を重んじており、自由な発想と豊かな才能を伸ばす支援を行っています。自己研鑽を通して成長し続ける努力が』……努力が……なんだったかしら……レイ、あとお願い」


 えー。もしかして暗記失敗ですか?


「はい、『自己研鑽を通して成長し続ける努力ができる人材、そしていずれ世界をけん引する存在となれる人材の育成を目的としています』」


 ふむ? なんかすごい学校だね? 知らんけど。


「ま、そういうわけだから、レイにいろいろ聞いたら良いと思うわ。今度はちゃんと学校に通えるように毎日起こしてもらいなさいね」


「いや、別に寝坊が原因で不登校になったわけでは……」


「かえでくん、教室に行きましょう。わたしたちは2-Aですよぅ」


「ちょっとレイ、急に走り出さないで!」


「早く早く! わたしたちの教室は2階ですよぅ」


 周りの生徒たちを何人も追い抜いて廊下を走っていく。

 なんだかレイのテンションが異常に高い。



「ここですよぅ。かえでくん、2-Aにようこそ。みんな~、転校生を紹介しますよぅ」


 レイはボクの返事を待たずに教室のドアを勢いよく開ける。

「転校生?」「転校生?」と始業前の教室内がざわざわし始める。


 え? え? こういうのって転校初日は、なんか担任の先生が「ほら、お前たちー席に着けー。今日は転校生を紹介するぞー」「え、男の子? 女の子? なんだ、男かよーちぇっ」「でもなんかあの人ちょっとカッコ良くない? ひそひそ」「はじめまして、七瀬楓です。よろしくお願いします。あっ、キミは昨日の!」「あ、あなたは昨日の……変態!」「なんだ、2人は知り合いか。ちょうどいいな。隣の席で面倒を見てやってくれ」「なんでこんなやつと」「それは私のセリフよ」そして運命に引き寄せられるように惹かれあっていく2人。トゥルーラブストーリーみたいなイベントがあるんじゃないの⁉


「わ~い、カエくんだ~。カエくんの席はさっき準備しておきましたよ~」


 ああ、我が天使! なんだここは天国か。だったらトゥルーラブストーリーはなくてもいいか。


「うん、転校してきました。もう教室入っていいのかな」


「大丈夫ですよ~。さっき花ちゃんが来て、ほら、黒板にすでに」


 メイメイが黒板のほうを指さす。そこに書かれていたのは――。


『今日から転校生が来る。名前は七瀬楓(ななせかえで)だ。ちなみに私の部下でもある。適当にこき使ってやってくれ。みんな仲良くな。1時間目は自習とする。黒川花』


 なんかもう、さすが花さんですわ。

 ちょっと最後にチューリップか何かのイラストを描こうとして、あきらめて適当にチョークで塗りつぶしてるあたりも花さんですわ。

 転校初日のドキドキを返してください。


「カエデさん。待ってたわ! さっきサツキと一緒に席を用意しておいたのよ」


 ハルルがさりげなく鞄を持って誘導してくれる。都といい、ハルルといい、ダブルレッドの委員長感、マジ安心で助かるわー。


「ありがとう、ハルル。ボクの席は――」


 あ、はい。

 

『熱烈歓迎~七瀬楓くん!~最高の学園生活をあなたに~』


 一番後ろの席。その天井あたりから垂れ下がる巨大な横断幕。

 転校ってこういうことだっけか。

 これって、悪徳旅行会社のツアーじゃない、よね?


 疑惑の目でじろりと見やると、メイメイもハルルも、一点の曇りもない笑顔でこちらを見つめてくる。

 あ、本気か、これ……。

 まずは大きく深呼吸。そして精一杯テンションを上げて――。


「2人とも歓迎してくれてありがとう! ボク、今日からがんばるよ!」


「カエくんが喜んでくれてます~」


「ね、だから言ったでしょ! 私の勘通り! カエデさんはこういう派手めのが実は喜ぶのよ」


 ハルルは二度と勘を使わないでください。


「ほらほら、2人で盛り上がっていないで、周りのクラスメイトにも紹介してあげましょうよぅ」


 レイが助け舟を出してくれる。

 たしかに内輪で盛り上がりすぎて、周りの視線が痛い。


「カエくんは~、私の専属マネージャーさんで~」


 ざわざわする教室。

「転校生、マネージャーなの⁉」「あ、私、配信の映像で見た」「春さんところの」「ホントだ、代理ちゃんだ!」


 昨日の映像ってわりと出回ってるの⁉


「事務所外秘ですけれど、オーディション合格グループの分だけは、事務所内公開されていて閲覧可能になっていますよ」


 マジか。後でもう一回見直したいな。あの感動をもう一度!


「あの、代理ちゃん……じゃなくて、七瀬さん? オーディション合格おめでとう! 昨日のすっごくかっこよかったよ」


「え、あ、ああああありがとう⁉」


 びっくりした。キレカワ女子にいきなり話しかけられた⁉ なに? もしかして、ボクのこと好きなの⁉


「かえでくん、かえでくん。落ち着いてください。そういうのじゃないですから。彼女は遠藤美奈(えんどうみな)さん。MINA名義で活動されている、今注目の人気モデルさんです」


「MINAさんが表紙を飾ると、普段の何倍も売れるらしいわよ」


 レイとハルルがフォローを入れてくれる。

 普通にクラスに芸能人がいるのかあ。すごいな、大波中央学園。


「モデルさん! めちゃくちゃきれいでびっくりした! ボクみたいな下々の陰キャに話しかけてくれるなんて……あの、いくら払えばいいですか⁉」


「代理ちゃんおもしろ~い。あのキレキレのダンスからは想像できないお笑いキャラなのね。姫、楽しそうな子をマネージャーさんにしてるのね。うらやましい。ちょっとほしいわ」


 MINAさんがお腹を抱えて笑っている。そして、レイがこめかみあたりを押さえて困り眉になっていた。

 あれ、ボクなんかやっちゃいました?


「私の大事なマネージャーさんですからね~。MINAちゃんはおさわり禁止ですよ~」


「え~、ちょっと触るくらいいいじゃない。ちっちゃくってかわいいし」


「ダメです~。そう言ってすぐ連れて行こうとしているんだから~」


「そんなことしないからちょっとだけ! 今日1日だけ貸して!」


「おほん。2人とも、かえでくんが困っています。冗談はそれくらいにしてあげてください」


 レイが文字通り、物理的に間に入って止めてくれた。


「ねえ、姫。あれはいいの? お触りレベルじゃない感じに巻き付いてるけど?」


「レイちゃんは……なんかもう、レイちゃんなので~」


 MINAさんが不思議そうな目でレイを見つめる。


「ねえ、委員長。レイさんっていつもはおとなしい印象なのに、なんか最近、ちょっと雰囲気変わった?」


「2人は寮でも同室で、とっても仲良しなので。レイさんがカエデさんのお世話をしているみたいな感じかなと」


 ハルル……やはり委員長だったか。わしの目に狂いはなかったのじゃ。


「ふ~ん、姫もだいぶ雰囲気が変わったし、ふ~ん……」


 頭のてっぺんから足の先まで、舐めまわすように見られている。


「な、なんでしょうか……」


「別に~。姫とレイさんを変えた存在に興味津々なだけよ。また今度ゆっくり話しましょうね」


「2人きりでね」と、耳元でそう囁いて、MINAさんは去っていった。

 

 声が濡れててなんかエロい!


 いたいたいたい、首が締まってるっ!

 レイさんギブギブッ!

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