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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第42話 オーディション結果

「結果きた⁉」


 ボクとサクにゃんは立ち止まって端末を確認した。


『もう時間やで~。はよ戻りや~』


 ナギチからのメッセージだった。

 なんだよ、紛らわしいな!


「ふふふ、だまされちゃいましたね」


 サクにゃんのふにゃっとした笑いに、強張っていた顔がほどけるのを感じる。


「ま~なんともタイミングがうまい。やられちゃったね……。でもホントもう時間だし、急いで戻ろう」



* * *


「2人とも遅いわよ。先に始めちゃってたわ」


 と、花さん。

 お菓子をリスのようにほおばりながら、こちらも見ずに言い放った。


「これ、買ってて遅くなっちゃった。ごめんなさい」


 シャンメリーを2本少し掲げてみせる。ぶどうとマスカット味だ。


「シャンパン? 未成年がお酒はダメよ」


「都、シャンメリーだよ。これは大丈夫なやつだから、オシャレなグラスお願いします」


「シャンメリーって何よ?」


「え、都さん知らないんですか? ノンアルコールのシャンパンですよ。未成年者も飲めますよ」


「あら。大人用のシャンパンはどこかしら?」


「花さん……勤務中ですよね。シャンメリーでガマンしてください」


「フレックスだから平気よ!」


「フレックスってそういうもんやったか?」


 そんなやり取りをしている中、みんなの端末が一斉に鳴った。

 全員が動きをピタッと止める。


「はい、深呼吸。とうとうきたわ。都、あなたが代表で読み上げなさい」


「は、はい!」


 オーディション結果の通知だ。

 いよいよ、ボクたちの運命が決まる。



「読みます。タイトル『オーディション選考結果通知』」


 都の指がゆっくりと画面をスクロールする。目線が一瞬だけ下へと動く。

 少しだけ頭を持ち上げると、誰にも視線を合わせることなく、目をつぶって浅く息を吐いた。

 

 一瞬の後、視線を画面に戻し、小さく息を吸う。

 それから口を開いた。



*********************************

オーディション選考結果通知

 

エントリー名≪六花≫


一次審査:2位 二次審査:1位


オーディション結果:合格


以上

*********************************


 最後のほう、都の声がほんの少し震えていた。


 ボクはぼんやりと天を仰いだ。

 

 合格。


 まるで夢を見ているような、どこか現実感がない……。



「やりました~。私たち合格しました~!」


 メイメイのストレートな喜びの声を聞いて、一気に現実に引き戻される。

 

 ああ、本当に合格したんだ……。

 

 ボクの涙腺は知らない間に崩壊していた。

 合格だ……。


「な~、余裕やってん。あーしが言った通りや!」


「ミャコさん……私たち、オーディション合格したんですね……」


「うんうん、春さんよくがんばったわ。本当におめでとう!」


「コーチ、コーチ! 合格ですよ! やりましたね! あっ……」


 サクにゃんが駆け寄ってきてくれた……でも、いまはちょっと。ちょっとごめん……ちょっとだけ……。

 と、ふいに甘い香りがして、視界がふさがれる。


「かえでくん、よくがんばりましたね。おめでとうございます。そしてありがとうございます」


「レイ……。服が、濡れちゃうよ……」


 ボクは精一杯、声を絞り出し、力なく抵抗する。


「本当によくがんばりました。わたしたちの夢をつないでくれて、ありがとうございます……」


 ボクの頭はさらに強く、レイに包み込まれていった。

 ボクのほうこそありがとう……。



「ババーン! どう、この横断幕デラックス! ビルの屋上に設置するから手伝ってや!」


「ビルの屋上につけても、その大きさじゃ下から見えないんじゃない?」


「ええ~。甲子園出場決定! みたいなのに憧れててん……」


「栞さん、プロジェクションマッピングでやるのはどうです?」


「おお、それナイスアイディア!」


「ビルの外壁に何かするのは、防犯上と安全上の観点で会社の許可が下りないから諦めなさい。そんなことより、ほら、あなたたちオーディション合格して正式契約なのよ! さっそく合格お祝いパーティー始めるわよ。春、乾杯の挨拶しなさい」


 花さんがお祭り騒ぎを収めて、全員を集めているようだ。


「あなたたちも、隅っこでしんみりするのはやめて、こっちきて騒ぐわよ」


 花さんの呼びかけに応じて、レイはボクの頭をゆっくり離す。そして手を引いて席まで連れて行ってくれた。

 そう、だよね。いつまでも泣いてちゃダメだ。



 ハルルがシャンメリーの入ったグラスを片手に立ち上がる。


「おほん。え~不肖、私、新垣春が~乾杯の音頭を務めさせていただきます!」


「披露宴のおっさんか! リーダー挨拶が固いねん! いつもみたいにちゃちゃっとコールエンチャントせ~や」


 すかさず、ナギチからヤジが飛ぶ。


「あ~もう、うるさいわね! 乾杯の挨拶なんてわからないのよ! あ~もう!」


「春さん春さん。ゆっくりね。今思ってることを言えば良いのよ」


 ハルルを見つめる都の目はとても穏やかだった。


「うん……。私は、この合格を半分くらいは信じていました。1次審査は手ごたえがあったし、2次審査も盛り上がったという実感はあった。でも、どこか残りの半分では、無理なんじゃないか、そんな簡単にうまくいくはずないって思う自分もいた」


「サクラも同じ気持ちでした……」


「理由もないただの不安、なのよね、これは。姿も見えないライバルたちがとてもとても恐ろしくて、倒せない強大な敵と戦っているような気がしていた」


 どんな相手なのか、何組いるのかもわからず、戦い方もわからなかったね。つらかった。


「アカリさんが急に出られなくなるハプニングもあって、正直もうダメかと弱気になったりもした。でも……リーダーがそんなこと思ってるなんて誰にも言えなくて……」


「リーダーリーダーってそんなに気を張らんでもええんやで? あーしら家族なんやから、もっとみんなで一緒に悩んでいこうな?」


「ナギサありがとう。そうよね、私だけが抱えている気になっていちゃダメよね」


 そう言って、ハルルは目尻をハンカチで拭った。


「これは家族みんなで勝ち取ったオーディション合格よ! アカリ、見てますか⁉ これが私たちのスタートラインです。気を引き締めて戦いましょう! Are you ready? Call Enchant! We Can! Cheers!」


「「「チアーズ!」」」


 みんなそれぞれグラスを高々と掲げ、乾杯に応える。


「春、良いスピーチだったわ。みんな、今日だけは純粋に合格を喜びましょう。あなたたちの戦いは明日からよ。今日だけは思う存分、食べて、飲んで、騒いでいいわ。責任は私が取ります」


「「「ありがとうございます!」」」


 そうだ、スタートライン。まだ何も成してない。ここから始まるんだ!

 


 ナギチが「ヒャッハー」と叫びながら、シャンメリーの瓶を振り回している。まさか酔ってるのか……。


「渚、あなたは控えめに。体重コントロール意識して」


「そんなアホな! 今日だけは無礼講ちゃうんかいな⁉」


「アイドルとしての節度が保てない者は本契約されない可能性も考慮して騒ぎなさいね?」


 なんて恐ろしい殺し文句なのでしょう。

 あんなに元気の良かったナギチが、おとなしく椅子の上で体育座りをして烏龍茶を飲んでいるじゃありませんか。



「みんな~、できたで~。シオセンセの新作イラストやで~」


『祝・≪六花≫オーディション合格おめでとう!』


 大きな画用紙に、筆文字でかっこよく書かれたタイトル。

 その下には、デフォルメされたボクたち10人と花さんのイラストが描かれていた。


「シオちゃんセンセ、イラストかわいいです~」


「これはいつSNSにアップしますか⁉ 全力で拡散しますか⁉」


 目を輝かせているメイメイと興奮気味に写真を撮るサクにゃん。


「桜さん、念のためだけど、オーディション結果は会社がオープンにするまでどこにも漏らしちゃダメよ?」


「みんなも気をつけなさいよ。これからデビューしていくんだから、社会人としての常識と、アイドルとしてのリスク管理はしっかり学ばないと生き残っていけないわよ」


「はい、すみません……」


 都からやんわりと諭され、花さんから普通に叱られて、サクにゃんがシュンと小さくなって、ナギチの隣で正座してしまった。ネコミミもペロンと垂れ下がってしまっている。


「う~む、これは貴重や。さらさらさら~ほいほいほいっと。『天才ネコにゃん、怒られすぎて反省するの巻にゃん』送信!」


 再び全員の端末に着信。

 ネコミミ少女が耳を押さえて丸くなって震えているラフ画が送られてきている!


「こ、これは⁉」


「シオちゃんセンセ、イラストかわいいです~」


「これはデジタルだし、SNSアップOK案件ね」


「うう……許してくださいにゃん」


「さくらさん、かわいそうに。よしよし」


 レイが丸くなったサクにゃんを膝の上で慰めていた。

 ああ、そこはボクの場所!


「んふふっ、傷心のネコさんに定位置取られちゃいましたね~」


 振り返ると、メイメイがニヤニヤしながら後ろに立っていた。


「な、なんのことかな?」


「むくれてるカエくんもかわいい。今日は私のお膝で丸くなりますか~?」


 メイメイの膝……だと。

 そ、それ、握手券何枚分ですかっ⁉


「カエくん、冗談ですよ~。ちょっと目が怖いです~」


 やばっ。キモオタ戻ってきちゃってた⁉



 と、三度目、全員の端末に着信。

 今度は何? シオセンセの新作ペース早くない⁉



『本契約手続きのご案内』



「おお、本契約や! あーしら、ホントにデビューするんやで!」


「渚さんやりましたね! 契約金もらえますか⁉」


 なるほど、とうとう正式な契約に移行するのか。

 急に現実感が出てくる。


『本契約移行にあたり、特段異議申し立てのない者は、下記日程で4階法務課まで。七瀬楓:20:15~』


 え、めっちゃすぐじゃん。


「20時って、私もう予定の時間なんだけど! みんなは?」


「都さん、私も20時から! 急がないと!」


 都とハルルが悲鳴を上げている。

 どうやら、アイドル組は20時、マネージャー組は20:15で設定されているらしい。


「全員いってらっしゃい。ここは私が守っておくわ」


 お菓子が、次々と花さんの中に片付けられていく(物理)

 守る、とは……。


「は~い、いってきま~す。みんないこ~」


 メイメイがうれしそうに手を振っていた。



 ん、あれ? 本文に続きがある?



『特記事項。本契約の追加条件として、七瀬楓は私立大波中央学園に編入することとする。なお、編入日は――』



 ええ⁉ 明日から学校に⁉

 なにこれ? 

 え、マジ⁉

 ええええええええええええええええ⁉


「かえでくん、大波中央学園にようこそ。明日から同級生ですね」


 レイさんの最高の笑顔いただきました……けども、いや、ええ……ボクが学校に? あれ? レイの通っている学校って、たしか女子高……ええ……。


「同じクラスになれるといいですね。きっとなれますよね」


「いや……女子高……」


 はっ! つまりメイメイとも同じ学校ということに⁉


「ちなみに、わたしとさつきさんとはるさんは同じクラスですよぅ」


 うわー、それは同じクラスになりたい!……けれど、トラブルの予感しかしないのはなぜだろう……。


 どうなっちゃうの、明日からのボク⁉



第一章 オーディション編 ~完~



第二章 学園・大学病院編 へ続く


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ここまでお読みいただきありがとうございました。


もし良ければ感想などいただけると大変励みになります。

引き続きお付き合いいただけると幸いです。

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