第13話 夏休み~ボクたちの宴が始まる
「よーし、ひとまず進路のことは忘れて、夏休みを満喫するぞー!」
者どもー、準備は良いかねー⁉
「わ~い! 夏休みですよ~!」
メイメイが一番に車から飛び出し、原っぱに駆け出していく。
「メイメイ! ちょっと荷物ー! キャンプ道具はみんなで運ばないと!」
あー、ダメだ。どこか行っちゃった。
メイメイって自然を見ると、どこか野生に戻る感じあるよね。長く幼少期を過ごした北海道の地を思い出してテンションが上がってしまうのかな?
「テント関係はこっちね。食料品はこっちに置いて。レジャー関係はこっちよ!」
ハルルがてきぱきと指示を出していく。
さすが頼れる現場リーダー! 総指揮の都と現場のハルル。この2人のどちらかがいればボクは楽できるから助かる!
「じゃあ私とカエデちゃんでテントの設営かな。レイさんとウミはバーベキューの準備をお願い」
「かしこまりました」
「わかりましたわ~」
レイとウーミーが車から少し離れた空き地に機材を運び、タープを立て始める。調理場の設営だ。
それを見て、花さんが満足そうに頷く。
「大丈夫そうね。あなたたち、くれぐれも火の扱いには気をつけなさいね。私は本社に戻るわよ」
「「花さん、ありがとうございました!」」
ボクたちがお礼を言って頭を下げる。顔を上げてみたら、すでにその場に花さんの姿はない。もう車に乗り込んだ後だ。「ププー」とクラクションを2回鳴らすと、そのまま車を走らせて行ってしまった。
「行っちゃったね。忙しいんだなあ」
「大人って大変ね……。私たちも学校を卒業したら花さんみたいに働くのかな」
ハルルが若干不安そうな表情を見せる。
「何言ってんのさ。ハルルはアイドルでしょ。サラリーマンみたいな仕事はボクたちマネージャーに任せておきなよ」
「カエデちゃんがサラリーマンになるの? おもしろいの~」
ハルルがお腹を抱えて笑う。
「そう? そんなに似合わないかな? サラリーマン」
「似合わない~。カエデちゃんがちゃんと毎朝同じ時間に起きて会社に行っている姿が想像できないもん」
「失礼な! ボクだってちゃんと(レイに起こされて)毎朝早起きしてるよ? 朝練だって遅刻したことないでしょ」
「大人になってもずっとレイさんと一緒に住むわけにはいかないのよ?」
「うっ」
それは困る……。
一家に一台レイがいてくれないと生きていかれない……。
「早く大人になりたいけれど、大人にはなりたくないわね」
どこか矛盾しているようで矛盾していないようにも感じる。
子どもでいるのは大変だけど、大人になったら大人の大変さが待っているんだと思うと、ボクはこのままでもいいなとも思ったりもする。きっと、それぞれの立場でしかわからないことがあるんだろうなあ。
「難しいことは考えずに今日は夏休みを楽しもう。明日の昼からはプチリハをして、あさっては定期公演#6なんだからね」
今日だけは全部忘れよう。
1日くらい遊んだって罰は当たらないさ。
「そうね。じゃあ私たちのドームの前に、ドーム型テントを立てちゃいましょう!」
「なんか紛らわしいな」
ボクは苦笑し、テントの材料を両手に抱えた。
ドーム型のテントって、中の空間は広くて快適なんだけど、設営が大変……。ポールがいっぱいでどれがどれやら……。
* * *
四苦八苦しながら、たっぷり30分をかけてテントの設営を終える。
「なかなか重労働だった……」
「カエデちゃん、お疲れさま」
ハルルがペットボトルのスポーツドリンクを手渡してくれた。
「サンキュー。キャンプの達人のメイメイがいればもうちょっと楽だっただろうに。ホントどこ行ったんだろ」
辺りを見回すと、レイとウーミーが食材を刻んでいるのが見える。
「あれ? あそこで火おこししているのはメイメイかな?」
どうやらいつの間にか、あっちのチームに合流していたらしい。
まあ、キャンプ玄人のメイメイは、どっちの仕事を手伝ったとしても重宝されるだろうからね。
「ボクたちもあっちに合流しようか」
「カエデちゃん待ってよ。まだテントの中に寝具やランタンを運び入れてないわよ」
「あ、そっか。エアマットを膨らませたりもしないといけないんだっけ。テント設営したら終わりな気がしてた……」
寝るための準備をちゃんとしておかないとね。まだまだ重労働は続くぞ……。
* * *
「やあやあ、バーベキューの準備はどう?」
やっとテントの中のあれこれを終えたボクとハルルは、調理組の3人に合流する。
「焼肉とジンギスカンの準備はすでに完了しています。あとはうみ先輩がムース汁を作ってくださっているので、それを待っているところです。ですが全員揃いましたし、そろそろ肉を焼いていきましょうか」
「ムース汁? もしかしてユーコン川のあれ?」
「もちろんそうです。わたしは大泉シェフを尊敬しています」
じゃあ自分でムース汁作ったらいいじゃないの……と思わないでもないけれど、まあ、それはどっちでもいいか。
「ジンギスカンはメイメイ監修かな?」
メイメイは赤く燃える炭火の上に片手をかざしていた。
「1ミシシッピ、2ミシシッピ、3ミシシッピ! OKです! 肉焼きましょう~!」
どうやら火の温度を確かめていたみたい。
キビキビ動くメイメイは新鮮だ……。
「まずは網焼きで、普通の焼肉からですよ~」
よーし、いよいよ宴の始まりだー!
飲むぞー! 食うぞー!




