第9話 糸川海生誕祭2024&1st Anniversary その6~そして誰もいなくなった(終)
「やあみんな、元気にしてる? みんなのアイドル、七瀬楓だよ!」
勢いよくスタジオに入ってきたウーミー(レイ?)は、完璧にボクの格好をトレースしていた。
ボーダーのTシャツにデニムのショートパンツ姿。
あ、でもボーダーのTシャツの胸のところがちょっと伸びちゃってる……。さてはさっきの着まわしたな⁉
「あれあれ~? せっかくボクが来たのにみんな無視? 悲しいなあ。ちやほやしてくれないとボク泣いちゃうぞ」
いや、マジ誰だよ。
そんなこと言ったことないでしょ!
“めちゃウザいカエデが来たw”
“本物を前にしてようがんばっとるwww”
“ウーミーの中でのカエデ像ひどいw”
“これが悪意ある原作改変というやつか”
“サークルの姫”
“まさにサークルクラッシュ寸前”
“それわかる”
“サークルクラッシャーカエデ”
“ハルルだけかと思いきやほかも意外とね”
ひどい言われようだよ。
口に水を含んでいて反論できないのがつらい……。
ねえみんな、それってさ、ニセモノのことじゃなくて、本物のボクに対するバッシングですよね……。みんながストレスなくアイドル活動できるように一生懸命がんばっているんだよ? マネージャーとしてアイドルと良好な関係を築きたいと思っているだけだよ?
「ハルル~。ボクのこと好き? チュ~する?」
ボク(ウーミーorレイ?)が目をつぶって唇を突き出していく。
ターゲットをボクからゲラのハルルに変えてきたな。
どうあってもハルルを卒業させたいの?
ハルルはハルルで目をつぶり、ボク(ウーミーorレイ?)を見ないように必死に耐えている状態。あのー、本物のボクがここにいますよ? あきらかにニセモノなのに、何をそんなに必死になっているの?
「ハ~ル~ちゃん。手、つなごう?」
目をつぶったままのハルルに対して、ボク(ウーミーorレイ?)が手を差し出す。
その言葉に反応し、ハルルがカッと目を見開いた。
ハルル?
あ、手を取った! だらしない顔!
こ、これは……完堕ち、か?
「ナギチ。ナギチはボクのこと好きだよね? 一生ボクのためにギャラクシーしてくれないか」
なんだそれ……。
ちょっと? おーい、ナギチ?
なんか今にもついていきそうな……。熱っぽい目でボク(ウーミーorレイ?)を見つめるのはおかしいぞ? おーい、本物はこっちですよー?
ナギチは、ボク(ウーミーorレイ?)に向かって深く頷いてから立ち上がる!
え、ナギチも落ちたの? ちょっと早くない⁉
「サクラ。愛してる」
シンプル!
おっと? サクにゃんが立ち上がったぞ?
ボク(ウーミーorレイ?)の手を取った……。あ、これもう告白を受けた流れだわ。無言だからわかりづらいけど。サクにゃんチョロすぎるじゃん……。まあ、ウーミー相手だと思うと、この結果も仕方ない、のか?
「メイメイ。あとで駅前の食べ放題のお店に連れていってあげるから、ボクについてきて」
それはちょっと違くない?
メイメイ……迷わず立ち上がって、ボク(ウーミーorレイ?)の後ろに……。食べ放題に負けた……悲しい。
「さて、これで全員ボクと一緒に歩んでくれるってことでいいよね。≪初夏≫ハーレムはボクのものだ!」
自分の後ろを振り返り、ハルル、ナギチ、サクにゃん、メイメイの前に。
ボク(ウーミーorレイ?)は、順番に1人ずつ手を取りながらにこやかに微笑む。全員、水を口に含んだままうれしそう……。
なんだこれ?
なんかよくわからないうちに、ボクは負けたの? えっ、これってそういう対決だったっけ⁉
「じゃあ、ボクたちはこれから楽しくお出かけしてくるから、配信の締めはよろしくね。かえでくん」
小さくウィンクしてみせると、ボク(ウーミーorレイ?)は4人の肩を抱き、スタジオ後にした。
スタジオにはボク(本物)が1人だけ取り残されて……。
え、マジ?
七変化のコーナー終わりで配信のエンディングトークですか?
スタッフの人ー?
誰かー、状況を教えてー?
“カエデきょどりすぎwww”
“完全敗北w”
“偽物が勝つパターンあるのw”
“負けたんだからもう水飲み込んでしゃべれw”
“負けたんだからこっちが偽物ってことでいいんじゃね?”
“あっちのカエデのほうがイケメンだったし、この結果もしゃあなしw”
“じゃあこっちの情けないカエデをもらっていきますね”
“あ、おれもこっちでw”
“俺もこっちのほうがいいなw”
“イケメンはちょっとなw”
“カエデ愛してるぞーw”
「いや、みんなもキミたちもマジなんなの?」
仕方ないので水を飲み込んでエンディングトークを始める。
「ウーミーの生誕祭だったはずなんだけど……主役どこ行ったんだよ……」
そもそも途中から七変化してたのがウーミーだったのかも怪しいし。
「マジで周りにいるスタッフさんたちもノーリアクションなんだけど。これ、ホントに誰も帰ってこない流れ?……本部のレイからもアナウンスなし、と。……うーん、じゃあ適当に総括でもしとくか……」
“困ってる困ってるw”
“なにげにカエデ1人トークは初めてかもな”
“普通マネージャーがトークすることはないからそりゃそうだろw”
“総括とかつまらないから、なんか裏話してくれ”
“最近都ちゃんと詩ちゃんどうしてるの?”
“そういえば2人の霊圧が”
“まさかやめちゃった?”
「ん、都とウタは元気だよ。まあたしかに、2人とも現場に出てこれる回数は減ってるかもね。ちょっといろいろね、別件とかで忙しいからさ。でも元気だから安心してよ。都は忙しさでちょっとやつれてダイエットに成功しているし、ウタは……相変わらず吸血鬼だよ」
“相変わらず吸血鬼ってw”
“平和だなー”
“ぜんぜん平和ではないけどな”
“まだ爆弾テロ事件の犯人捕まってないし”
“はやくライブ現地で見たい”
“それなー”
“今年中にいけるのかな”
“警察次第か”
“はよ捕まれ”
“おれはミャコ推し”
「爆弾テロなあ。早く解決すると良いよね。なんか他人事みたいに言ってるけど、ボクたちにできることはそう多くなくてさ……ごめんよ。≪初夏≫のみんなもさ、ファンのみんなの前でライブしたがってるから、それはホントだからさ。気持ちは1つ。だからみんなで耐えようぜ」
“なんかこういうのいいな”
“プレスリリースのコメントではなくて、生の声で聴けるのはうれしい”
“気持ちは1つ”
“なんだ、感動させようってのか?その手には乗らねーぞ。ぐすん”
“いやマジでジーンときた”
“カエデ、そういうのやめろよ。好きになったらどうしてくれるんだ”
“もうなってる定期w”
“なんだかんだで、なw”
“おう、みんなで力を合わせて応援していくさ”
“おれはミャコ推し”
「はいはい。みんなありがとな。≪初夏≫を推してくれるみんなのことが好きだよ。ミャコ推しの人は……伝わるといいね。一応都にあとで言っておいてあげるよ」
“オレはレイ推し”
“俺はカエデ一筋だから!”
“やっぱシオセンセ!”
“カエデ~愛してるぞ~”
“なんだかんだ言っても詩ちゃんが一番かわいい”
“おまえらマネージャー好きだなw”
“カエデちゃんあいあいあいあい愛してるわよ!”
“ハルルが出た”
“ハルル降臨”
“ま~たコメント欄にハルルが出たって?”
“除春剤撒いておきますね”
「はいはい。みんなここだけ見ておくようにいっておくわ。でも期待するなよ? マネージャー好きなら、その担当アイドルを推すんだ! それが一番喜ぶからな? つまりここにいる全員メイメイを推せ! 今日の配信は以上! みんな今日も配信を最後まで見てくれてありがとね。次は……たぶん定期公演#6で会いましょう。それまでになんか割り込みで配信があったらそこで。それでは≪The Beginning of Summer≫でしたー!」
配信終了、と。
スイッチングも自分でやるのか。
何この手作り感満載の配信……。
ホントみんなどこ行ったのさ⁉
この疎外感……。悲しいです……。




