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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第41話 ボクの夢、サクラの夢

 あっという間の30分だった。

 どっと疲れが……。


「みんな、お疲れ様! 一度控室に戻って休憩しましょう。詩、栞、零、飲み物や荷物フォローしてあげて」


 都がすぐにスタジオに入ってきて、テキパキと片づけの指示をしてくれる。


「ありがとう、ミャコさん。私たち、どうだったかな?」


 ハルルが遠慮がちに尋ねる。

 それに対して都は「ナイスファイト」とサムズアップ(ウィンク付き)で答えた。

 

 うん、何とか形にはなった。

 たくさんの人にも見てもらえたしコメントもしてくれた。

 個人的にはぜんぜんしゃべれなかったけれど、みんながフォローしてくれた。

 あとは結果を待つだけ、か……。



 控室に戻り、どっかりとイスに座り込む。

 みんなも同じだった。1次審査よりも疲労しているように感じるのは精神的なものだろうか。これが人に見られる、ということなのかな。


「な~、うちのこと、ハイパーメディアクリエーターって紹介してるのなんなん?」


 シオがハルルを捕まえて、苦笑交じりにクレームをつけている。

 裏方の装置的な仕事はシオがすべてやっているようなものだからなあ。

 あとマンガね。


「あれは……つい。シオリさんのことを思い出しながら話していたら、浮かんできたのがハイパーメディアクリエーターかなって……」


 ハルルが思い出しながら、何度も深くうなずく。

 ねえハルル、それフォローになってないよ。


「あ、それ言ったら、私のことポンコツって!」


 今度は都がナギチを責め立てる。


「でもそれは事実やんか!」


 はい、事実ですね。


「たまには抜けることもあるかもだけど……でもがんばってるもん……」


 都が落ち込んだ様子で横を向き、紙コップのお茶をあおった。

 ああ、潤います、ありがとう。


「ねえ、思ったんだけど。あなたたち私たちマネージャーのことばかり話していて、自己紹介ぜんぜんしてなくない?」


「「「「あ」」」」


 ウタの冷静なツッコミに、4人が固まった。

 ボクは高みの見物。まあ、イエロー代理としての自己紹介は、ある程度したからね?


「わたしのことだけ……誰も紹介してくれなかったです……ぐすん」


 レイが涙目……わりともう涙溢れそうなくらい……あ、こぼれた。

 うわー、わざとじゃないんだ。流れ上……なんかごめん。


「れれれレイさん……じじ時間がなくて! 深い意味はないのよ⁉」


「レイちゃんごめんね……」


「サクラたち、零さんのこと仲間外れにしようとかそういうつもりはまったくなくて……」


「せやで。ちょ~っと尺がたりなくてな……すまん!」

 

 みんな一斉に釈明をはじめる。

 ああ、あと3分あったらなあ。

 やさしくて、包容力があって、ふかふかでもちもちで、物静かだけどいつも気にかけてくれて、目が光るとちょっとセクシーで、耳かきが最高で……3分じゃ語り切れないからやっぱり無理だわ。


「零、みんなも悪気があったわけじゃないと思うのよ……ん? 零、大丈夫? あなた顔真っ赤よ?」


 都がレイのおでこに手を当てて熱を測っていた。

 真っ赤な顔のレイがボクのほうをにらんでくる。

 まーた人の心を覗くんだから。レイのエッチ!

 


「ところでオーディションの結果はいつでるんや?」


「えっと、配信のラストが17時30分の回だから、18時にすべての2次審査が終わって、その後集計ね。おそらく19時までには結果が出るんじゃないかしら」


 ウタがオーディション終盤のスケジュール感を教えてくれた。

 あと1時間くらいで運命が決まるのか……。


「2次審査の後、けっこうすぐに結果って出るんですね?」


「はい、そのように書かれています。1次審査は各会場の審査員による採点を集めて審査会が行われますが、2次審査はギフトの合計ポイントを機械的に集計するだけなので、結果はすぐに出ます」


 レイが仕事モードに切り替わって説明を……まだ顔が赤かった。

 

「1次と2次の総合でオーディション通過者が発表されるから、おそらく19時くらいには出ているでしょうね」


「何不安そうな顔しとるん? 大丈夫やで、ちゃんと祝賀会の準備は済んでるで!」


 ドヤ顔でシオが抱えていた横断幕をテーブルの上に広げた。



『残念! また次があるさ! 六花の明日はどっちだ⁉』



「しもうた、こっちやない!」


 慌ててテーブルの下からもう1つの横断幕を取り出して広げる。



『オーディション合格おめでとう! 祝!六花デビュー!』



 時すでに遅し。

 六花のみんなが白けた目でシオを見ていた。

 うん。やっちゃったね……。


「じょ、ジョークやんか! みんな目が怖いで……」


「栞……それはダメだと思うの」


「ダメね」


「ダメだと思います」


 マネージャー陣からも総ツッコミ。


「大変申し訳ございませんでした……今後このようなことはなきよう……」


 シオが大げさに三つ指ついて土下座をしだした。


「みんな、お疲れ様! 打ち上げの準備は進んでいるかしら? お菓子持ってきたわよ」


 花さんがお菓子いっぱいのリアカーを引いて控室に入ってきていた。

 行商の方ですか……。


「お菓子ありがとうございます~。打ち上げの準備は~シオちゃんが全部やることになりました~」


 メイメイが笑顔でサラッと言いのける。もしかして、めっちゃ怒ってる?


「は、はい……」


 土下座したままのシオがちょっとかわいそうになってくる……。

 ボクは手伝うからね、と心の中でフォローしてみる。


「はいはい、マネージャー陣はキビキビ動く! 結果が出る前に打ち上げの準備を終えるのよ!」


 微妙な空気を察してか、花さんが手を叩きながら指示を出した。


「「「「承知いたしました!」」」」


 マネージャー4人が一斉に動き出す。あ、やばい、ボクだけ座ってるわけにはいかない。

 テーブルセッティングも、飾りつけもそれぞれみんな手をかけ始めていた。

 うーん、それじゃあボクは売店でシャンメリーでも買ってこようかな。絶対合格するし、お祝いだから!


「あ、コーチ。買い出しですか? サクラも一緒に行きます」


「うん、売店まで行こうかと。じゃあ一緒に」


 サクにゃんと連れ立って控室を後にした。


 しばらく無言で廊下を歩く。

 ちらりと顔を見ると、サクにゃんは無表情でまっすぐ前だけを見つめていた。何か話があるんだろうな、とは思うけれど、何方面の話だろうか。


 そうこうしているうちにエレベーターホールについてしまう。


「えーと、売店は2階だからー、下ボタンをポチっと」


 意味もなく、独り言を言う危ないやつになってしまった。

 話しかけるきっかけ作りってどうやるの⁉


「なんです、それ?」


 サクにゃんが苦笑していた。

 

「おほんっ。今日でとうとう……これまでの結果が出るね」


「はい、そうですね……」


 サクにゃんが伏し目がちになる。


「合否が出るの不安?」


「不安がないと言ったらウソになりますね」


「まあそうだよね。手ごたえはあったけど、客観的なものじゃないし」


「きっと他のグループの方も、私たちと同じようにがんばったんですよね。でも合格するのは1組だけなんだな~って。あ~あ~」


 サクにゃんは手を組んで大きく背伸びをしてから、エレベーターに乗り込んだ。

 

 努力した、死ぬ気でやった、他の人よりもたくさん時間をかけて準備した。

 そんなことは自分たちが勝手にやった努力で、結果には何一つ加味されない。一発勝負のオーディションの恐ろしさ。肌で感じてみて、本当に恐ろしい世界なのだと改めて思う。


「サクラたちが合格できなくても、サクラたちより優れたグループが合格してデビューするってだけで、世界の誰も困らないんですよね~」


「それはそうなんだろうけど、ボクは≪六花≫に合格してデビューしてほしいなって思ってる」


「デビューしてほしい、か……。コーチは代理とはいえ、オーディションに参加されましたね。もし、灯さんがこのまま帰ってこなかったら、どうされるんですか?」


「どう……」


 ボクはその問いに即答できなかった。


 このままアカリさんが帰ってこなかったら……。

 ≪六花≫は4人になってしまう。4人が悪いわけではないとは思うけれど、フォーメーションや歌割を組みなおす必要があるし、偶数だとセンターがいなくなる。


 違う。そういうことじゃない。


≪六花≫はメイメイ、サクにゃん、ハルル、ナギチ、そしてアカリさんの5人で≪六花≫なんだ。ボクの知っている≪初夏≫とは違うし、アカリさんいなくなったとしたら、それもまた違うグループになるんだと思う。


 だったらなぜボクは代理で5人目を務めたんだ?

 頼まれたから?

 アカリさんのダンスなら模倣できるから?


 違う。


 残したかったんだ。

 生きている証を。

 いなくなってほしくない。

 彼女たちがここで必死にあがいていることを誰かに知ってほしかった。


「ボクは……≪六花≫のみんながここにいるぞ、って世界に知ってほしかった」

 

「コーチの夢は叶いましたか?」


 夢。

 たしかに≪六花≫の存在は世界に発信した。

 

 だけど――。


「まだ叶ってない」


「コーチの夢は何ですか?」


「≪六花≫……メイメイが満員の武道館に立って、パフォーマンスをしているところが見たい。その先もずっとメイメイがいなくならずに笑顔でいられる世界を作りたい」


「コーチにも素敵な夢があるように、サクラにも素敵な夢があります」


 サクにゃんが胸の前で手を組み、祈るように目をつぶった。


「サクラの夢は、世界中の体の不自由な人を救うことです。車いすの人、杖をついて歩く人、事故や障害、病気で手や足が動かなかったりなかったりする人、すべての人を不自由から解放すること。サクラと一緒に歌って踊れる世界を作りたいんです」


「それが今研究していること?」


「そうですね。研究の先の先の目標……というよりも叶えたい夢なのだと思います」


「どうしてアイドル活動をしているのか聞いても良い?」


「サクラはただの医療器機を作りたいわけではないんです。『あの人は手足に補助器具を着けている、手足が不自由でかわいそうな人だな』ってそう思われるようなものではなくて、当たり前のように使える、みんなが楽しく使えるようなものを作りたい」


 それがアイドルとどうつながるのか。


「イメージ戦略です。人のイメージは人によって左右されるものです。本当は黒でも白と信じられるし、逆もまたそう。世の中に楽しさを広めるには、世界で一番キラキラした存在が楽しそうに使っていることが大事だって思うんですよ」


 そうか。なんて素敵な未来なんだろう。

 サクにゃんはボクよりもずっと先の未来をみていたんだな。

 

「サクにゃんはすごい。ボクよりもずっと大人だ」


「コーチ、それは違いますよ」


「ボクは目の前のことばっかりだよ……」


「人を救いたいという気持ちはサクラと一緒ですよ。人の夢は誰かが立派だとかそうじゃないとか、評価するべきものではないと思います。自分の夢なんだから、自分が1番で良いじゃないですか」


 自分の夢は自分のもの、か。

 なんだか救われた気がする……。


「コーチは早月さんを笑顔にし続けたい。サクラは体の不自由な人を笑顔にし続けたい。そのためにトップアイドルになって、武道館でキラッキラのパフォーマンスをしたい! ほら、夢は一緒ですよ!」


「同じ夢だね……うん、うん、がんばれそうな気がする。サクにゃん、ありがとう」


「コーチの夢にもサクラの夢にも≪六花≫が必要なんです! だから、これからもお願いしますね!」


 夢のために≪六花≫が必要。

 1人ではできないことでも、みんながいればできる。


 アカリさんが帰ってこなかったとしても≪六花≫が必要……。 


「あ、もしかして、そろそろ結果出る時間ですか? 急いで戻らないといけませんね」


 時計を確認するサクにゃん。

 ボクたちは慌ててシャンメリーを購入して控室へ急ぐ。


 その時、ボクとサクにゃんの端末が同時に音を立ててメッセージ着信を告げた。

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