第4話 糸川海生誕祭2024&1st Anniversary その1~笑ったら即卒業⁉~七変化スペシャル
「みなさんこんにちは~!≪The Beginning of Summer≫です!」
ハルルの美声から始まる生配信!
今日も元気にやっていきましょうね。
全員席に着いて、カメラに向かって笑顔で手を振る。
配信の時には固定化された席順だ。
前列に左からハルルとサクにゃん。後列にナギチ、ウーミー、メイメイだ。
「そして~!」
「「「「糸川海生誕祭2024」」」」
4人がきれいに声を合わせてタイトルコール。
マネージャー陣によるクラッカー発砲&ハッピーバースデーのBGMをON!
ウーミーっぽい雰囲気を出すために、今日はピアノソロバージョンだよ。
「ありがとうございますですわ~」
ウーミーが立ち上がり、カメラの前に進み出て頭を下げる。
「みっちゃんおめでとう!」
サクにゃんがウーミーの足元に跪き、花束を贈呈する。
「素敵ですわ~。全員のメンカラーが入った花束ですのね!」
ウーミーはカメラに背を向け、メンバーの顔を1人ずつ確認し、頷いていく。なんかちょっと感動的……でも卒業するみたいな……。
“ウーミーおめでとう!”
“おとなですわ~”
“もうソロでもやっていけるね”
“まさか卒業⁉”
“マジ?”
“それはやだよ”
“さっちゃんを残してやめないで~”
“#海桜解散⁉”
“オープニングから大波乱!”
やばい。コメント欄もなんかボクと同じ雰囲気を感じ取っていたらしい。否定しないと! カンペカンペ……あれ? カンペボードはどこだ?
『≪The Beginning of Summer≫1st Anniversary☆笑ったら即卒業⁉~糸川海生誕祭~七変化スペシャル』
レイさん、なんです、それ?
今日はウーミーの生誕祭ですよね? まったりとウーミーのピアノソロを聞いたりケーキを食べたり……? あ、そうか。≪初夏≫のデビューからもう1周年なんだ! すごい、気づかなかった!
「わたしも気づきませんでした」
えーと、じゃあこのカンペはいったい?
(師匠から追加の指示です)
まあそれはそうでしょうけどね……。
普通アイドルグループのアニバーサリーって、もっと盛大にイベントをやるものじゃない? なんならそれだけで大きなライブをしたりするものだよね?
「そっか、私たちアイドルとして1歳になったのね!」
カンペを確認したハルルが小さく呟く。
「やりました~! みんな~、Anniversaryですよ~」
「みっちゃんの生誕祭にサクラたちのアニバーサリーなんですね!」
「アニバーサリー、アニバーサリー、サクセスストーリー☆」
“おめでとう!”
“ダブルおめ!”
“さらっと言ったな?”
“アニバーサリー”
“あれ?アニバーサリーライブは?”
“なななな~なななな~”
“ウーミーの生誕祭にくっつける強引さw”
“忙しいのはわかるけどさw”
“記念日はちゃんと祝おうぜ?”
“とりまギフト投げるかw”
“へいへい!”
“おめでとギフト乱舞!”
そうね、忙しいのはわかるけど、ちゃんと祝いたい。
ボクもそう思います。
ファンからしたらさ、なんかこう、言い方悪いけど貢ぎポイントなんだよね。記念日だからプレゼントとか送りたいじゃん? ああ、でも配信ならギフト投げられるからまあいいのかな。なんかデジタルだとちょっと味気ない気もするけどさ。
「みんなお祝いありがとう! すっごくうれしいわ!」
「事務所にもプレゼントお願いします~」
「あ、サッちゃんだけずるい! 私にもギャラクシーな宇宙船をプレゼントしてくれる人募集☆」
宇宙船って、どんな富豪だよ……。
でも、石油王とかがこの配信見ていて、ホントに宇宙船が贈られてきたらどうするつもり? 飛ぶ? 中継しちゃう?
「はいはい。主役のウミを立たせたまま盛り上がらないの。えっと、今日のテーマは……≪The Beginning of Summer≫1st Anniversary☆笑ったら即卒業⁉~糸川海生誕祭~七変化スペシャル~……らしいわよ?」
ハルルがカンペを正確に読み上げる。
「えっと、ウミ。これ説明お願いできる?」
ハルルもこの企画は初見の様子。
それでよく噛まずにタイトルコールしたな……。成長したのね。
「ええ。わたくしから説明いたしますわ!」
ウーミーがカメラ脇に置いてあった大きなボードを取り出す。
「みなさま、こちらをご覧くださいですわ~」
カメラが邪魔でここからだとボードがよく見えないな。
「え~、先輩がコスプレして私たちを笑わせるんですか~?」
ボードを覗き込んだメイメイが驚きの声を上げる。
とりあえず座って?
「みっちゃんがお笑いを……?」
怪訝そうな様子でサクにゃんがボードを凝視している。
「わたくしには、零さんという強力なアドバイザーがついていますのよ」
見つめ合う2人。
いや、レイのほうはカメラに映ってないからね。
それに2人の世界に入ると……ほらあ、眉間にしわを寄せてネコミミグルグル回しちゃってる人がいるでしょ!
「お笑いならギャラクシーな私に聞いてくれてもいいよ☆」
すかさず入ってくるナギチ。
さては最近、ナギチの中でまたお笑いブームきてるね? この間の1人コントで味を占めたか。
“七変化ねw”
“あの大御所の番組を堂々とパクっていくw”
“まあ1000円を寄付じゃないし?w”
“でも笑ったら卒業って罰が重いぞw”
“何人卒業するかな”
“最後に残ったのがウーミー1人だったらウケる”
“1人残して全員卒業って、昔どっかのビジュアル系にいたな”
“レイちゃんのコスプレ力半端ないことはわかってるしなー”
“7回も耐えるの?無理じゃね?”
ウーミーがコスプレかあ。
エッチなのもあるかな?
(かえでくん、めっ!)
みんな口に出さないけど絶対期待しているのに……。ボクだけ心を読まれて怒られるの理不尽すぎないですかね?
(エッチなのはいけないと思います)
違うの。そうじゃないの! ウーミーのことをそういう目で見てるわけじゃなくて、芸術的な美しさのことなの! いやらしくないエッチさを見たいだけなの!
(エッチなのはいけないと思います)
うぅ……わかってもらえない……。
かなしい。
「ではわたくしは一度中座してコスプレの準備をしてきますわ~。みなさましばしご歓談くださいですわ~」
ウーミーはメンバー、そしてカメラに向かって笑顔で手を振ると、控室のほうに消えていく。レイも後を追うようについていく。
「カエデちゃん、カエデちゃん! なにしてるの?」
「えっ、何って? ここでアシスタント的な? いつも通りだけど?」
ハルルさんや、配信中に堂々とこっちに話しかけないでくれる? 一応裏方なんだからね。
「そんなところにいないで早くこっち来て準備して!」
「ん、何? なんか機材でも不足してた?」
ボクもこのコーナーのことがよくわかってなくて……レイがウーミーについて行っちゃったから、今はこの場にボク1人だけなのよね。
「これ見て!」
ハルルがボードを持ち上げる。
ウーミーが持っていたコーナー説明用のボードだ。それをボクの目の前に突き出してきた。
えーと何々……?
「なんだって⁉ ボクがウーミーの代わりにそこに座って七変化を見るの⁉ マジで言ってるの?」
「だってここに書いてあるもの。ほら早く! ウミが入ってきたらコップの水を口に含むのよ。笑って吐き出したら卒業だからね!」
端的にコーナー説明ありがとう。
でもさ……。
「ボクは何から卒業すればいいの……?」
マネージャーに卒業とかはないのよね。
いや、≪初夏≫のみんなにも卒業されたら困りますけど!
「カエくんは、レイちゃんに甘やかされるのを卒業したらいいと思う~」
「それ、ナイスアイディアです!」
「サッちゃんギャラクシー冴えてるぅ☆」
「……決まりね」
「えー」
それは困るよ。
生きていかれないよ……。
「お待たせいたしましたわ~。第1回戦、始めますわ~」
ウーミーの声がする。
コスプレを終えて戻ってきたようだ。
がんばって生き残らないと……。




