第2話 自由記入欄からファンの意見を拾い上げよう
シオがひっくり返したホワイトボードの裏に書かれていた文字。
『自由記入欄からもファンの意見を拾い上げよう』
なるほどね。
少数意見も大切にしよう。確かに大事なことだね。
「え~、もう『ナギサのギャラクシードーム』で決まりよ~☆」
ナギチが抗議の声を上げる。
今のところ最有力候補ではあるんだから、一旦おとなしく待ってなさい。
「ここから逆転で『春と楓の愛の巣』に⁉」
「『転生したらスイパラの住人になっていた件』にしましょうよ~」
いや、その案として初めて聞いたよ。
メイメイはスイパラに住みたいの? まあ、そうか。あそこに住んだら一生スイーツ食べ放題になるのかな。でもそれだとスイーツを求めて彷徨う地縛霊みたいだけど……。
「え~まずはこっちに注目してな。うちのほうであらかじめ自由記入欄に書かれた有力な案を抜き出しておいたから、みんなで見ていこか。新しく調教したAIチャットサービスに相談したから確かなスクリーニングやで」
ほう。新しいAIチャットサービスか。
ボクだって気になることを話しかけてくれれば、なんとなく良さそうな答えを返せるよ!
『カエデチャットサービス』を始めようかな。話しかけてきた相手によって、露骨に態度を変えることもできる優れものだよ。
なんてことを妄想していると、ホワイトボードにスライドが投影される。
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ドーム名 自由記入欄(抜粋)
1. 初夏ドーム
2. 近未来型ドーム
3. ナギサのギャラクシードーム
4. Wスターマーク
5. テロには屈しないドーム
6. ≪The Beginning of Summer≫
7. ぼくらのドーム
8. みんなのドーム
9. 山奥に佇む洋館の地下には新しいドームがあった。
10. ハルサクメイナギウミドーム
11. ドームの名前だけでも覚えて帰ってくださいねドーム
12. 一生アイドルドーム
13. 初夏専用ドーム
14. The常夏
15. 初夏・青春ドーム
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「どうや? ファンの少数意見も捨てたもんやないやんな?」
シオがホワイトボードを指さしながら自慢げに言う。
「やった~!『ナギサのギャラクシードーム』が入ってる☆」
そうだね、良かったね。
きっとファンの人たちも『ナギサの』って入れろよって意味でわざわざ応募してくれたんだろうね。なんかステキな話だけど、やっぱり個人の名前を入れるのは違和感あるなあ。
「パッと見た限りでは、どれも微妙ですね! サクラの出した案のほうが良いと思います!」
サクにゃん、なかなか辛辣ね……。
まあ、少数意見ってそういうところがあるからさ……。
「私は『ハルサクメイナギウミドーム』が気になったわ。5人のドームだって伝わってきて、けっこう好きかも」
と、ハルル。
「え~、『メイメイメイメイドーム』のほうがいいですよ~」
「サツキ、さすがにそれは意味がわからないわよ……」
それは将来メイメイがソロドームを持った時にその名前をつけようね。
ボクがいつか一緒に建ててあげるよ。
ん?
ウーミーが立ち上がってプルプル震えている。
どうしたの? トイレかな?
「わたくしは……一生アイドルしますわ! おばあちゃんになっても、ずっとアイドルしますわ!」
ウーミー、ホントどうした?
急に一生アイドル宣言なんてして。今はカメラ回ってないよ?
「これしかありませんわ。わたくしは卒業なんてしたくありませんの。何歳になってもずっとずっとアイドルでいたい。この5人で……」
まっすぐで熱い想いだった。
茶化してごめんよ。ウーミーはいつだって本気だよね。
一生アイドル。
すごくステキな話だと思う。
ボクもそうだったらいいなって心底思うよ。
みんな変わらずずっと一緒に。
この5人で、そして10人で。
さらにファンのみんなもずっと一緒に。
「ウミ! 大好きよー!」
ハルルが泣きながらウーミーに抱きつく。
どうやらウーミーの話を聞いて、感極まってしまったらしい。さすがいつも熱いリーダーだよ。
「私も一生アイドルしたい☆」
遅れてナギチも抱きついていく。
小さい頃から強くあったアイドルへの憧れを実現したナギチは、ある意味今が絶頂なのだろうね。それはウーミーも同じなのかもしれない。2人はここが居場所であり、ここ以外に居場所は考えられないのだと思う。
その様子を見て、呆気に取られているのはサクにゃんだ。
サクにゃんは医療の発展のため、体の不自由な人が笑って暮らせる社会を作るという目的のために自身を広告塔として考えている。その手段としてアイドルをしているのだから、一生アイドルをするという考えはそもそもないだろうね。薄情とかそういうことではなく、研究のためにアイドルがあり、今はそういうフェーズだからアイドル活動をしているというだけなのだと思う。
最後にメイメイだ。
無感情に4人を見ている。
メイメイは今何を考えてポッキーをカリカリと食べ続けているんだろう。
アイドルに対する強い想いがあるのはメイメイも同じはず。どちらかといえばウーミーたちに共感を覚えているのではないのかな?
アイドルになれば、お母さんと同じアイドルになれば、もしかしたらいなくなってしまったお母さんが会いに来てくれるかもしれない。
そこから始まったアイドルへの道。
大きくなるにつれて、もうお母さんはこの世にいないのだということを薄々理解し始めて……それでももしかしたら、と。
お母さんのようになりたい。
お母さんのようなアイドルになったとしたらもしかしたら、と。
けれど、今回の爆弾テロ騒動で、麻里さんの口からはっきりと『秋月美月は娘・早月の出産時に亡くなっている』と伝えられてしまったわけで。
もしかしたら、もはやメイメイがアイドルを続ける意味はないのかもしれないね。
実際のところ、メイメイはどう考えているのだろう。怖くてその答えは聞けないけれど……。
メイメイが突然口を開いた。
「私~考えていたんですけど~、『ハルサクメイナギウミ一生アイドルしますドーム』が良いと思います~」




