第30話 定期公演#5 その9~ハルvsサツキ☆最終対決☆リアルダーツで勝敗を決めろ!
「ちょっとレイさん⁉ 逆野球拳対決はハルルとメイメイの一騎打ちのはずでは⁉」
最終対決だけしれっとボクが参加することになっているっていうのは、さすがに冗談ですよね?
『集計結果が出ました。ダーツボードに反映します』
無視ですか……。
「みんな、頼むわよ!」
「ドームくんは着たくないです~」
ハルルとメイメイが、拝むようにダーツボードを見つめる。いや、ボクもあんなダサい着ぐるみは着たくないですよ⁉
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投票結果
新垣春 :22%
夏目早月:21%
七瀬楓 :57%
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「なんでやねんっ!」
どう考えてもそんな差はなかったでしょ!
「わ~いわ~い! カエくん優勝です~」
「カエデちゃん、おめでとう! 良かったわね!」
笑顔で握手を求めてくる2人。
「2人は何サラッと受けて入れてるのさ! こんなの絶対おかしいでしょ。コメント欄でボクの名前なんてほとんど出てなかったし!」
『会場の結果はかえでくんが優勢でした』
「おまえらー! 裏切ったなーーーーーー!」
ボクの絶叫に合わせるかのように、会場全体が黄色いペンライトで埋め尽くされる。
「愛されるわね♡」
「うっさいわ! おまえら何かキライじゃー!」
もう弟とも妹とも思わないわ! 絶交絶交! 今から他人ですぅ!
『配信コメントのほうも、最後の数秒でかえでくんが一気に票を伸ばしたようですね』
「それ不正なんじゃ……」
絶対レイさんが組織票入れたとかですよね……。
『不正は確認されませんでした』
「第三者機関を入れて調査させてー!」
“カエデ必死だなw”
“まあ、そういうこともあるじゃろw”
“最初のほうに書き込んだやつもカエデに投票変更したいだろうしなwww”
“不正はなかった!いいね?”
“レイちゃんが言うなら間違いない(キリッ)”
“レーイレーイ!”
“ナイス采配”
“過半数獲得ワロタwww”
“カエデ愛され過ぎw”
“メイメイもこのお約束には大満足のはずw”
“ハルルに着せたかったな……”
“それはさすがにこの後のステージがお笑いになってしまうw”
“伝説の幕開けだー!”
「おいー! みんななんで受け入れてるのさ……。さあ声を上げよう! みんなでこの不正を暴いて正義を貫こうよ!」
「カエデちゃん……」
「なにさ?」
「時間押してるから」
「うっさいわ! 知ってるわ! わかったよ! さっさとダーツ投げてコーナー終わろう!」
どうせボクなんでしょう。
ダーツボードは半分以上黄色いし。
「カエくん、いつまでも駄々をこねてないでくださいよ~。みんなが見ているのでちゃんとしましょうよ~」
「……はい。すみません」
急に真面目なメイメイに戻るのやめてください……。ボクだけが悪いみたいになるじゃないですか……。
『それではダーツを投げる代表者を決定してください』
「えっと、この3人の中からってことだよね? どうやって決めればいいの?」
『話し合いでも、相撲でも、なんでもかまいません』
「相撲はちょっと……。パワー系の人がいるので」
「ちょっと! 私のほうを見て言ったわね! ムキー!」
豪快に四股を踏む雷様。
下に短パンを穿いているからって……。
でもアイドルの相撲は、バラエティー番組で水か粉に落ちる時のために取っておいて……。もう絵的には完全にバラエティー番組のそれですけどね。
「は~い! 一番ダーツボードの割合が大きいカエくんが投げれば恨みっこなしだと思います~」
メイメイの提案。
まあ、普通に考えるとそうなんだけどさ……。
「それだとボクが主役みたいになっちゃうから。2人のどっちかが投げたほうが良いんじゃないかな」
「嫌ですよ~。私が投げたらハルちゃんに決まっちゃいますし、張り手を食らいたくないです~」
メイメイがボクの背中にそっと隠れる。
「張り手なんてしないわよ! 相撲から離れなさいって。……もしかして、サツキはダーツ得意なの?」
「得意ですよ~。目隠ししてでも『スリー イン ザ ブラック』はできますよ~」
「スリー? なにそれ?」
「ダーツの技ですよ~」
ダーツの技ときたか。
なんかすごいんだろうなってことはわかるけど。ダーツに詳しくないボクとハルルにはさっぱり響かない。
「えーと、つまりメイメイは狙ったところに投げられるって意味で合ってる?」
「そうですよ~。だから私が投げるとつまらないです~」
「メイメイさ、ちょっとだけデモンストレーションしてくれない? これは勝負とは関係ない感じで」
そんなに自信があるなら、せっかくだし、メイメイの実力を世界に発信しておきたい!
「は~い、じゃあ投げますよ~」
片足を前に出した立ち姿がもうすでにかっこいい。
すっごいプロっぽい!
ダーツボードが高速で回転を始める。
回転が速すぎて、目視で3色の識別はまったくできない状態だ。もうボクの目からはただの円に見えるよ。
メイメイはそれをとくに気にした様子もなく、軽い感じで次々にダーツを投げていく。
3本とも投げたところでゆっくりとダーツボードが停止し――。
なんと投げられた3本すべてが赤のエリアに収まっていた。しかも、『新垣春』の文字の上に1本ずつ。
「Nice Darts! どうでしたか~」
「す、すごい……。お見逸れしました……。ホントに自由自在なんだ」
「なによそれ……。それこそ不正じゃないの……」
かすれるような声でハルルがつぶやく。
“まだ隠していた才能w”
“メイメイ多才すぎるんよw”
“あんなに速くボードが回ってたのにwww”
“こういうのどこで覚えてくるのwww”
“ハルル悔しいのぉwwwwww”
“しかもこれオリジナルのボードだろ?”
“普通ダーツボードは回転しないからな”
“それでも正確に当てられるのは相当だぞw”
“アイドル止めてもダーツで食っていける”
“メイメイはアイドルをやめへんで~”
“ダーツを理由にやめられても困るわw”
「メイメイがすごいのはわかった。じゃあ、ここはやっぱりハルルが投げるってことで良いかな?」
「今の見せられて、私が本番投げるの……?」
「ハルちゃんがんばって~!」
わなわなと震えるハルル。そして無邪気に笑うメイメイ。
でも仕方ないよね。ほかに選択肢がないというか……。まさかボクも把握していなかったメイメイの特技がここで明らかになってしまったわけだし。
『時間も押していますので、はるさん、さっそく最終対決のダーツをお願いします』
「わかったわよ! もうどうなっても知らないわよ⁉」
破れかぶれになったハルルが、ダーツボードの前に立つ。
「あ、本部のレイさん。一応確認なんだけど、投げたダーツがダーツボードに当たらなかったらどうなるんだっけ? 投げ直し?」
『いいえ。自動的に投げた方に罰ゲームを受けていただきます』
「嫌~! それだと私が圧倒的に不利じゃないの! カエデちゃん代わって!」
ハルルがダーツを持ったまま突進してくる。
ちょっと危ないって! 刺さるから、針のほうをこっちに向けないでよ!
「ハルルは初心者なので、ここは1つ、ダーツボードに当たるまで投げるってことでルール変更してもらえないでしょうか……?」
『そうですね。ルール変更を認めます。最初にダーツボードに当たった時の矢を有効とします』
ふぅ、なんとか助かった。
これでハルルも安心して投げられるでしょ。
「うぅ……。がんばる……」
「よしよし、良い子だ。コーナーのクライマックス、頼むよ」
ハルルが再びダーツボードの前に立つ。真っ赤なアフロヘアーのまま真剣な表情をしているのがシュールすぎる。
すぐにダーツボードが高速回転を始める。
「行きます……」
1投目。ダーツボードを大きく外れてステージ後方へ。
「むずかしいわね……」
2投目。惜しくもダーツボードの下の支柱に刺さる。頭のアフロが邪魔なんじゃないか? とも言えず。
「ハルちゃん。そんなに振りかぶらないで~。肩の力を抜いて、紙飛行機を投げるみたいに軽く投げてみて~」
「紙飛行機……」
3投目。メイメイにアドバイス通り軽く投げたダーツが……当たった! ダーツボードの左下にギリギリ刺さった!
「Nice Out!」
「おお! 当たったね! ハルル、おめでとう!」
「ありが……ああっ!」
ゆっくりとダーツボードの回転が止まる。
ダーツが刺さっていたのは、たった22%しかない赤いエリアだった。
ハルル、罰ゲーム決定。




