第40話 オーディション2次~生配信~
「みなさん、はじめまして、こんにちは! 私たちは~」
せーの。
「「「「「≪六花≫で~す」」」」」
精一杯にこやかに挨拶。顔はイヌやらネコやらのスタンプで加工されているけれど、それでも全力で!
“りんご:はじまったー”
“バナナ:こんにちわ”
“パッションフルーツ:待ってました!”
“なし:みんなかわいい”
“ざくろ:はじめまして~”
“ラズベリー:最初から決めてました”
【現在21人が視聴中】
コメントが一斉に流れはじめる。
滑り出し、わりと多い。
おそらく4チャンネルか、5チャンネル同時配信くらいなのかな。
「え~と、『まずは私たちの1次審査の映像をご覧ください。そのあとフリートークがあるのでぜひ一緒にお話しましょう!』」
ハルルが台本通り決められたセリフを読み上げる。
すぐにVTRがスタートする。
【現在19人が視聴中】
ううーん、減った……。
【現在24人が視聴中】
増えた!
とくに深い理由もなく部屋を移動してまわっているのだろうけれど、配信している側からすると、1人の増減がめちゃくちゃ心臓にくる……。見る側ではわからなかったことだ。VTRに集中できない……。
「カエくん、緊張してますか~?」
メイメイがそっと手を握ってくれた。温かい。
「うん、ちょっとね。視聴者が増えたり減ったりするのが気になってしまって……」
「あ、それサクラも気になっちゃってました……」
「今はどのチャンネルもVTRが流れているから、部屋の移動は気にしないでおきましょ」
ハルルがこぶしをぐっと握って気合を入れている。
そうだ。まだトークは始まってすらいない。覚悟を決めろ、楓。
「そしたらVTR明けにあーしの爆笑一発ギャグで人集めでもするか!」
ナギチの本気とも冗談とも取れない微妙なすべり芸。
「あー、めっちゃおもしろーい。ナギチ―さいこー」
「まだなんもやっとらんわ! どうもありがとうございました~」
やばい。さらっと漫才コンビ組んでる感が出てる……。それだけは断固拒否する!
「ほら、あと30秒でVTR明けるわよ。2人ともちゃんと座って!」
「すみません」と謝りながら二列目左端にナギチ、二列目右端にボクが座る。ちなみに二列目中央はメイメイだ。そして前列左がハルルで、右がサクにゃん。
それぞれメンカラーの名札を付けている。
ハルルがレッド。サクにゃんがピンク。ナギチがライトブルー。メイメイがブルー。そしてボクの名札は「イエロー(代理)」になっている。
「そろそろよ。Are you ready? Call Enchant! We Can! Let's Go!」
よし、落ち着いていこう。
「は~い。1次審査のVTRいかがでしたでしょうか? 改めまして、私たちは~」
「「「「「≪六花≫で~す」」」」」
“パッションフルーツ:ダンスめっちゃかっこいい!!!!!”
“なし:みんなかわいい”
“レーズン:オーラあるね”
“ラズベリー:ギフト贈りました。コメント読んでください”
“デコポン:六花しか勝たん”
“キウイ:こんにちはー”
“りんご:ピンクちゃん好き”
“なつめ:おれもギフト贈った”
【現在28人が視聴中】
VTR明け、人数も上々。
すでにギフトを贈ってくれている人もいる!
もしかして、なかなか良いのでは⁉
「わ~、みなさん、VTR見てくださって、ありがとうございます!」
「ギフトサンキュ~トゥース! ラズベリーさん愛してる~! なつめさん好き好き~!」
ナギチがノリノリで投げキッスしている。
ボクも何か言わなきゃ……。
「りんごさん、サク……じゃなくて、ピンクのこと応援してくれてありがとうございます!」
サクにゃんも緊張気味に固定レス。
「え~、私にもギフトください~」
メイメイ……だから間接的にって言ったじゃん……。
“レーズン:直球でギフトほしがっててワロタ”
“りんご:草”
“ シークワーサー:俺は素直な子好きだな。ブルーちゃんのためにギフト贈っちゃうぞ~”
“ココナッツ:オタクチョロい”
“レーズン:ブルーちゃん大物になる予感。今のうちに推せ!”
“キウイ:青好きのオレに死角はなかった”
【現在31人が視聴中】
メイメイのダイレクトアタックは意外と好評……なのか。ホントにこれでいいの?
“レーズン:ところでイエローちゃんの(代理)ってなに?”
おっと、きっかけがきた。ここからだ。
「あー、どうもー。ボクはイエロー(代理)でーす」
“ シークワーサー:ボクっ娘きたーーーー”
“ココナッツ:ギフト100個贈りますた”
“オレンジ:草生えるwおまえこそチョロやんけwww”
「わ、ギフトたくさん! ああありがとうございましゅ!」
“ココナッツ:嚙んでるかわいいなwよーし、おじさんもっとギフト贈っちゃうぞ~w”
“キウイ:審査なんだからしゃべらせてやれよw”
“りんご:草”
「すみません、ちょっと緊張してて……。イエローは本当は別の子なんですけど、今日どうしても家庭の事情で来れなくて……」
“レーズン:それはざんねん”
“オレンジ:イエローちゃん(本物)も見たかった”
“キウイ:家庭の事情?なんぞ?”
「サク……ピンクたちはイエローの分も一生懸命パフォーマンスしました!」
「イエローが戻ってきて、一緒にまたダンスするところを見てほしいです~」
「イエロー! 見てるか⁉ みんな元気やで~」
“ シークワーサー:ライトブルーわろwさすがに家庭の事情ならこれは見てないだろw”
“りんご:草”
“レーズン:ピンクちゃんとブルーちゃんの良い雰囲気返せwww”
「まあまあまあ、ね? 代理イエローも急きょ昨日の夜に代理で出ることを打診されて大変だったのよ」
“オレンジ:昨日の夜とか、代理ちゃん何者?”
“りんご:そんなすぐいけるもんか?”
“ココナッツ:代理ちゃん研究生かなにかなん?”
“キウイ:ピンチヒッター代理ちゃん推せる”
「あ、えっと、ボクはマネージャーで……」
“ シークワーサー:マネージャーだと……”
“グァバ:WWのマネージャーレベルたけー!”
“キウイ:事務所の株買いました”
“りんご:株買うなwギフト買ってやれw”
“パッションフルーツ:デビュー前のマネージャーってなにするん?”
「そうですね。基本はオーディションの準備で、スケジュール管理やダンスや歌の練習を一緒にしたり」
“オレンジ:一緒に練習してるとあんなに踊れるもん?マジ?”
“りんご:代理ちゃんすごい”
「代理ちゃんは私の自慢のマネージャーさんです~」
メイメイが急に抱きついてくる。いい匂い……じゃなくて! ちょっと、ピンマイクガサガサ言っちゃってるから!
“キウイ:キマシタワー建設はじめますた”
“ シークワーサー:マジでタワー贈ってて草”
【現在46人が視聴中】
タワーは有料ギフトの中で1番高い値段設定のアイテムだ……。マジか。
“りんご:カカロット、お前がナンバーワンだ”
“ココナッツ:負けたぜ……”
“グァバ:いいよ、もっと続けて?”
“キウイ:ブルーちゃんと代理ちゃん尊い”
「あ、代理さんはブルーさん専属マネージャーさんだけど、実はピンクのコーチでもあるんですよ!」
“ココナッツ:代理ちゃんマネージャーでコーチとか何者よ”
“グァバ:チートキャラかよw”
“りんご:ボクっ娘でマネージャーでコーチ盛ってくるね~”
“パッションフルーツ:いいじゃん、もっとちょうだい”
「えっと、ボクは普通のマネージャーなので……みんながデビューして、武道館に立つのが夢で」
「そうなんです。私たちは武道館でパフォーマンスするぞ、って目標を掲げて日々訓練をしてます。みなさん応援してください!」
しどろもどろのボクをハルルがフォローしてくれる。
思いを言葉にするむずかしさ。どうしたら初対面の人たちに伝わるのか。
【現在53人が視聴中】
気づくと、チャンネル入室の音が止まらない状態。人がどんどん集まってきている。
“キウイ:武道館!夢はでっかく”
“りんご:わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい”
“スイカ:チートキャラが出たらしいので隣から見に来ました”
“グァバ:代理ちゃんやるやん”
“アセロラ:今北産業”
“ココナッツ:お前六花初めてか?力抜けよ”
“りんご:古参面草”
「あ、そうだ。先週、マネージャーさんたちと対バン形式で実戦練習をしたんです。その話聞きたいですか?」
サクにゃんぶっこんでくるなあ。うーん、その話おもしろいかな?
“ シークワーサー:マネージャーと対バンってなにそれ、想像できないんだけど”
“グァバ:マネージャーさんたちって、マネージャー何人いるんだよ……”
“りんご:もりあがってまいりました”
“アセロラ:なんかおもしろそうじゃん”
「あーしら≪六花≫が5人。マネージャーたち≪ペンタグラム≫が5人。全員合わせて10人でワンチームや!」
“アセロラ:マネージャー5人⁉”
“ココナッツ:個人マネついてるのかよ!すげえな!”
“パッションフルーツ:WWやるやんけ”
“りんご:マネージャーにもグループ名あって草”
「すごいんですよ~。プロジェクションマッピングで武道館出したり~飴降らせたり~花火上げたり~」
“グァバ:雨?飴?”
“パッションフルーツ:武道館から飴のふり幅よ”
“アセロラ:これ何の話?”
“ココナッツ:対バンだろ?”
“りんご:対バンで花火って何だよ理解が追いつかん……レッド解説よろ”
「はい、こちら解説のレッドです。≪ペンタグラム≫には漫画家兼イラストレーター兼映像デザイナー兼大道具兼ハイパーメディアクリエーターのメンバーがいまして」
“りんご:兼務しすぎワロ”
“アセロラ:ハイパーメディアクリエーター久しぶりに聞いたわw”
“ココナッツ:5人もいるのにマネージャー不足が深刻化してやがる”
“スイカ:代理ちゃんのほかにもチートキャラおるやんけ”
“キウイ:他のマネージャーもやばそうな予感”
「マネージャーさんたちはみんないい人で、いっつも頼っちゃうんですよね~」
「マネージャーのリーダーは、熱血で、まとめ上手で、まじめで、面倒見がよくて、ちょいポンコツで……仮面のライダー好きやんな」
【現在55人が視聴中】
おいー。ライダーの話すんなって言っただろ……。特撮は興味あるなし割れるから!
“アセロラ:リーダーがわりと普通の人で安心……なのか?”
“スイカ:ライダー好きだと”
“ココナッツ:ポンコツ推せる”
“りんご:ここにいないマネージャー推すなw”
「イエローのマネージャーさんは、セクシーでクールなお姉さんって感じなのにかわいくて……あ、一番時間に正確で、舞台進行の時間管理からライトブルーの寝坊管理まで完ぺきにこなしてくれます」
「こら、ピンク! そんな話したら視聴者減るやんけ!」
「減りません~。ライダーの話のほうが減ります~」
“アサイー:ピンクvsライトブルーファイ!”
“ココナッツ:おい、もう配信残り1分切ったぞ!漫才は放っておいてレッド締めろ”
“りんご:時間管理よ!おまえがイエローのマネージャーちゃんだったか”
「あ、もう名残惜しいですがお時間が来ちゃいましたね。視聴してくださるみなさんがコメントで盛り上げてくださるので、私たちもとっても話しやすくて楽しかったです。ありがとうございました!」
ハルルが深々と頭を下げる。
“キウイ:これはこれはご丁寧に”
“パッションフルーツ:レッドちゃんお疲れよ”
“りんご:楽しませてもらった”
「みなさんには! イエローちゃんにも会ってほしいので、私たちはオーディション合格してデビューしたいです~」
「ボクたちにどうか、力をください」
メイメイとボクも頭を下げる。
視聴者数は配信の後半から過半数を維持している。でも、ギフトがどれくらいのものか、他のグループとの差はわからない。でもタワーは建ってる!
「最後にコメントくださった方、ギフト贈ってくださった方のお名前を読み上げて終わりにしましょうね」
みんなで1人ずつ名前を読み上げてお礼を言っていく。
≪六花≫の初めてのファンたち。
配信を見てくれてありがとう。
ギフトを贈ってくれてありがとう。
武道館の目標を笑わないでくれてありがとう。
「以上。≪六花≫でした。ご視聴ありがとうございました!」




