第26話 定期公演#5 その5~ハルvsサツキ☆逆野球拳対決~着膨れするのはどっちだ⁉(1)
今回のMCお当番は、ハルル、メイメイ、そしてボクの3人。
つまり司会進行はいつも通りハルルに任せておけばいいってわけさ。ボクは適当にツッコミを入れていればいいポジションさ。楽ちん楽ちん♪
「それではこれから定期公演恒例のMCコーナー始めていきま~す!」
「わ~い。MCですよ~! Master of Ceremonies!」
「なんでちょっと発音良く英語で言ったの?」
メイメイがなんかかっこつけ始めたぞ⁉
「私、最近英語の勉強を始めたんですよ~。Yeah~」
サムズアップ。
ちょっと海外の人っぽい仕草!
「そういえば休憩時間とか、なんか難しそうなアプリ見てるよね。あれは英語の勉強だったんだ?」
「海外進出を狙ってます~」
再びサムズアップ。
ほかに海外の人っぽい仕草はないの? ない? そんなことはないでしょ。えーと、ほら、なんだろ……。たとえばー……Give me chocolate?
「野心的ね! とっても良いと思うわ! 私も英語の勉強しようかな~」
ハルルも英語トークに乗っかってくる。
勉強熱心なのは良いことだね。
「そうだねー。英語の歌詞の曲とか、歌えるとかっこいいよね」
『そろそろMCコーナーを始めてください』
レイがまるで格闘技のラウンドガールのようにカンペを頭上に掲げて、舞台上を歩いてくる。
「レイさん……無駄話していてすみませんでした。でも、それくらいは直接口で言ってくれても良かったんですよ?」
レイがまたカンペに何かを走り書きして見せてくる。
『わたしはMCのお当番ではないので、マイクを持っていません』
「あ、そっか。それもそうだね。ごめんごめん。じゃあ英語の話はまた今度ってことで、コーナー始めていきますか!」
と、ハルルのほうを見る。コーナー説明よろしく!
「は~い! レイちゃん準備ありがとう! さっそく私のほうから今日のコーナーの説明をしますね。サツキ、ちょっと私の隣に立ってくれる?」
「はい~」
ハルルとメイメイが横並びに立つ。
2人が並ぶと、やっぱり身長差がだいぶあるね。10cmくらいはメイメイのほうが大きい。もしかして、また身長伸びた?
「これからやるのは、『ハルvsサツキ☆逆野球拳対決~着膨れするのはどっちだ⁉』です!」
「わ~、パチパチパチ!」
“逆野球拳!”
“エッチだな~”
“普通の野球拳で脱いでもいいのよ?”
“なんだ着るほうかあ”
“今一番着飾っているのがマネージャーのカエデなのウケるw”
“そういやカエデは参加しないの?”
“カエデは脱げばいいじゃねw”
“どんどん着ていって、結局どうなるんだ?”
「2人がシンプルな体操着姿なのは、上にたくさん重ね着できるようにかな?」
「そうで~す」
上は白い体操着、下は黒いスパッツ。靴下も靴も履いていなくて裸足状態。
頭にはそれぞれ赤と青のメンカラーのハチマキをしている。2人とも、これから運動会にでも出るのかな、という雰囲気だ。
「ここにさっきレイが用意してくれた服がいっぱいだね。靴下や手袋や帽子みたいなワンポイントのアイテムもあれば、セーターやコートなんかのわりと1個着たらもうそれ以上は重ね着できそうにないものまでいろいろある! 準備ありがとね!」
ステージ上には、部位別に服の山がいくつか用意されていた。
「ハルちゃんハルちゃん。逆野球拳ということは、私たちがジャンケンして負けたほうが服を着るんですか~?」
「良い質問ね。勝負を決めるのはジャンケンではないわ!」
なぜかドヤ顔をするハルル。
「え~。野球拳なのにジャンケンしないんですか~?」
「ジャンケンは地味なので、諸事情によりやめました!」
“地味以外の諸事情あるのかw”
“諸事情詳しく”
“地味www”
“せやなw”
“古の時代にはな、ジャンケンだけで特番をしていたアイドルもいてだな”
“おい、その話はやめろ!俺に効く……”
“投票権……CD……うっ頭が”
“おじいちゃん、100年分の夕飯はCD代になったでしょ”
“インターネット老人会www”
「どうやって勝ち負けを決めるんですか~?」
「それはね。これよ!」
ハルルが頭上の巨大モニターを指さす。
「『結果は運次第?~ドキドキルーレット令和最新版~』」
モニターの画面に映し出されたのは――赤青で構成された丸のイラスト。
ちょうど半分が赤、もう半分が青になっている円グラフだ。今は赤側にフォーカスが当たっていて点滅している状態だ。
「じゃあ、ボクのほうからちょっと補足をするね。今映っている円グラフなんだけど、ボクの手元にあるタブレット端末に、「スタート/ストップ」ボタンがついていて操作ができるようになっているんだ。このボタンを2人には交互に操作してもらう。試しに今、ボクのほうで動かしてみるね。スタート!」
タブレット上の「スタート/ストップ」ボタンをタップする。
円グラフの赤側と青側が交互に選択されるように高速で動き出す。
「はい、ストップ」
「スタート/ストップ」ボタンをタップ。
すると、だんだんと赤青のカーソルの移動がゆっくりになっていき――。
「おっと、青のほうに止まったね!」
「青です~。私の勝ちですか~?」
メイメイが小躍りして喜びを表現する。
「いいや? まだわからないよ。ここから次のルーレットに移行するからね」
「次のルーレットですか~?」
端末上の「スタート/ストップ」ボタンが「次へ」のボタンに変わっている。「次へ」ボタンをタップすると、画面が一瞬白くなってから切り替わった。
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【青が】
【≪1~3≫枚】
【≪指定部位≫に(から)】
【着る/脱ぐ】
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画面に表示された4枚のパネル。
穴埋めになっていて文章が完成される形式だ。
最初の【青が】のパネルだけ完成している状態。
「これはどういうことですか~?」
「書いてあるまんまなんだけど、動かしてみたほうがわかりやすいかな。スタート!」
「スタート/ストップ」ボタンをタップと、最初の【青が】以外の3枚のパネルがそれぞれ違う速度でグルグルとドラムのように回りだす。
「ストップ!」
「スタート/ストップ」ボタンをタップ。
ドラムの動きがゆっくりになっていき、
「【1枚】。おっと、最初のパネルは1枚で止まった!」
続いて≪指定部位≫のパネルがゆっくりになり、
「【右手に(から)】で止まった!」
最後のパネルが止まり、
「【着る】で止まった! つまり、【青が】【1枚】【右手に】【着る】という指示が完成したってこと!」
「私が、右手に着る~?」
「そうだよ。服の山のところに部位名の看板が立ってるでしょ。そこが【右手】のコーナーね。好きな手袋を1枚取ってはめてね」
メイメイはしばらく悩んだ末、薄いゴム手袋を右手にはめて戻ってくる。
「これでいいですか~?」
「はい、合格! ボクがレフリーだから、ちゃんとパネルの指示通りに身に着けられたかを判定します。ちゃんと見に着けられなかったらその時点で失格になるから、着替えはていねいにしようね」
「カエデちゃん、きっとこれを見ているみんなが気にしていると思うから一応聞いておくけど、【着る/脱ぐ】ってなってるから、【脱ぐ】ことあるのよね?」
台本通りハルルが【脱ぐ】に言及する。
「良い指摘だね。一応救済措置として、5回目のルーレットからは、10%の確率で【脱ぐ】が出ることもあるとお伝えしておきます」
「なんで5回目のルーレットから何ですか~?」
「それはね、もし、最初の1回目で【着ていない部位】または【脱げない部位】に当たったらどうなると思う?」
「え~と~、皮を剥ぐ?」
「急にスプラッター! 期待していた答えと違うけど、脱げなくなってもゲームオーバーだから、いきなり終わっちゃったらつまらないでしょってことー」
「そっか~」
“つまり5回目以降は……ごくり”
“本当の野球拳の始まり?”
“さすがに制御してるんでしょう(頼む)”
“生配信でストリッ……”
“ここから先は有料配信ですか?”
“アイドルやぞw”
“でもメイメイは気軽に皮を剥ごうとするしなw”
“勝つためには脱ぐし皮も剥ぐ!”
“プロ根性!”
“方向性間違ってないか?”
“なお、どうしても脱げない場合はカエデが脱いでも良いものとする”
「いや……ボクはレフリーだから脱がないよ?」
「どうしてもの場合だけお願い!」
「お願いします~」
拝むように見てくる2人。
何この流れ⁉
『こちら本部。特別ルールの適用を認めます。2人がどうしても脱げない場合は、かえでくんが代わりに脱ぎます』
「ちょっとレイ! 越権行為だぞ!」
勝手に本部を名乗ったりして!
まさかと思うけど、ルーレットの確率をいじったりはダメですよ⁉




