第20話 ファイナルデストロイヤーによるアルティメットアタックを敢行します
「メイメイ、起きて! もうドームに到着してるよ!」
レンタカーの後部座席で眠りこけるメイメイ……のような塊を揺さぶる。
ぜんぜん起きないな……。
いや、その前に寝袋持参で車に乗るのはどうなのよ?
メイメイは、全身すっぽり収まる寝袋に身を包んで熟睡中。完全ミノムシスタイルだ。まるで観光地にある写真パネルのように、すやすやと寝息を立てる顔部分だけが丸く露出している。
「おーい。いい加減起きなさい! 急がないと準備しておいたケーキは全部食べちゃうからね」
「ケーキ⁉ どこですか~⁉」
うわっ、ミノムシが起きた!
エンジンが0から100へ。ミノムシから生えたメイメイの顔から目玉が飛び出しそうなほどの勢いで見開かれている。……ちょっと怖いですよ。
「ケーキは、朝レストランでテイクアウトしておいたんだよ。みんなに食べてもらおうと思ってね。控室の冷蔵庫に入れてあるから早く行こう?」
さあ、そのミノムシを脱いで、美しい蝶に変身するんだ!
いや、ミノムシのままでもかわいいからいいんだけどさ……。このミノムシ写真はSNSに上げたいな。これは絶対バズる!
パシャリ。
「ケーキ食べたいです~」
こらー! ミノムシのまま行こうとするんじゃない!
手も足もないのにどうやって車から降りた⁉ 器用すぎるでしょ。
* * *
「じゃあミノムシは無事送り届けたので、ボクはちょっとだけ仮眠を取ってきますね。サクにゃんペンダントありがとう。大事に借りていくね」
アフリカではなんちゃらのペンダントがあれば、きっとすっきりとした状態で定期公演#5を迎えられるはずだよね♪
実は昨晩、花さんに蹴られ過ぎてね……ちょっとお腹やお尻にあざができてるんだよね……。全身がけっこう痛いの……。やっぱりアフリカペンダントを使うよりも、≪REJU_s≫を飲んで体をリセットするべきかな……。いや、でもなー、定期公演開始まであと5時間だよね。2時間も10歳になって不在にするのはちょっとまずいかな。薬の効果時間、けっこう長いよね……。やっぱりやめとこう。体の痛みはそのうち治まるよね、きっと。
とりあえず、アフリカのペンダントをつけてからおやすみなさい。1分間で60時間……むにゃむにゃ。
「……えでくん、かえでくん、かえでくん、起きてください。敵襲です」
「……むにゃむにゃ」
レイに体を揺さぶられて、無理やり意識を覚醒させられる。
今寝たばかり……なんて言っていられない!
敵襲だって⁉
「かえでくん! 昨日の訓練通りにいきます。緊急マニュアルを参照しましょう」
レイの声がいつになく緊張している。敵襲……緊急マニュアル⁉ 結局なんか訓練したんだっけ?
「緊急マニュアル! まさかミサイル撃つ気⁉」
さすがにそれは!
「まずは専守防衛です。敵の侵入を防ぐために地雷を巻きます」
「地雷……。それもけっこうヤバいじゃん。ちなみに敵はどういう侵攻を⁉」
まず状況を詳しく知りたいんだけど!
「地上部隊は約1万。飛行部隊は約5000。それぞれ最新鋭の装備でこちらに向かってきています」
超大軍が攻めてきてる! なんでどうして⁉
ボクたちは何に狙われているの⁉
「攻撃きます! 着弾まで10――」
レイのカウントダウンの後、天井から下方向に激しい振動が伝わってくる。
「やられた⁉」
「いいえ。防護フィールドが作動しています。施設に損傷はありません。フィールドの維持、問題ありません」
「お、おお……。さすが麻里さんの作った施設だ……」
今の爆弾(?)の直撃にも耐えられてる。
このまま籠城すれば……どうなるんだ? 自衛隊が来てくれる?
「この土地は私有地。治外法権です。国の保護下にはないため、自衛隊による援助は望めません」
「え、ヤバいじゃん! どうするの⁉」
「十分に誘い込んでから一網打尽にします」
一網打尽って……。どうする気なのさ⁉
「ファイナルデストロイヤーによるアルティメットアタックを敢行します」
「なんか……めっちゃすごそう……」
いったいどんな攻撃なんだ。
「周囲100kmの生物、および電子機器等、あらゆるものの活動を停止させます」
やだ怖い。
「大丈夫です。この施設にいる限りかえでくんは安全です」
レイさん頼もしい……。
でも100kmって、ずいぶん広くない? それって私有地の範囲内なの?
「いいえ。敵の本体を中心にアルティメットアタックを仕掛けるため、私有地の範囲外です」
「それは日本国内に向けてミサイルかなんかを撃つってことになるのでは? ボクたち、法で裁かれてしまいますよね?」
大問題になるのでは?
「かえでくんだけは守ります」
答えになっていないような……。
「師匠がすべてもみ消します」
それはありえそう。
「再び敵の攻撃がきます。着弾後、こちらも仕掛けます」
え、やっちゃうの⁉ アルティメットアタックしちゃうの⁉
「カウント10――」
ねえ、大丈夫なのこれ⁉ ホントに⁉
さっきよりもかなり強い振動が部屋全体を襲う。
ヤバいよ……。確かにグズグズしていると施設が破壊されてしまうかも⁉
「ファイナルアタック」
ああっ! 周囲100kmの生き物がああああああ!
「レイ、やっぱりダメー!」
ん……あれ?
レイがいない。そしてボクはベッドの上……。これは……。
「……夢、か?」
なんて夢だ……。
急に敵に爆撃されるなんてシャレにならないよ……。
と、部屋全体が大きく揺れる。
「ホントに爆撃⁉」
まさか⁉
慌ててベッドを飛び出し、隣の控室へと走る。
みんな大丈夫か!
「みんな、無事⁉」
控室の扉を蹴り開けて飛び込む。
「あれ? カエデちゃんおはよう。よく眠れた?……誰?」
きょとんとした顔のハルル。
「ハルル、何言ってるの? 今ものすごく揺れたよね……。まさか攻撃を……?」
「はい。攻撃です」
やっぱり⁉
緊急マニュアルの出番⁉
「さつきさんとはるさんがケーキの取り合いをして暴れて、大変なことになっていました」
え、ケーキの取り合い?
「かえでくんが寝ていた部屋はここの隣ですから、衝撃が伝わったのでしょう」
いやでも爆撃みたいな振動で……。
ケーキの取り合いでそんなに⁉
「ファイナルアタックは緊急時にしか許されていませんから、ケーキの取り合い程度では作動させませんのでご安心ください」
だよね……。
周囲100kmを荒廃させるのはダメだよね……。
それにしても恐ろしい夢だった……。
「カエ……モミジちゃん……?」
不思議そうに首を傾げるハルル。
「わ~い、モミジちゃんです~」
笑顔満開で近寄ってきたメイメイに、ボクは抱き上げられた。
モミジちゃんって……ああっ、ボクの体、縮んでいる⁉




