第11話 親子で楽しむ演劇~雨の雫と妖精と~その4~白熱の雨しりとり
「じゃあ、しりとりを始めるよ~。最初の手拍子のリズムはゆっくりね。これくらいの速度で~」
パン、パン。
マキが手拍子でお手本のリズムを刻んでいく。
「しりとりの言葉を考えて言うのは、わたしたち妖精さんじゃなくて、舞台上のお友だちにお願いするからね~。リズムに合わせて大きな声でよろしく~! どうしても思いつかなかった時だけ、妖精さんにバトンタッチしてね」
舞台上の子どもたちがコクコクと首を縦に振って頷く。
自信がありそうな子、緊張してそうな子、それぞれだけど、みんながんばっていこうね。
ボク、黄ちゃんのパートナーは、黄色いTシャツのちょっとぽっちゃり体系の男の子だ。……この子、めっちゃぼんやりしてる! 不安だ!
「おーい、キミ大丈夫? しりとりできそう?」
小声で話しかけてみる。
「お腹減った……カレー食べたい」
おい! カレー! まさかの見た目通り! お前が初代イエローなのか⁉
「カレーは……今はないかな……。あとでお母さんに作ってもらうのはどう?」
「ママはいない。パパときた」
おう……複雑な家庭なのか。でもそんなに気にした風でもなさそう。
「そっか。じゃあご飯はいつもパパに作ってもらうの?」
「パパは仕事忙しいから、いつもウーバーイーツだよ」
おう、つらい……。
なんてつらいんだ……泣けてきちゃう。
「そっか……。じゃあ今日がんばってしりとり対決で勝ったら、ウーバーイーツでカレーパーティーだね」
「お姉ちゃんも一緒にカレーパーティーする?」
期待に満ちた純粋な目で見つめられてしまった。
「えーと、お姉ちゃんは……どう、かなー。このあとお仕事があるかなーとか」
こういう場合どう答えたら傷つけずに断れるの⁉
誰か教えて!
って、レイと念話がつながらない!
「ボク、がんばって優勝するから、一緒にカレーパーティーしようよ」
「えーと、そうだね……。パパがいいよって言ったら、かな?」
「わかった! 優勝してパパに頼む! がんばるぞ~! お姉ちゃんに優勝をささげるぞ~!」
イエローが急にやる気に!
そんなにカレーが食べたいのか! さすが初代イエロー!
「お姉ちゃん!」
「ん、何?」
「優勝したら一生僕とカレーパーティーしよう!」
「いや、それはちょっと……」
プロポーズっぽいじゃん。
しかも一生カレー……。
「じゃあ優勝したら結婚しよう!」
完全にプロポーズじゃん!
「それは困る……」
面倒な子に絡まれてしまったぞ……。誰か、助けて!
レイに視線を送るも、まったくこっちに気づいてくれない。
「それは困りますね。黄ちゃんは私、黒ちゃんと結婚する約束をしているのですよ」
と、黒ちゃん(ボンバー仮面V3)が話に割り込んできた。
「おい! お前何を言って!」
「おやおや、照れ隠しですか。黄ちゃんはいつも本当にかわいいですね」
「お姉ちゃん、コンヤクシャがいたの。末永くおしあわせにね!」
あっさり身を引くイエロー。
イエロー、それは誤解だ! あと、潔すぎるぞ! 本番のプロポーズの時はもうちょっと粘れよ!
「黒ちゃんが勝ったら、黄ちゃんと結婚しましょう」
「お前は黙ってろっ!」
「ははは。黄ちゃんは昔からずっとかわいいですね」
なんなんだ、コイツ……。
まさかボクを助けたつもりなのか。不快でしかないんだけど……。
* * *
「は~い、じゃあこれから本番の『雨しりとり』を始めるよ~! 今の練習の感じで、雨か水に関係する言葉を大きな声で言おうね」
子どもたちが元気よく返事する。
意外と言ったら失礼なのかもしれないけれど、普通のしりとりだと誰も詰まったりとちったりする子がいなくて、勝負はつかず3周目に突入したところでマキが途中終了を宣言したくらいだ。『雨しりとり』になっても、長期戦になるかもしれないね。
「おしっ、イエロー! なかなか良かったよ! この調子でがんばろう!」
「イエロー?」
「キミ、黄色いTシャツを着てるからさ。あとカレー好きなんでしょ?」
「うん! カレー大好き! お姉ちゃんもかわいいから好き!」
「お、おう……」
ちょっとドキッとするじゃんか。
このくらいの年齢の子って、怖がらずに好き嫌いがはっきり言えていいなあ。毎日が楽しそうだ。ボクもこれくらいの時には好きな子がいたりしたのかな……。よく思出せない。
「白ちゃんから始まる~、『雨しりとり』! 最初の言葉は『あ~め』」
パン、パン。
「めだか!」
白ちゃん(マキ)の前の子が元気よく大きな声で叫ぶ。
パン、パン。
「かたつむり!」
朱ちゃん(ハルル)の前の子が叫ぶ。
パン、パン。
「り、竜宮城!」
蒼ちゃん(メイメイ)の前の子。いや、難しいの言ったな!
パン、パン。
「うみ!」
藤ちゃん(レイ)の前の子。
パン、パン。
おし、イエローいけ!
「みず!」
いいぞ、イエロー!
パン、パン。
「ずわいがに!」
黒ちゃん(ボンバー仮面V3)の前の子、やるな!
『す』でもいいのに、『ず』のままできた。
パン、パン。
「に、に、……パス!」
白ちゃん(マキ)の前の子が悩んだ挙句、ぎりぎりにパス!
おっと⁉
「おお⁉ わたしか!」
完全に油断していたマキにバトンが渡る。
パン、パン。
「に~~~~わか雨!」
パン、パン。
「「審議! 審議!」」
ハルルとボクが同時に手を上げる。
審議ランプが点り、ゲームは中断だ。
「なによ! なんか文句あるのか~⁉ おおん、こらぁ⁉ カレー、こらぁ⁉」
シンプルな恫喝。
妖精さんがそんな態度取って良いわけ?
「『雨』ってついてるじゃん。雨は最初に言った言葉だから失格でしょ!」
「そうだそうだ~! 白ちゃん失格よ!」
ハルルが援護のヤジを飛ばしてくる。
「雨とにわか雨は違うでしょ! ねえ、みんな?」
会場の子どもたちに問いかけるマキ。
「おなじ~!」「雨だから一緒~」「雨!」「一緒!」と大多数の子どもたちから反対の声が上がる。
「ほらね。みんな雨とにわか雨は一緒だってさ。はい、白ちゃん失格!」
「う~。お姉ちゃん間違っちゃったみたい。ごめんね。あなたは悪くないよ」
マキが屈んで、今にも泣き出しそうなパートナーの女の子を抱きしめる。
おっと、やりすぎてしまったか……。ごめんごめん。
「じゃあじゃあ、2回戦やろうよ!」
切り替えていかなきゃ。
「お~し、次は負けないぞ! 2回戦やろう! 1回戦で使った言葉はもう使っちゃダメだからね!」
回を追うごとに難易度が上がるシステムだ。
白熱するね。
「じゃあ最初の言葉は……『氷』からいこうかな! 白ちゃんから始まる~、『雨しりとり』! 最初の言葉は『こおり』」
パン、パン。
「りゅうすい」
パン、パン。
と、まあ、意外や意外。
白熱しまくった『雨しりとり』は、なんと10回戦まで行われたのだった。
勝敗?
そ、そんなのどうだっていいじゃないの……。
白ちゃん(マキ):0勝
朱ちゃん(ハルル):1勝
蒼ちゃん(メイメイ):1勝
藤ちゃん(レイ):1勝
黄ちゃん(ボク):4勝
黒ちゃん(ボンバー仮面V3):3勝
おいー。イエロー! キミがんばりすぎだぞ!
結婚はしないからな⁉




